今回は20歳以上、60歳未満の全ての日本に在住する人が加入しなければならない、国民年金の制度と免除してもらう方法について解説したいと思います。今までなんとなく年金を払っていたという方、あるいは滞納していたという方は、これを気に年金について考えてみて下さい。
目次
- 「免除制度」で国民年金保険料が一部・半額・全額免除に
- 学生ならば「学生納付特例制度」が使える
- 50歳未満ならば「若年者納付猶予制度」が使える
- 失業・退職した場合は退職による特例免除が使える
- 納付月数480ヶ月未満なら「任意加入制度」の利用を
- 【国民年金とは?】原則全員が加入する世代間扶養の年金
- 全額を国庫負担にすると会社員や公務員は損をするが、自営業者や企業は得をする
- 厚生年金は国民年金に上積みする労働者用の保険
- 男女間・世帯間の年金格差
- 年金運用は成功しているのか
- 国民年金は「毎月1万7000円払って6万円もらう」制度
- 年金がもらえる時期は年齢によって異なる?
- 国民年金の知られざる一面、障害基礎年金・遺族基礎年金とは
- 結局、国民年金は現時点では払ったほうがまだましである
- 国民年金基金は自営業者向けの2階建て部分の年金
- あなたの老後を救えるのはあなただけ
「免除制度」で国民年金保険料が一部・半額・全額免除に
国民年金を払いたいと思っても無い袖は振れないもの。収入が少なくて、どうしても支払えないという方もいらっしゃるでしょう。
そうした方のための救済措置が国民年金の免除制度です。前年の所得が一定の額に満たない場合は、その所得に応じて国民年金保険料が一部・半額・全額いずれか免除になります。所得と免除割合の関係性は以下のとおりです。
免除割合 | 全額 | 3/4 | 半額 | 1/4 |
---|---|---|---|---|
4人世帯 | 162万 257万 | 230万 354万 | 282万 420万 | 335万 486万 |
2人世帯 | 92万 157万 | 142万 229万 | 195万 304万 | 247万 376万 |
単身世帯 | 57万 122万 | 93万 158万 | 141万 227万 | 189万 296万 |
上の数字が所得、下の数字が収入となっています。全て給与収入であると仮定して計算しています。例えば、会社員の4人世帯で、世帯収入が400万円である場合は、半額を免除してもらうことができます。
国民年金保険料の免除制度を利用するメリットは、その期間が加入期間に含まれることです。手続きをせず支払いを拒否し続けた場合、その期間は加入期間に含まれません。
国民年金保険料は2年以上前に遡って納付することができないため、それよりも前の未納期間は絶対に埋められず、その分将来受け取れる年金の額が低くなってしまうわけです。
一方、免除制度の利用手続きをすれば、その免除期間を加入期間とすることが出来るのです。
もちろん、免除してもらった分だけ将来受け取れる年金の額は少なくなってしまいますが、仮に20歳~60歳までの40年の期間を全て全額免除してもらったとしても、満額の半額(約40万円)を年金として受け取ることが出来るます。
どうしても払えない場合はとりあえず免除申請をした方がいいでしょう。
手続きは市区町村役場か年金事務所で
国民年金保険料の免除手続きは、お住いの市区町村役場か年金事務所で行うことができます。申請用紙は市区町村役場、年金事務所のとちらでも手に入る他、日本年金機構のホームページからもダウンロードできます。
提出から審査には2ヶ月~3カ月程度かかります。
借金は免除の理由にならない
なお、国民年金保険料の免除が認められるかどうかは、所得もしくは収入によって決まります。たとえ借金があって生活が苦しくとも、所得もしくは収入が一定額を超えていれば、免除になることはありません。
借金があって年金の支払いが苦しいという場合は、債務整理をした方がいいでしょう。
学生ならば「学生納付特例制度」が使える
この制度は大学や短大、専門学校などに在学している20歳以上の学生で、なおかつ本人の前年の所得が一定以下の場合に、国民年金保険料の支払いを猶予してもらえる制度です。
所得については扶養家族がおらず、社会保険料控除もない場合は118万円が基準となります。つまり、所得が118万円以下ならば、この制度を利用できるわけです。
この制度を利用して国民年金保険料の支払いを猶予してもらった場合、その猶予期間も加入期間に含まれます。もちろん、万が一の際には障害基礎年金も受け取れます。ただし、これは前述の免除制度と違って、猶予された期間分の保険料を支払ったことにはなりません。
