借金には時効があり、借りてから一定の期間一切返済を行わず、なおかつ相手に請求などを起こされなかった場合は借金がチャラになることがあります。ただし、ただ時間が経てばいいというわけではなく、一定の期間が経った後で所定の手続きをしなければなりません。
この手続を「時効の援用」と言います。借金から20年経とうが30年経とうが、時効の援用の手続きをしなければ借金はチャラになりません。今回は時効の援用で失敗しないためにはどうすれば良いのかを、詳細に解説していきます。
目次
5年もしくは10年間借金を払わないと時効の援用が出来る
時効の援用をするためには、まずは一定の期間借金を支払わない期間を作る必要があります。1円でも支払ってしまうと時効のカウントがリセットされ、また1から数え直しになってしまうので、時効の援用を本気で狙う場合はどんなことがあっても借金を返済してはいけません。
時効の援用までに必要な期間は5年、もしくは10年です。債権者が消費者金融や銀行などの場合は5年間、個人や住宅金融支援機構などの場合は10年間です。起算日は1度も返済をしなかった場合は初回の予定返済日の翌日、1度でも返済した場合は最後に返済した日の翌日です。
請求や差し押さえなどが行われるとカウントはリセットされる
債権者が請求を起こしたり、差し押さえや仮差押、仮処分などを行ったりすると、時効のカウントがリセットされます。また、債務者が債権を認める行為をする(借金を返済したり、支払いを待ってもらえないかと依頼したりする)とカウントはリセットされます。
債権者の行動はコントロールできませんが、時効の援用を狙う場合は絶対に借金を認めてはいけません。
一定の期間が経過したら配達証明付きの内容証明郵便で時効援用の手続きを
一定期間が成立したら、債権者に対して時効援用通知書を送付し「時効が成立したのでもう借金は払いません」と宣言する必要があります。
ただし、普通の郵便で宣言してしまうとその郵便を貰った貰わないの押し問答になる可能性がありますので、必ず配達証明付きの内容証明郵便で送る必要があります。
内容証明郵便には様々なルールがあるので、何も考えずに適当なフォーマットを使ってはいけません。内容証明郵便用の用紙が文具店などで販売されているので、それを使うのが最も確実です。
あるいは、内容証明郵便用のWordテンプレートを配布しているサイトも有りますので、そうしたサイトからダウンロードしても構いません。
どちらを使ってもいいですが、書き直しの面倒さを考えるとWordのほうが便利でしょう。ただし、間違ってフォーマットを崩してしまうと内容証明郵便としての効力が認められなくなってしまう可能性があるので注意が必要です。
用紙のサイズに制限はありませんが、手描きの場合は専用の用紙をそのまま使えばいいでしょう。Wordの場合はA4が一般的です。
内容証明郵便は原則20文字×26行で
内容証明郵便は縦書きの場合は1行に20文字、1枚に26行までと決まっています。横書きの場合は
・1行13字以内、1枚40行以内
・1行26字以内、1枚20行以内
のいずれか一つかを選択します。どちらを選択してもいいですが、手描きの場合は縦書き、Wordの場合は横書きが無難だと思います。
必ず記載する項目
時効援用通知書では以下の7つの事項を必ず記載します。
- 日付:通知書を送付する日付を記載します。
- 債務者(本人)名前と住所:時効の援用を受ける自分の名前と住所を記載します。
- 債権者の名前と住所:時効援用通知書を受け取る人の名前と住所を記載します。相手が企業の場合は会社名と代表者名を書きます。
- 債権の種類:通常は「貸付金」としておけばOKです。
- 契約日:契約日をそのまま記入します。
- 最終弁済日:最後にいつお金を払ったかを記入します。
- 残元金:借金があといくら残っていたのかを記載します。時効援用を受ける宣言:「すでに時効が成立する期間が成立しているので、消滅時効を援用する」とはっきりと宣言します。宣言の方法に決まったテンプレートはありませんが、*+例を紹介しておきます。
貴社は私に対し、貸金の請求をしておりますが、私が貴社より借り受けた金員は最終弁済期日より既に5年以上が経過しており、時効が完成しております。
契約番号:○○○○○○○○
