貯蓄性保険は本当にお金を効率的に増やす事ができるのか?

お金を安全に運用できる金融商品の一つに、貯蓄型保険があります。貯蓄型保険とはその名の通りある程度の保障を受けながら、お金を貯めることもできる便利な保険です。

一見いい事ずくめの保険に見えますが、一方で利率があまり高くなかったり、インフレに弱いなどという欠点もあります。今回は貯蓄型保険が本当に有利な金融商品なのか、それとも別の金融商品を買ったほうがいいのかを、様々な観点から考えてみたいと思います。

掛け捨て保険と貯蓄型保険の違い

民間の生命保険会社が販売している保険は、大きく掛け捨て保険と貯蓄型保険に分類することができます。掛け捨て保険とは、その名の通り毎月の掛金を捨てる、つまり病気や怪我をしなかった時は掛け金戻ってこないタイプの保険です。

何もなかった場合は払った掛け金をまるまる失うことになりますが、保険料が非常に安く、安価で万が一の保証を受けるには適しています。

一方、貯蓄型保険は解約すると解約返戻金(満期の場合は満期金)がもらえる保険です。病気や怪我をしなかった場合でも返戻金が戻ってくるため、お得に見えます。その分保険料はかなり高く、相当収入に余裕がないと加入が難しい一面もあります。

掛け捨て保険と貯蓄型保険の比較

掛け捨て保険メリットは保険料が安く、貯蓄型保険のデメリットは保険料が高いということです。様々な保険があるので一概には言えませんが、貯蓄型保険は掛け捨て型保険の10倍程度の保険料になることも珍しくありません。

貯蓄型保険は将来お金がもらえるのが魅力ですが、その将来が来る前に保険料が払えなくなってしまっては元も子もありません。保険料を余りたくさん捻出できないという時は、安い掛け捨て保険を利用して、それとは別に貯蓄をしたほうがよいでしょう。

貯蓄型保険は予め利率が決められており、解約すると減る

貯蓄型保険の多くは固定金利で、予め利率が決められています。貯蓄型保険の総支払額に対する保険金額は返戻率と呼ばれます。

例えば保険料の支払額が500万円、解約返戻金が600万円という場合は、返戻率は600万円÷500万円=120%ということになります。

返戻率は保険ごとにまちまちで、また同じ保険でも加入したときの年齢や性別に左右されます。

また、この返戻率はあくまでも満期を迎えた場合の数字であり、途中で解約すると下がることがあります。場合によっては返戻率が100%を下回る、つまり支払った保険料総額よりもすくない解約返戻金しか受け取れないこともあります。

前述の通り貯蓄型保険は毎月の保険料がかなり高いため、家計が苦しくなると途中で解約したくなるかもしれませんが、解約してしまうと今度は解約返戻金が減るというジレンマに悩まされることになります。

これを考えても、やはり保険料が捻出できない人は掛け捨てを選んだほうがいい、ということになります。

貯蓄型保険の利率は低い

貯蓄型保険の利回りは保険商品によって違います。例えば、AIG富士生命 E-終身の場合、男性・20歳で契約すると、60歳で満期を迎え、返戻率は約123%になります。

60-20=40年間で約23%の利息がつくので、1年あたりの利率は約0.575%(単利)となります。この利回りは、お世辞にも有利とはいえません。

利率が1%にすら満たず、しかも複利効果を得られない、さらには中途解約をするとお金が減るというのは、金融商品としては相当難があると言わざるをえません。

利率が低く、なおかつ確定しているというのは、言いかえればインフレに弱いということです。例えば、20~60歳までの間のインフレ率が毎年1%であると仮定した場合、40年後には物価は約1.35倍、135%になっています。

物価が135%で返戻率が123%なのですから、実質的な資産は目減りしてしまうことになります。インフレ率1%というのは非常に現実的な数字であり、これ以上に上がることも考えられます。

利率が変わる貯蓄型保険もあるが、解約返戻金が100%を割ることもある

最近はこうした一般的な貯蓄型保険のデメリットをカバーできる、変動金利に対応した貯蓄型保険も増えてきています。例えば、三井住友海上あいおい生命の「積立利率変動型終身保険」は、契約後の経済情勢に応じて、積立利率が変化します。

最低保証利率は1.25%、一度上がった場合は下がることはありません。将来金利が上昇した場合はその恩恵を得られるという点では、通常の固定金利型の貯蓄型保険よりも優れています。

一方で金利が低いまま推移した場合、解約返戻金が100%を下回ってしまうこともあります。例えば積立利率が1.25%のまま推移した場合、返戻率は71.5%となります。

利率がプラスなのになぜ返戻金が100%を超えないのかと思われるかもしれませんが、保険会社は保険料の一部しか積み立てていません(残りは手数料や他の顧客の保険金支払いに回されます)。なので積立利率がプラスでも、解約返戻金が100%を下回ることになるのです。

