現在の年金制度は複雑で、にわかには理解しがたい仕組みになっています。しかし、だからと言って年金制度を理解せずに、ただ何となく年金を収め続けるのは危険です。借金のない豊かな老後を実現するためにも、若いうちから年金制度について学んでおきましょう。
目次
日本の年金制度は3階建てになっている
現在の年金制度は3階建てになっています。1階の基礎部分に国民年金があり、2階部分に国民年金基金、厚生年金(共済年金)があり、3階部分には確定拠出年金や企業年金などがあります。1階部分と2階部分を公的年金、3階部分を私的年金といいます。
国民年金はすべての成人が加入する基本的な年金
日本に在住するすべての20歳以上の人は、国民年金に加入することが義務付けられています。外国人でも日本に在住している場合は必ず入らなければなりません。すべての成人が加入する基礎的な年金制度であるため、基礎年金と呼ばれることもあります。
国民年金は国が運営する保険の一つであり、国民が支払う保険料と、国庫(税金)で賄われています。国民年金は現役世代だけが支払っているものであるというイメージがありますが、税金は高齢者世代も払っているので、そのイメージは間違いです。
かつては国庫負担の割合は3分の1だったのですが、平成21年度からは2分の1に引き上げられました。税金の割合を増やすことによって間接的に保険料の負担を引き下げ、現役世代と高齢者世代の格差を減らす狙いがあります。
少なくとも5年に1回のペースで財政再計算が行われており、その時々の経済状況(物価や賃金の上昇率など)などを勘案して保険料の引き上げや引き下げ、および給付額の変更などが行われています。
国民年金の保険料は約1万6000円、受給額は6万5000円/月
とまあ、ここまでいろいろ書いてきましたが、多くの人の関心ごとは「保険料はいくら払わなければならないのか」と「将来いくら受給できるのか」に尽きるでしょう。
まず保険料はいくらかについてですが、これは毎年少しずつ改定が行われています。平成21年度の保険料は1万4700円/月でしたが、毎年少しずつ引き上げられており、平成27年度は1万6380円となっています。
今後も段階的に保険料は引き上げられる予定ですが、平成29年以降は1万6900円で固定される見通しです。
で、次にいくらもらえるかについてですが、これは少々計算が面倒です。まず、国民年金には受給資格というものがあります。一定の期間年金を支払っていないと、受給ができないわけです。
受給資格は以前は25年と定められていましたが、その後の法改正で10年と改められました。つまり、保険料を収めていた期間が10年未満だと、国民年金は1円たりとももらえない(払い損)になるわけですね。
もちろん、10年以上支払っていれば常に満額もらえるのかというとそんなことはありません。10年支払うのと40年支払うのでは、当然後者の方が将来の受給額は大きくなります。
平成27年時点での満額は「年額78万900円」となっています。これを12か月で割ると大体6万5000円ぐらいになります。生活の足しにはなりますが、これだけではとても生活を成り立たせることはできませんね。
とはいえ、働けない老後に毎月6万5000円が受け取れるのはかなり大きいです。
もちろん、国民年金の受給開始年齢(60~65歳、生まれた年によって異なる)前に亡くなってしまったり、受給開始直後に亡くなってしまったりした場合は払い損になりますが、逆に長生きすれば貰い得になります。
国民年金基金は自営業者のための年金
前述の通り、国民年金だけでは高齢者世帯の生活を成り立たせることができません。
よって国民年金とは別に何か別の年金を用意する必要があります。会社員や公務員の場合は厚生年金(共済年金)に入ることができますが、自営業者の場合は国民年金基金が第一の選択肢になります。
国民年金基金は、国民年金に上乗せすることができる年金制度です。自営業者が対象であり、会社員、公務員、主婦などが入ることはできません。また、自営業者であっても国民年金の保険料を免除されている人は加入できません。
国民年金基金の最大の特徴は、厚生年金(共済年金)と違い、加入が任意になっていることです。つまり、老後は国民年金だけでも十分生活が賄えるほど貯蓄に余裕ができる公算が高い場合は、別に入らなくてもいいのです。
とはいえ、実際に国民年金と貯金だけで生活を成り立たせるのはかなり難しい話です。
ゆとりある老後生活に必要な生活資金は月36万6000円との試算があります(夫婦の場合)。国民年金だけだと30万以上も足りません。年間だと360万円あまりの赤字になります。仮に老後が25年続くとしたら、必要な資金は360万×25=9000万円となります。
これだけの金額を貯金で用意するというのは、正直かなり難しいのではないでしょうか。最悪の場合、借金生活に突入し老後破産ということも考えられます。そうならないためにも、自営業者の方には国民年金基金に加入することをお勧めします。
国民年金基金は保険料を自分で選べる
国民年金基金のもう一つの特徴として、保険料を自分で決められることがあげられます。厚生年金(共済年金)は給料に応じて勝手に天引きされていきますが、国民年金基金は稼ぎと関係なくかけることができます(もちろん上限はあります)。
将来もらえる年金はちょっとでいい場合は保険料を少なくすればいいですし、たくさんほしい場合は保険料を多くするえばいいのです。いくら保険料を支払うといくら帰ってくるのかは国民年金基金連合会のウェブサイトで計算できるので、そちらでご確認ください。
といっても、掛け金は1円単位で決められるわけではありません。1口いくらというのが決まっています。また、1口当たりの保険料は年齢や性別によって異なっています。詳しくは国民年金基金連合会のホームページでご確認ください。