生年月日:昭和○年○月○日生つきましては、私は貴社に対し、本書面を以って消滅時効を援用させて頂きますので、今後一切、私に対する請求は行わないで下さい。
万が一、電話やFAX・文書・訪問その他、方法の如何を問わず、取り立て行為が発覚した場合には、貸金業法第21条、又は刑法第249条・同250条の違反行為として、刑事告訴などの然るべき法的手段をとる所存ですので、ご承知おき下さい。
なお、もし貴社において時効中断処置を講じているとの主張をされるのであれば、その旨を証拠資料とともに、書面にてご回答頂けるよう、お願いします。
また、本書面受領後、遅滞なく、信用情報センターに対して、事故情報の抹消など適正な情報登録を行って下さい。万が一、適切な措置を講じないがために経済的な不利益や損害を被った場合には、別途、損害賠償請求をする場合がありますので、ご注意下さい。
もしも貴社が、法律上の利害関係が無い親族からの代位弁済などを受けていたような場合には、債務者の意思に反する弁済として、これを取り消し、別途、弁済者より不当利得返還請求を行う場合も御座いますし、貸金請求の訴訟や支払督促などの法的手続きを行われた場合には、別途、虚偽訴訟に対する損害賠償請求をするなどの然るべき法的手続きを行う所存ですので申し添えます。
草々
(引用元:内容証明net)
詳細な文章については専門家と相談して決めたほうが良いかもしれません。
文面を考えたら、いよいよ時効援用通知書を作成していきます。時効援用通知書は必ず、日本語で書かなければなりません。たとえ漢字を使っていても、韓国語や中国語では認められないので気をつけて下さい。
また、使える文字にも制限があります。使える文字はひらがな、カタカナ、漢字、数字(算用数字もしくは漢数字)、アルファベット(固有名詞に限る)、カッコ(「」()『』など)、句読点、句点、一般的な記号(%、㎡、①など)。記号はいずれも一つで一文字とします。
本文を訂正するときは、まず訂正する文字の上に訂正前の文字が確認できるように日本線を引きます。そしてその消した文字の近く(横書きの場合は上、縦書きの場合は右)に正しい文字を書き加えます。
そして、欄外もしくは末尾の余白に訂正した字数と箇所を「●行目×文字訂正」のように書き加えます。ルールが複雑でわからないという場合は、Wordを使ったほうが良いかもしれません。
枚数が②枚以上に渡る場合は、綴り目に契印を押します。この時の印鑑は、封筒に記載するものと同じものでなければなりません。差出人が二人以上いる場合は、差出人全員の印鑑を押す必要があります。
文面は全部で3つ用意します。一つが相手に送るもの、一つが自分用の控え、一つが郵便局が保存するものです。内容が同じであれば、3通をどうやって用意するかは個人の自由です。
カーボン紙を使って複写をするのが一番ラクかと思いますが、コピーをとっても、手書きで作っても構いません。
3つ文面を用意できたら、次に封筒を作成します。表に債権者の住所と氏名、裏に自分の住所氏名を書いて下さい。そしてその封筒に封をせずに、郵便局に持参します。
なお、郵便局の中には内容証明郵便を受け付けていないところもあるので、必ず事前に近くの郵便局に問い合わせをしておきましょう。
郵便局にいく際には、封筒と文面の他に印鑑を持っていきましょう。郵便局で訂正箇所が見つかったときに使います。窓口で配達証明付きの内容証明郵便にしたいと申し出れば、手続きをしてもらえます。
3通のうち1通は郵便局長印が押された上で返却されるので、それを控えとしてとっておきましょう。
料金は内容証明郵便台が420円(2枚目以降がある場合は1枚毎に250円加算)、普通郵便料金(定形郵便物25gまでの場合は82円)、書留料金430円(損害要償額が10万円までの場合)、配達証明料金が300円かかります。念のために3000円ぐらい用意しておきましょう。
インターネットでも内容証明が送れる
近くに内容証明郵便を送れる郵便局がないという場合は、インターネットを用いて送付することもできます。これを電子内容証明と言います。
かつては専用のソフトウェアがないと作成できなかったのですが、現在はウェブブラウザ上から利用できるようになっています。
電子内容証明を利用する場合は事前に利用者登録が必要になります。また、特定のOS,ワープロソフトとウェブブラウザの組み合わせでなければ使用できないので注意が必要です。
OS | ブラウザ | 文書作成ソフト*2 |