生命保険会社には倒産リスクがある

生命保険会社は民間企業の一種なので、当然倒産するリスクがあります。大企業が多い生命保険会社が今日明日、あるいは数カ月後にいきなり倒産するということはないでしょうが、10年、20年先はわかりません。

国内で事業を行う生命保険会社は外資系も含めて生命保険契約者保護機構(以下保護機構と表記)という団体に加入しています。この団体は加入者の生命保険会社が倒産した場合に、保険契約の移転や保証対象の保険金支払いなどの援助を行います。

生命保険会社が倒産すると、保護機構はまずその会社の業務を引き継いでくれる「救済保険会社」を探します。

救済保険会社が現れた場合、破綻保険会社の保険契約は、救済保険会社が継続します。保護機構は救済保険会社に対して資金援助を行い、契約の移転や株式取得などをサポートします。

一方、救済保険会社が現れなかった場合は、保護機構の設立する子会社が事業を承継するか、もしくは保護機構自身が自ら事業を継承します。どちらの場合でも、契約自体は続きますので、いきなり加入していた保険を強制的に解約させられることは通常ありません。

財務状況次第で利率や保障が下がることも

しかし、倒産した企業の財務状況によっては、責任準備金が減らされることもあります。責任準備金とは、生命保険会社が将来の保険金支払いのためにプールしておいているお金のことです。

倒産した場合、責任準備金の90%までしか補償されません。それ以上は補償されたりされなかったりです。補償されなかった部分は事業の更生計画などに使われます。

責任準備金が減れば当然、返戻率も引き下げられる可能性が高いです。貯蓄型保険のような長期かつ貯蓄性の高い保険は、その減少幅も大きくなりがちです。掛け捨て型でも保険金額が減少することがありますが、保険金の減少幅は小さく抑えられることが多いです。

20代、30代の若い人が満期を迎えて解約返戻金を受け取るのは、20年以上あとのことであり、その時まで生命保険会社が問題なく存続しているという保障はどこにもありません。

どんな企業にも寿命がある以上、あまりにも長すぎる契約は避けたいものです。倒産リスクを大きく見るのならば、最低1000万円が保証され、いつでも引き出せる普通預金のほうが良いかもしれません。

貯蓄型保険は自動的にお金を貯められる

ここまで貯蓄型保険の短所、デメリットを中心に紹介してきましたが、もちろん貯蓄型保険にも良いところがあります。貯蓄型保険の優れているところとして、特に何か手続きをしなくても自動的にお金が貯められる、ということが挙げられます。

人間というのは弱い生き物で、手元にお金があるとそれが将来必要になるとわかっていてもついつい使ってしまうものです。貯蓄性保険は毎月自動的に口座からお金が引き落とされていき、お金が溜まっていくため、ついつい使ってしまう心配がありません。

解約すると返戻金が減ってしまう上、解約自体に手間がかかるので、途中解約に踏み切ってしまうリスクも余りありません。手元にお金があると使ってしまう、自制心に自信がないという方は、貯蓄型保険で強制的に引き落としてもらったほうがいいかも知れません。

貯蓄型保険は生命保険料控除の対象で、税金が安くなる

貯蓄型保険に入ると、生命保険料控除を受けることができます。生命保険料控除とは所得控除の一種で、保険料の一部を所得から控除し、所得税や住民税を軽減できる制度のことです。

われわれが毎年払っている所得税や住民税や、「収入」から「経費」を引いた「所得」から、さらに「所得控除」を引いた「課税所得」に「税率」を書けることによって計算されます。

つまり、所得控除が大きくなるほど課税所得が小さくなり、所得税や住民税は少なくなるのです。所得控除には配偶者がいる人が対象の「配偶者控除」や障害者が対象の「障害者控除」、高額な医療費を支払っている人が対象の「医療費控除」などがあり、生命保険料控除もその一種です。

生命保険料を支払っている場合、年間の支払保険料に応じて、その金額の全部もしくは一部が控除されます。控除額は新契約(2012年1月1日以後の契約)と旧契約(それ以前の契約)によって異なります。それぞれ以下のようになっています。

新契約に基づく控除額

年間の支払保険料等 控除額
20,000円以下 支払保険料等の全額
20,000円超 40,000円以下 支払保険料等×1/2+10,000円
40,000円超 80,000円以下 支払保険料等×1/4+20,000円
80,000円超 一律40,000円

旧契約に基づく控除額

適用する生命保険料控除 控除額
新契約のみ生命保険料控除を適用 (1)に基づき算定した控除額
旧契約のみ生命保険料控除を適用 (2)に基づき算定した控除額

新契約と旧契約の双方について

生命保険料控除を適用

(1)に基づき算定した新契約の控除額と(2)に基づき算定した旧契約の控除額の合計額(最高4万円)

