借金をしている人はその額を過小評価する傾向にあります。借金に日常的に浸かっていると「これくらいの金額だったらもう少し借りても大丈夫……」という慢心が生まれ、ついつい無駄な借金を重ねてしまいがちです。
そうして漫然と借り入れを行った結果、何年も借金返済を続けて、最後に債務整理までたどり着くという人は少なくありません。
では、いったい借金は年収の何%を超えた時点でアウトになるのでしょうか。
なぜ人は借金の額を過小評価してしまうのか
心理学用語および医療用語の一つに、正常性バイアスというものがあります。正常性バイアスとは言ってみれば、非常に薄弱な根拠で「自分だけは大丈夫」と思い込む考え方のことです。
もう少し詳しく言えば、予期しない事態に対峙した時に「そんなことはあり得ない」という先入観が働き、その出来事が正常の範囲内だと認識してしまう心のメカニズムです。
たとえば火災発生後すぐに建物から逃げていれば助かったのに、大丈夫だと根拠なく思いこんでしまって避難を怠った結果死亡する、というのは正常性バイアスが働いてしまった結果といえます。
正常性バイアス自体は生きていく上で重要なものです。何か起こるたびにいちいち反応していたのではストレスで精神をやられてしまいますからね。
しかし、正常性バイアスが度を超えて動作し、明らかに異常な事態(多額の借金)に直面してもなおそれが正常だと思い込むようになってしまうと非常に危険です。
例えば、何年も借金を返済し続けていると、それが当たり前になってしまい、そのあとに待っているのは債務整理しかないからです。
カードローンやキャッシング利用者は特に危機意識が薄い
住宅ローンや自動車ローンなどは一時的に債務が数百万から数千万円に達するものなので、利用者側も危機感をもって返済します。
しかし、カードローンやキャッシングは債務がせいぜい100万~200万程度にしかならないので、利用者に危機意識がなかなか生まれにくいです。お金にだらしない人ならなおさらです。
その結果過剰な借り入れを行ったり、利息の支払いばかりがかさんで元本がなかなか減らなかったり、というような事態が起こるのです。
住宅ローンや不動産ローンは年収の20%を超えてもOK
なお、例外として住宅ローンや不動産ローン(不動産投資のためのローン)はそれを超えても問題ないとされています。これらの借金は原則として年収の500%(5倍)程度に収めるのがいいとされています。
そのほか、教育ローンや自動車ローンなどもある程度は増えても大丈夫とされています。もちろん借金のし過ぎはよくない事態を招く可能性があるので注意は必要ですが。
カードローンの借金が年収の20%を超えたら「異常事態」
現代日本には年収の3分の1(≒33%)以上は融資を受けられない総量規制という制度があります。しかし、総量規制の範囲内で借りていれば必ずしも安全というわけではありません。
総量規制をしっかりと守っていたのに、債務整理にまで行きついてしまったという方は少なくないのです。
では、借金が何%を超えたら異常事態だと認識したらいいのでしょうか。もちろん、借金の種類や金利は様々なので一概には言えませんが、一般的には借金が年収の20%を超えたら異常事態であるとみなしたほうがいいとされています。
仮に年収が500万だった場合、年収の20%は100万円です。100万円と聞くと大した額ではないようにも思えます。この「一見大した額ではないように思える」というのが曲者なのです。
ちょっとシミュレーションしてみましょう。借金額が100万円で金利は15%、返済方法は元金均等方式、4年で借金返済することにします。この場合、毎月の支払額は2万7830円になります。
4年間もの間、2万8000円近い返済を行っていくのは簡単なことではありません。その間は新たな借り入れもしづらいですし、贅沢もできません。
何年で借金返済するにしても、生活費もカツカツになりがちですし、住宅ローンなども組みづらいです。この生活に耐えられるという方は、なかなかいないのではないでしょうか。
複利の恐怖
借金がなかなか減らない理由として、複利が挙げられます。金利の計算方法には単利と複利がありますが、複利はより借金が大きくなりやすい仕組みだと考えて下さい。ほとんどの場合、借金の金利は複利で計算します。
単利は借金の元本にのみ金利がかかる
単利とは簡単に言えば、借金の元本にのみ金利がかかるものです。たとえば、最初に100万円を単利10%で借りたとします。この場合、1年後の借金返済額は100万+100万×10%=110万円になります。
2年後は110万円+100万×10%=120万円、3年後は120万円+100万×10%=130万円……といった感じで、毎年10万円ずつ借金が増えていきます。つまり、借金が一定のペースで増えていくわけですね。
複利は借金の元本と利息に金利がかかる
複利とは簡単に言えば、借金の元本と利息に金利がかかるものです。たとえば、最初に100万円を単利10%で借りたとします。この場合、1年後の借金は100万+100万×10%=110万円になります。ここまでは単利と同じです。
しかし、2年目は110万円++110万×10%=121万円、3年後は121万円+121万×10%=132万1000円……といった感じで、単利よりも急激なペースで借金が増えていきます。借金がより増えやすいのが複利の特徴といえます。