猶予してもらった分は後で追納しなければもらえる年金は0になってしまいますので、働きだしたらその分をきちんと払いましょう。追納期間は10年で、3年目以降に追納する場合は通常の保険料に加えて加算額も支払わなければなりません。
手続きは市区町村役場か年金事務所で
国民年金保険料の免除手続きは、お住いの市区町村役場か年金事務所で行うことができます。申請用紙は市区町村役場、年金事務所のとちらでも手に入ります。
50歳未満ならば「若年者納付猶予制度」が使える
この制度は、50歳未満で、本人及び配偶者の結婚相手の前年の所得が一定以下の場合に(独身の場合は57万円以下、配偶者の見入る場合は82万円以下)、国民年金保険料の支払いを猶予してもらえる制度です。
2005年にできた比較的新しい制度なので、ご存じない方も多いのではないでしょうか。こちらは免除制度と違って、所得の高い親と同居しているときでも使用することが出来るのがポイントです。その他の点に関しては、基本的に学生納付特例制度と同じです。
ただし、こちらは年金事務所では手続きできない(市区町村役場のみ)となっていますので注意が必要です。
失業・退職した場合は退職による特例免除が使える
免除制度は前年の所得を基準に免除の可否を判断しているため、例えば今年の初頭に失業・退職した人などは対象とならないケースがほとんどです。そのような場合は、「退職(失業)による特例免除」を利用します。
特例免除制度は、配偶者と世帯主(親)の前年の所得のみが審査の対象となります。免除制度と違い、本人の前年の所得は対象外です。
そのため、たとえ前年は普通に所得を得ていたとしても、配偶者の収入がない、もしくは少ない、かつ親と同居していない場合は支払いが免除されることになります。
特例免除を受けた場合、免除期間中も加入していたものとして扱われます。また、免除期間中は3分の1の保険料を納付したのと同じ扱いとしてもらえます。残りの3分の2については、10年前まで遡っての追納ができます。手続きは市区町村役場で行なえます。
納付月数480ヶ月未満なら「任意加入制度」の利用を
今でこそ全員の加入が義務付けられている国民年金制度ですが、以前は任意加入でした。なので、人によっては国民年金の加入期間が40年に満たないこともあります。そのような場合は、任意加入制度を使えば老齢基礎年金の受給額を増やすことができます。
任意加入制度は、60歳~65歳で、なおかつ納付月数が480ヶ月未満の人が利用できる制度です。国民年金制度の任意加入手続きをすることによって、老齢基礎年金の額を増やすことができます。
【国民年金とは?】原則全員が加入する世代間扶養の年金
国民年金の基礎
ここからは国民年金の基礎について解説したいと思います。
そもそも国民年金とは、日本国内に住所を所有する20歳以上、60歳未満の人が原則として全員加入しなければならない年金制度です。上記の条件に該当するひとは、20歳になったら国民年金加入の手続きをしなければなりません。
日本の国民年金は社会保険方式という制度を採用しています。上記の条件に該当している人は、国民年金保険料を支払います。その保険料に国庫負担(税金)を加えたものを財源に、年金受給者の生活を支える、というのが基本的な仕組みです。
このように、現役世代が高齢者の年金を支える仕組みを賦課方式と言います。賦課方式の長所は、インフレに極めて強いことです。
賦課方式の長所と短所
賦課方式では仮にインフレが起こっても、そのときには現役世代の所得も増えているため、名目上の国民年金保険料が高くなっても、実質的な負担は増えないのです。
一方、賦課方式の短所は、少子高齢化に弱いことです。賦課方式は現役世代が高齢者の年金を支える制度です。
子供が順調に増えているうちは高齢者に対する現役世代の割合が大きくなるので一人あたりの負担はおさえることができますが、少子高齢化が進むと高齢者に対する現役世代の割合が小さくなり、現役世代一人当たりの負担が大きくなってしまいます。
高齢者ほど得をしやすいこの制度は現在何かと批判されることが多い国民年金制度ですが、その裏にはこのような理由があるのです。
最近は世代間による不公平を解消するため、年金の財源に占める国庫負担の割合が大きくなっています。以前は国庫負担の割合は3分の1でしたが、平成21年度には2分の1に引き上げられました。