例えば、新契約で年間保険料が12万円の場合、控除額は4万円となります。所得税が20%、住民税が10%の場合、4万円×(20%+10%)=1万2000円ほどの節税になります。

外貨建貯蓄保険は予定利率は高いが、円高リスクがある

ここまで紹介してきた貯蓄型保険は、日本円で積み立てて日本円で受け取るというものでしたが、生命保険会社によってはドルやユーロ、豪ドルなどの外貨で積立て、あるいは受け取る外貨建貯蓄型保険を取り扱っていることがあります。

外貨建保険は日本円よりも高い予定利率で運用されるため、貯蓄性という点では通常の日本円建貯蓄保険よりも有利になっています。また、予定利率が高いぶん、保険料は割安です。

さらに、外貨で資産を持つので、リスクヘッジにもつながります。保険にかかわらず世界に分散して投資するのは投資の基本であり、外貨建貯蓄性保険は面倒な手続きなしに外国に資産の一部を移せるという点で優秀です。

一方、デメリットとしては為替リスクがあることがあげられます。満期金や解約返戻金を受け取る時点で円高外貨安になっていると、日本円に直したとき元本割れする可能性があります。

逆に円安外貨高になっていれば、日本円に直したときの利率が更に高くなる可能性もあります。そして将来円高になるか円安になるかは誰もわかりません。

将来1ドル=50円ぐらいになると予測しているエコノミストもいれば、1ドル=160円ぐらいになると予測しているエコノミストもいます。詳しい人の間でさえ予想がばらばらになるのですから、われわれ素人に予想することなどほぼ不可能です。

リスクを取りたくない場合は、外貨建は避けたほうがいいかもしれません。

貯蓄型保険以外にもおすすめの投資がたくさんある!

貯蓄型保険にはメリットとデメリットがありますが、現時点ではデメリットが大きく、必ずしもオススメできません。。以下に紹介する他の投資も考慮した上で、取り組む投資を決定してください。

個人事業主や経営者ならば小規模企業共済が貯蓄型保険より圧倒的に有利

まず、個人事業主や経営者の方は、貯蓄型保険に入ることは全くおすすめできません。貯蓄型保険で将来に備えくらいなれば、小規模企業共済の方を断然オススメいたします。

小規模企業共済は、国が運営する、個人事業主や経営者のための退職金制度です。毎月一定の掛け金を拠出し、あとでまとめてお金を受け取るという点では貯蓄型保険と代わりありませんが、小規模企業共済は貯蓄型保険よりも以下の点で優れています。

掛け金が全額所得控除になるため、節税効果が大きい

小規模企業共済の一番のメリットは、掛け金が全額所得控除になることです。前述の通り、生命保険料はその額が高くなると、一部しか控除されないため節税メリットはどうしても少なくなります。

例えば生命保険料を毎年12万円払っても、控除は4万円にしかならないため、仮に所得税20%、住民税10%だった場合、節税額は4万円×(20%+10%)=1万2000円にしかなりません。

一方、小規模企業共済の掛け金は、全額を小規模企業共済等掛金控除で控除することができます。例えば毎年12万円支払った場合は控除も12万円になりますし、30万円払えば控除も30万円になります。仮に毎年12万円支払って所得税20%、住民税10%だった場合、節税額は12万円×(20%+10%)=3万6000円となります。

返戻率が高い

小規模企業共済の返戻率は原則120%です。ただし、貯蓄型保険と同様に、早い段階で解約をしてしまうと元本割れしてしまうこともあるので注意が必要です。

共済金は退職所得扱いされるため、税金が少なくなる

共済金をもらう時は、原則退職所得として扱われます。退職所得とは退職金の所得のことで、通常の給与所得などとは分けて考えられます。退職所得は給与所得と比べてかなり税制上優遇されているため、支払う税金は少なくなります。

掛け金を簡単に増減できる

小規模企業共済の掛け金は、加入者が決めることができます。月額最低1000円、最高7万円まで支払えます(500円刻み)。また、特別な事情がなくとも、決められた手続きを行えば自由に増額したり、減額したりできます。

収入が一時的に少なくなってしまった場合でも、毎月1000円ずつ払っておけば加入期間を伸ばせるため、返戻率を高くすることができます。逆に収入が増え余裕ができた時は掛け金を増額し、所得控除の額を大きくして大幅に節税することも可能です。

融資制度がある

小規模企業共済の加入者は、融資を受けることができます。融資には事業資金を貸し付ける一般貸付、災害や病気の被害で経営に支障が生じた場合に借りられる傷病災害時貸付などがあります。