具体的にシミュレーションしてみましょう。仮に100万円を金利15%で借りるとした場合、以下のように借金が増えていきます。
年数 | 単利 | 複利 |
1年目 | 115万円 | 115万円 |
2年目 | 130万円 | 132万2500円 |
3年目 | 145万円 | 152万0875円 |
4年目 | 160万円 | 174万9006円 |
5年目 | 175万円 | 201万1357円 |
6年目 | 190万円 | 231万3061円 |
7年目 | 205万円 | 266万0020円 |
8年目 | 220万円 | 305万9023円 |
9年目 | 235万円 | 351万7876円 |
10年目 | 250万円 | 404万5558円 |
まったく同じ額を同じ金利で借りたにもかかわらず、10年後の借金の額には150万円以上の差がついてしまいました。利息にも金利がかかる複利の怖さがご理解いただけたかと思います。
リボ払いの恐怖
借金の返済がなかなかスムーズにいかない理由の一つにリボ払いが挙げられます。リボ払いとは簡単に言えば、毎月一定の額を返済していく払い方です。
分割払いと似ていますが、リボ払いの場合は借金を重ねても毎月の支払額は増えず、代わりに返済期間が延びていくという特徴があります。
毎月の支払額が変わらないので一見、ユーザーに優しそうに見えます。しかしその実態はまるで逆で、リボ払いは金融機関側にとって都合がいい返済方法なのです。
リボ払いをいくら利用しても、毎月の支払額は一定です。そのため、借金をしているという自覚もなかなか生まれにくく、何年で借金の返済を完済するという意識もないでしょう。
借金をしている自覚がなければいいやいいやとさらに買い入れを増やしてしまうことになり、知らない間に利用額が膨れ上がっていたということも珍しくありません。
仮に毎月1万円の支払いでも、それが5年、10年、15年と続くとしたら非常に大変です。これでは何年払ったら借金返済が完済出来るのか分かりません。リボ払いは知らない間に債務が増えていく、悪魔の支払方法といっても過言ではないでしょう。
また、リボ払いはほかの返済方法と比べて返済総額が多くなりやすい返済方法でもあります。たとえ過剰な借り入れを行わなかったとしても、返済総額が増えるので利用はお勧めできません。
具体的にシミュレーションしてみましょう。仮に借金が100万円、金利が15%、毎月の返済額が2万円の場合について考えます。この場合、リボ払いで返済を行うと、返済回数は79回、返済総額は157万9052円になります。
一方、同条件で元金均等方式を選んだ場合、総返済額は151万3606円になります。リボ払いのほうが、6万円以上も総支払額が大きくなっています。このようにリボ払いにはさまざまな落とし穴があるのです。
借金が年収の20%を超えてしまった時にやるべきこと
現時点ですでに借金が年収の20%を超えている人がやるべきことは大きく分けて2つ。ローン一本化か、債務整理です。
ローン一本化は毎月の支払額を減らし、返済を楽にする効果がある
ローンの一本化は複数の金融機関から借り入れを行っている場合に有効な手段です。別の金融機関からまとまった額の借り入れを行って複数の金融機関からの債務をすべて返済し、残った別の金融機関への借金は地道に返していきます。
ローン一本化のメリットは、信用情報に影響を与えないことです。債務整理を行うと信用情報に傷がつき一定の期間カードローンやキャッシングはもちろん、住宅ローンなども利用できなくなってしまいますが、ローン一本化は債務整理などではないので信用情報に傷がつきません。
また、借り換え先の金融機関の金利が元の金融機関の金利よりも低ければ、当然毎月の支払額や総支払額は安く抑えられます。借金の総額を減らし、なおかつ信用情報にも傷がつかない一石二鳥の方法といえます。
債務整理は場合によっては借金がチャラになる
一方、債務整理とは話し合いや法的手続きによって、合法的に借金を減らしたりチャラにしたりする仕組みのことです。債務整理の中でも代表的なものが任意整理と自己破産です。
任意整理は債務者と債権者の間で話し合いを行い、金利や元本をカットする仕組みのことです。話し合いなので相手が必ず応じてくれるとは限りませんが、弁護士や司法書士などの専門家を立てればたいていの場合はうまくいきます。
自己破産は裁判所を通じて、合法的に借金をチャラにする仕組みのことです。20万円以上の価値がある財産などは手放すことになりますが、任意整理と違い債務は0になります。
債務整理のメリットは借金そのものの額が減ることです。ローン一本化はあくまでも金利の安いところに借り換えることによって間接的に借金を減らすことしかできませんが、債務整理ならば直接元本は金利が減らせます。
反面、信用情報に傷がつく、自己破産の場合は大きな資産を失うなどのデメリットもあります。
困ったらまずは専門家に相談を
借金が増えすぎて返済が滞りそう、もしくは滞ったという場合はあ、弁護士や司法書士などの専門家に相談するようにしましょう。彼らは借金問題に関してはプロフェッショナルなので、すぐにとるべき最善の行動を教えてもらうことができます。
一人で悩んでいてもいい考えは浮かびません。困ったらまずは弁護士事務所の無料相談などを利用してみてください。