国庫負担が大きくなれば相対的に国民年金保険料の占める割合はそれだけ小さくなり、現役世代が負担しなければならない年金の額は減ります。ただし、将来的にはこれでも足りなくなる可能性があるため、現在はさらなる国庫負担の割合の引き上げも検討されています。
積立方式の長所と短所
一方、現役世代が高齢者を支えるのではなく、自分で積み立てていく方式を積立方式と言います。これは簡単に言えば貯金のようなもので、現役世代が支払った国民年金保険料は運用に回され、その現役世代が将来高齢者になったときに年金として支払われます。
積立方式の長所は、世代間の格差が発生しづらいことです。積立方式では自分の年金は自分で支払うため、国民年金保険料が高くなるほど将来帰ってくる年金も基本的には大きくなります。
若いときにたくさん支払っていればたくさん年金がもらえ、ちょっとしか払っていなかった人はちょっとしか年金をもらえないというのは非常に公平です。
一方で積立方式には短所もあります。一番の短所は、二重負担が発生することです。仮に明日から賦課方式をやめて、積立方式に切り替えるとしましょう。するとどういうことが起こるでしょうか。
賦課方式から積立方式への切り替えは難しい
高齢者は今まで積立方式で年金を収めてきたわけではないので、年金をもらえません。当然、高齢者は反発するでしょう。
しかし、だからといってそれを現役世代に負担させてしまえば、現役世代は高齢者のための国民年金保険料と自分のための国民年金保険料、2つを支払わなければなりません。賦課方式から積立方式にうつるには、このように多大なコストが必要になるのです。
インフレと業績悪化リスク
もう一つはインフレや運用成績悪化による実質的な資産減少の可能性があることです。積立方式は前述の通り、現役世代のうちに払った国民年金保険料を将来年金として受け取る制度です。
つまり、支払ってから受け取るまでに何年もかかるわけです。その間支払った年金を何も運用せずそのままにしておけば名目上の金額は一切減りませんが、その間に急激なインフレが起きれば実質的な金額は大きく減ってしまいます。
そのため、積立方式では積み立てた年金を運用するのですが、当然運用がいつもうまくいくとは限りません。
積立方式の年金はドイツを始めとする各国で過去に導入されていたことがあるのですが、そのような国では第二次世界大戦後の急激なインフレで積み立てた年金がほぼ無価値になったり、リーマンショックの影響で年金が目減りしたりしています。
多くの国が賦課方式を採用
現在では、過去に積立方式を採用していた多くの国も賦課方式にうつっています。
一方で積立方式にあるメリットを放棄するのも惜しいということで、最近は賦課方式と積立方式、両方を採用している国もあります。このような方式をハイブリッド方式と言います。
積立金をある程度準備して運用することにより将来に備える一方で、賦課方式の面もある程度残しておきます。日本生命はこのようなハイブリッド方式の導入を提言していますが、制度の改革にはかなりの時間を要することになりそうです。
全額を国庫負担にすると会社員や公務員は損をするが、自営業者や企業は得をする
仮に国民年金保険料の徴収を撤廃し、全額を国庫負担(税負担)にするとどのようなことが起こるでしょうか。これならば世代間格差もある程度小さくなり、さらに積み立てておく必要が無いのでインフレや運用失敗のリスクもありません。
一見いい事ずくめに見えますが、もちろんデメリットもあります。
国庫負担が増えれば当然税負担も増えます。政府の試算によれば、全額を国庫負担にして、それを消費税で賄う場合、約5%の増税が必要になるのだとか。
消費税が増税となればそれだけ割高感が増え、結果として消費が落ち込むかもしれません。もちろん、それ以上に国民年金保険料が0になるというメリットが評価され、消費が増えるかもしれません。
また、国民年金保険料がなくなれば、厚生年金(後述)を半分負担している企業は大きく得をします。一方、会社が負担してくれなくなった分、会社員や公務員は損をします。
会社員や公務員の負担が増えたぶん、自営業者は得をします。ようするに、制度を変えれば新たに得をする人が出てきて、そのかわり新たに損をする人も出てくるのです。この問題を解決するのに、誰もが得をするバラ色の方法はないということです。
厚生年金は国民年金に上積みする労働者用の保険
先ほど厚生年金というワードがちょっと出てきました。会社員や公務員の方の中には「自分は厚生年金は払っているけれど、国民年金は払っていないよ」という方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、それは間違いです。20歳以上60歳未満の人は原則として全員が国民年金に加入しており、国民年金を収めているはずです。