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利用者登録は「e内容証明」という専用のサイトから行います。
電子内容証明の利用にはお金がかかります。支払い方法はクレジットカード払いか料金後払いのどちらかです。基本的にはクレジットカードのほうが手間もかからず便利でしょう。
電子内容証明には文字数は行数の規定がありませんが、そのかわり
- 枚数は5枚まで
- 文字サイズは10.5ポイントから14.5ポイントまで
- A4縦置きの場合は余白が上左右に1.5cm以上、下7cm以上必要、A4横置きの場合は 上下右1.5cm以上、左7cm以上必要
- といったような、電子内容証明特有の制限もあります。
エラーが有る場合はその旨が警告されるはずなので、エラーメッセージに基づいて訂正して下さい。
完成したらインターネットを通じて郵便局に提出します。提出は24時間いつでも受け付けています。提出後に控えが送られてきますので、それを保存しておきましょう。
内容証明郵便の控えを紛失した場合は郵便局で再発行ができる
内容証明郵便の控えは、なくさないように保存しなければなりませんが、万が一紛失してしまった場合は再交付を受けることができます。
控えは万が一裁判に発展したときなどに重要な証拠となるので、なくしてしまった場合はすぐに再交付を受けましょう。再交付にかかる料金は通常430円で、1枚追加するごとに260円加算されます。
内容証明郵便は自分で書くべきか、それとも専門家に任せるべきか?
内容証明郵便は上記の書き方に従って掛けばだいたい正しいものが書けるでしょうが、必ず正しいことを書けるとは限りません。法律の知識が間違っていたり、勘違いがあったりすると後で損をするかもしれません。
自分で作成するのは不安だという場合は、行政書士や弁護士に依頼してもいいでしょう。行政書士や弁護士が関わっているとこちらが安心できるだけでなく、相手にプレッシャーを与えることもできます。
時効援用にはデメリットも有るので、それを考慮した上で行おう
時効援用は借金がチャラになる大きな制度ですが、一方でデメリットがないわけではありません。
まず、現実的な問題として、そもそも時効援用はなかなか成立しないものです。債権者は債務者が借金を踏み倒そうとしていることがわかれば、当然対策を取ってきます。
裁判を通じて請求したり、差し押さえをしたり、債務の承認をさせようとしたりして、時効までの時間をリセットしようとしてきます。
債務の承認は無視し続ければ良いかもしれませんが、請求や差し押さえは無視できません。お金を貸す事と回収することにかけてはプロである金融機関が、みすみす指を加えて時が経つのを待ってくれるわけはありません。
もし時効がリセットされてしまったら、元本だけでなくそれまでに発生していた金利や遅延損害金も支払わなければなりません。以下に借金がチャラになるメリットが有るとは言え、このリスクは許容できない当方も多いでしょう。
そして、時効の援用が成立すると、基本的に今後借金をすることはできなくなってしまいます。時効援用をすると、そのことが個人信用情報として残ってしまうからです。
住宅ローンやカーローンはもちろん、クレジットカードも作れなくなってしまいます。今後人並みの生活をおくるのはかなり厳しくなります。
時効の援用だけでなく債務整理も検討しよう
すでに時の援用ができる手はずが整っていて、なおかつ今後借金ができなくなっても問題ないという方は、そのまま時効の援用をしてしまったほうが良いかもしれません。
しかし、事項の成立までまだ時間が合ったり、今後借金ができなくなると困るという場合は、時効の援用よりも債務整理で借金を少なくした方がいいでしょう。
債務整理は費用がかかるものの、正式に認められた手続きなので時効の援用を待つ必要も、そのあいだ請求や差し押さえに怯えながら暮らす必要もありません。債務整理を弁護士に依頼すれば、請求もピタッと止みます。
債務整理と言っても種類は様々で、債務の減額幅も少ない代わりにデメリットがほぼない任意整理から、デメリットも大きいが借金もチャラになる自己破産まで様々です。自身の債務の額に応じた選択肢を選べるのも、債務整理のメリットです。
時効の援用を受けるか、債務整理をするかで迷っている方は、まずは弁護士に相談してみて下さい。