なお、保険料はその後増やしたり減らしたりすることができますが、中途解約は原則認められていません。どうしても支払えない場合は減免措置がありますので、そちらをご利用になってください。
厚生年金(共済年金)は会社員(公務員)のための年金
厚生年金(共済年金)は会社員(公務員)のための制度でした。なぜ過去形になっているのかというと、今は共済年金という制度がなくなってしまったからです。かつての共済年金は厚生年金に統一され、公務員も会社員も厚生年金に加入するようになりました。
厚生年金は国民年金基金と同じく国民年金に上乗せすることができる制度ですが、こちらは前述のとおり会社員や公務員を対象としたものになっています。自営業者は加入することができません。
厚生年金は国民年金基金と違い、基本的に強制加入となっています。会社員だけど払いたくない、というようなことは原則認められません。
厚生年金の保険料と受給額は現役時代の稼ぎによって決まる
国民年金の保険料は全員同じで、国民年金基金の保険料は各人の意思で決められることになっていましたが、厚生年金の保険料は所得によって決まります。
所得が多い人ほど保険料が高くなり、その分将来もらえる受給額も多くなるというわけです。保険料率は平成28年2月時点では17.828%となっています。保険料は平成19年以降は18.3%で固定される予定です。
保険料は労使折半となっているので、会社員や公務員は本来負担すべき額の半分、つまり8.914%だけ負担すればよいことになります。
保険料については毎月給料から勝手に天引きされるため、こちらで何か特別な手続きをする必要はありません。自分が毎月いくら払っているのか確認したいという場合は、給料明細の控除項目を確認してください。
肝心の厚生年金の受給額ですが、これは前述の通り所得によって異なるので一概にいくらであるということはできません。計算方法も非常に複雑なので省略しますが、平成24年時点での厚生年金の平均受給額は男性で16万6418円、女性で10万2086円となっています。
これは国民年金も含めた数字です。厚生年金を支払っていると、国民年金の場合と比べて男性で10万円、女性で4万円の上積みが期待できると考えてください。
公的年金だけでは足りない!
仮に厚生年金+国民年金で夫が16万6418円、女性が10万円2086円貰うことになったとしても、総支給額は約27万円にしかなりません。前述の「ゆとりある老後」の実現には、あと10万円ほど足りません。
公的年金だけでゆとりある老後を実現するのはほぼ不可能ということです。老後が貧しいというのはかなりの屈辱です。それだけならいいですが、住宅を失ったり自己破産したりするのはかなりきついです。
生活防衛のためにも、我々は老後に備えて私的年金も活用する必要があります。
確定拠出年金は自営業者のための私的年金
確定拠出年金は自営業者(一部の会社員も含む)のための私的年金です。日本での歴史はまだ15年程度とあまり長くありませんが、他の年金制度にはないメリットも多く今注目を集めています。
確定拠出年金には企業型と個人型がありますが、ここでは個人型について説明します。個人型は自営業者ための私的年金制度です。
確定拠出年金では保険料も運用商品も自分で決める
確定拠出年金では保険料を自分で決められます。これは国民年金基金と同じです。一方、運用商品を自分で決めなければらないという点は国民年金基金と大きく異なります。
国民年金基金は国民年金基金連合会、つまりは他者が運用をしてくれるので、加入者はただお金を出しているだけでよかったのですが、確定拠出年金では自分で運用商品を選ばなければならないのですね。そのため「自己責任型の年金」と呼ばれることもあります。
運用商品には外国株式、国内株式、外国債券、国内債券、不動産投資信託、定期預金などがあります。配分もすべて自分で決めます。毎月の保険料と運用実績に応じて、将来の受給額が決まります。
運用がうまくいけば豊かな老後が待っていますが、運用に失敗した時は保険料よりも受給額が少なくなってしまうこともあり得ます。
運用商品の選び方は一概には言えませんが、若い時は外国株式や国内株式などのハイリスクハイリターンな商品を中心に選び大きく増やして、50台に突入したら国内債券や定期預金などの安全度の高い商品に切り替えて資産を守る戦術がスタンダードとされています。
若いうちから定期預金などのローリスクローリターンな商品を選ぶのはメリットが少ないとされています。
企業年金は会社員ための私的年金
企業年金は会社が社員のために用意する年金制度です。企業年金は福利厚生制度の一つで、会社の義務ではないため、企業年金が存在しない企業もあります。
企業年金には3つの種類がある
企業年金は大きく
- 確定給付型
- 確定拠出型
- 共済制度
の3種類があります。
確定給付型は国民年金に似ており、資産運用や積み立てなどは企業がすべて行います。面倒なことを企業側が行ってくれるため楽ですが、運用実績が悪化すると支給額が下がるかもしれないというリスクもあります。
確定拠出型は上記の確定拠出年金の企業版です。資産運用は自分で行う自己責任型の年金です。資産保護の体制は整っており、自己都合で辞めても(勤続3年以上)、金融機関が破綻しても、企業が倒産もしくは経営悪化しても、将来の支給額に影響することはありません。
共済制度は企業年金の独自運営が厳しい中小企業のための制度です。共済組合が管理と運営を行います。会社が経営悪化したり倒産したとしても、受取金は減りません。
どの年金制度に加入するかはあなた次第
このように日本には様々な公的・私的年金制度があります。老後破産を防ぎたいのならば、強制加入の国民年金や厚生年金だけではなく、その部分に上乗せできる任意の年金にも入っておいたほうがいいでしょう。
とはいえ、様々な年金制度に加入しすぎて保険料が払えなくなってしまうようでは本末転倒です。自身の所得とも相談して毎月の保険料を調整しましょう。