国民年金の加入者は第1号被保険者、第2号被保険者、第3号被保険者に分類することができます。第1号は自営業者、農林漁業者、学生などです。これらに該当する人は市役所で加入の手続きを行い、年金を支払っていきます。
一方、第2号は会社員、公務員などです。これらに該当する人は、国民年金とは別に厚生年金にも強制的に加入させられます。厚生年金とは、国民年金では足りない部分を補填する、労働者の2階部分の年金で、所得に応じて保険料が徴収されます。
保険料は会社と折半で支払います。第1号の2階部分の年金には国民年金基金がありますが、こちらは厚生年金と違って任意加入です。
第3号は第2号の配偶者です。国民年金には加入しますが、保険料は配偶者が支払うため、負担はありません。
第1号、第2号、第3号のいずれの場合でも、必ず国民年金には加入しているはずです。ではなぜ会社員や公務員の方が国民年金を支払っていないと勘違いしやすいのかというと、国民年金の負担額が厚生年金の中に含まれ、一斉に天引きされているからです。
男女間・世帯間の年金格差
日本の年金制度の問題点の一つとされているのが、男女間格差です。最も大きなものは第3号被保険者問題と呼ばれるものです。
専業主婦(第3号被保険者)は優遇されすぎ?
前述の通り、第3号被保険者、つまり会社員や公務員などの第2号被保険者を配偶者に持つ、専業主婦(主夫)や収入が少ない人は自分で国民年金保険料を払わなくても将来年金が全額もらえます。
第3号被保険者(主に専業主婦)の保険料を、主に第2号被保険者(会社員や公務員)が負担しているわけです。そしてその第2号被保険者の中には、母子家庭の母や共働き世帯の妻も入っているわけです。
これは明らかに専業主婦を過剰に優遇し過ぎではないか、というのが問題視されているのです。
第3号被保険者になるのは非常に魅力的です。誰だって保険料など支払いたくないですし、なれるものならなろうとするはずです。
優遇制度は女性の社会進出を阻んでいる側面も
この優遇制度があることにより、女性は第3号被保険者にとどまること、つまり収入が少ないという状態を維持しようと考える女性が増えるのは、本人にとって、あるいは社会にとって望ましいこととはいえません。
せっかく才能があって多くの価値を生み出せる女性が自ら労働に足かせを掛けてしまうのは女性の賃金低下や、女性労働者の地位低下にも繋がります。
とはいえ、専業主婦から見れば第3号被保険者が既得権益であることは間違いなく、この法律を改正するのは簡単ではありません。
優遇制度が出来た理由
最後に、そもそもなぜこのような不公平感のあるルールが導入されたのかについても少し解説しておきます。国民年金という、原則として全員が加入しなければならない年金制度ができたのは1986年のことです。
それまでは国民年金、厚生年金、共済年金(公務員のための年金制度、現在は厚生年金に一本化)という3つの年金がバラバラに存在しており、厚生年金加入者の夫がいる専業主婦が国民年金に入るのは任意とされていました。
そのため、国民年金に加入しない妻が多数存在し、離婚すると将来無年金となる恐れがありました。そのため、厚生年金加入者の夫がいる専業主婦は、国民年金保険料を支払わないでも年金に加入できる制度が誕生したのです。
年金運用は成功しているのか
我々が支払った年金は年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)という組織が運用しています。この組織は平成13年から年金の市場運用を行っており、その成果を毎年発表しています。
投資ではずっと儲かり続けることはありません。ある一定の期間だけを切り出せば買っていることも負けていることもあるはずです。
問題はトータルで勝てているかどうかですが、GPIFが運用を開始してからの年間平均収益率は2.70%となっています。つまり、トータルで見ればとりあえず運用は成功しているわけです。これまでの累積収益額は約40兆円です。
なお、現在のGPIFの基本的なポートフォリオ(保有する試算の組み合わせ)は、国内債券が35%、国外債券が15%、国内株式が25%、国外株式が25%となっています。
以前と比べると比較的ハイリスクな国内株式や国外株式の比重が大きくなっており、しかもその点で多くの利益を上げています。
国民年金は「毎月1万7000円払って6万円もらう」制度