現時点では一般貸付の利率が1.5%、その他の貸付が0.9%とかなり低金利に設定されているため、銀行のビジネスローンなどを利用するよりも断然有利です。

破綻リスクが少ない

小規模企業共済は独立行政法人中小企業基盤整備機構法にもとづいて設立されている組織です。独立行政法人とは、政府の事業の内、独立して運営したほうが効率的な運営ができると見込まれ、切り離された法人のことです。

行政官庁(中小企業基盤整備機構の場合は経済産業省)から運営資金を受け取り、そのお金を裁量的に使って運営します。一般的な民間企業に近い一面もあるものの基本的には政府が大きく関与しています。

そのため、破綻のリスクは少なく、万が一の際には公的資金の注入なども考えられるため、民間の生命保険会社よりは破綻リスクが少ないです。

なお、現在の小規模企業共済のポートフォリオ(資産の組み合わせ)は、国内債券が構成比で約68.8%と、かなり手堅い運用になっています。

会社員や公務員の場合は?

では、小規模企業共済に加入できない会社員や公務員はどうやって資産を増やしていけばいいのでしょうか。

定期預金は金利も低いが低リスクで安全

まず、極力リスクを取りたくないという場合は、銀行の定期預金をおすすめします。定期預金の金利は銀行によってまちまちですが、オリックス銀行などの比較的金利が高いところなら0.20%つきます。

貯蓄型保険よりも金利は低いですが、その分中途解約しても元本保証が受けられる、預金保険の対象となり1000万円まで保証される、契約期間が短いので破綻リスクが小さいなどの長所もあります。とにかく元本割れを起こしたくないという場合は定期預金がおすすめです。

確定拠出年金は60歳まで受け取れないが老後の資産形成に最適

確定拠出年金とは、「iDeCo」(イデコ)とも呼ばれる新しい年金制度です。かつては個人事業主や経営者、一部の会社員しか加入できなかったのですが、現在はそれに加えて原則全ての会社員、公務員が加入できるようになりました。

確定拠出年金とは簡単に言えば、年金資産を作るための投資信託のようなものです。自分自身で投資先のファンドという金融商品を決めると、あとの運用はファンドマネージャーという運用のプロが行ってくれます。

原則として60歳まで解約できないという点では貯蓄型保険と似ていますが、貯蓄型保険にはないメリットも少なくありません。

確定拠出年金の優秀なところは、運用益が全額非課税になることです。毎年いくら利益をあげようが、受け取り時まで1円たりとも税金を支払う必要はありません。

また、小規模企業共済と同じく掛け金全額が所得控除の対象となる上、受け取り時にも税制上の優遇制度があるので、総じて税金が取られづらい制度であるといえます。

確定拠出年金は個人単位の年金なので、破綻リスクはありません。関係する金融機関が破綻しても、資産は守られます。

その代わり、運用に対する責任は全て自分で背負わなければなりません。損失が出た場合は、それがダイレクトに自分に跳ね返り、将来受け取れる年金額が少なくなります。

NISAは運用益非課税で、取り出しも自由

NISAとは、株式や投資信託などで得た運用益が原則として非課税になる制度です。金融機関でNISA専用の口座を開き、そこで投資をします。原則として20歳以上なら誰でも取り組むことができます。

運用益が非課税になるという点では確定拠出年金と似ていますが、こちらは60歳までまたなくても、いつでも好きな時に引き出すことができます。反面、掛け金が所得控除とならないため、節税メリットは小さいです。

NISAは現時点では2023年まで続くことが決定していますが、今後更に伸びる可能性はあります。ある程度のリスクを負ってでも資産を増やしたいという方にはNISAがおすすめです。

結局銀行預金で備えるのが一番安全?

ある意味最強の投資とも言えるのが銀行預金です。金利は雀の涙ほどでほとんど期待できませんが、いつでも引き出したい時に引き出せる高い流動性があり、なおかつ1000万円までは必ず元本保証される安全性は、他の金融商品には無いメリットです。

流動性が低く元本割れする可能性があり対して利率も高くない貯蓄型保険に加入するくらいならば、最低限の掛け捨て保険に加入し、残りは貯蓄で備えたほうが合理的なのかもしれません。

貯蓄型保険は面倒くさがりな人には加入の余地あり

いろいろな金融商品を貯蓄性保険と比べてきました。貯蓄型保険の優位性は現時点ではあまりなく、基本的には他の金融商品を使うことをおすすめします。特に小規模企業共済はあらゆる面で貯蓄型保険よりも有利なので、小規模企業共済に加入できる人はまずはこちらを優先すべきです。

一方、小規模企業共済に加入できない人は、貯蓄型保険加入の余地があります。複数の金融資産を使い分けるのは面倒で、貯蓄と保険を1つの商品で済ませたいという場合は、加入を検討してもいいでしょう。