さて、ここからはもう少し我々にとっても身近な話をしていきましょう。まず、国民年金保険料と年金額についてお話します。我々が収める国民年金保険料物価や賃金によって変化します。
国民年金保険料の負担は今後も上がっていく
平成27年度時点での1ヶ月あたりの国民年金保険料は、1万5590円です。所得に比例して保険料と年金額が大きくなる厚生年金と違い、こちらは誰でも一定です。まとめて前払いすることによって多少安くなりますが、そこまで大きな変化があるわけではありません。
また、この国民年金保険料は今後もしばらく毎年引き上げられることが決められています。平成29年には1万6900円まで引き上げられる見通しで、その後は物価や賃金の変化を考慮して決めるとされています。
国民年金の給付額は最大で月に約6万6000円
次に、もっと気になる「いくらもらえるのか」について見ていきましょう。国民年金がいくら貰えるかは、加入期間に左右されます。
加入期間は通常40年ですが、人によっては国民年金保険料が未払いなこともあります。その期間は加入していなかったものとみなされます。加入期間が10年を割ると、年金が受給できないので気をつけましょう。
平成28年度に限って見れば、40年間国民年金保険料をかかさず支払っていた場合、満額で年間約80万円を受け取ることができます。年間で約80万円ですから、月額に直すと約6万6000円ということになります。
実際には年金未納期間がある人もいるため、平均額はもうちょっと少なくなります。データが多少古いですが、平成26年度時点での国民年金の平均受給額は5万4414円です。
一方、厚生年金(国民年金含む)の平均支給額は約14万4886円です。つまり、会社員の夫と専業主婦の妻という平均的な組み合わせについて考えた場合、その夫婦の年金受給額は夫の厚生年金14万4886円に、妻の国民年金5万4414円を加えた額、19万9300円となります。
一方、高齢者の夫婦世帯の平均生活費は平均で27万5706円となっています。つまり、約7万6000円の赤字です。この赤字を補填するために、多くの人は個人年金に入ったり、貯蓄を作ったりしているのです。
付加年金制度は2年でもとが取れる自営業者向けの制度
ところで、この記事をお読みになっている方の中には、自営業者の方もいらっしゃることでしょう。自営業者には厚生年金がありません。加入義務があるのは国民年金だけです。
しかし、国民年金だけを40年間払い続けても、前述のとおり毎月約6万5000円程度にしかなりません。これではとても足りませんね。
そういった方のために国民年金基金や確定拠出年金と言った制度が用意されているわけですが、これとは別に自営業者は付加年金制度というものも利用できます。
付加年金とは、毎月の国民年金保険料に上乗せして保険料を支払うことによって、将来受給できる年金額を増やせる制度です。付加年金の保険料は月400円です。一方、リタイア後は毎年付加年金保険料の納付月数×200円を受け取ることができます。
例えば、20歳から60歳まで、40年間に渡って付加年金を支払い続けたとします。この場合、納付した金額の合計は400円×12ヶ月×40年=19万2000円です。一方、毎年受給できる額の合計は200円×480ヶ月=9万6000円です。
つまり、40年間で合計19万2000円払うだけで、亡くなるまで毎年9万6000円づつもらえるわけです。わずか2年間でもとを取ることが出来る、大変オトクな制度です。計算は省略しますが、加入期間が20年でも10年でも5年でも1年でも、2年でもとがとれます。
ただし、前述の通りこれは主に自営業者を対象とした制度です。サラリーマンや公務員は加入できませんので注意が必要です。
公的年金には税金がかかるの?
公的年金としてもらうお金は「雑所得」という扱いになります。これに対して所得税と住民税がかかります。
ただし、公的年金としてもらったお金にまるまる税金がかかるわけではなく、公的年金控除を受けることができます。公的年金控除の額は以下のようになっています。
年齢 | 公的年金収入額 | 公的年金等に係る雑所得 |
65歳未満 | ~70万円以下 | 0円 |
70万円超~130万円未満 | 収入-70万円 | |
130万円以上~410万円未満 | 収入×0.75-375,000円 | |
410万円以上~770万円未満 | 収入×0.85-785,000円 | |
770万円以上~ | 収入×0.95-1,555,000円 | |
65歳以上 | ~120万円以下 | 0円 |
120万円超~330万円未満 | 収入-120万円 | |
330万円以上~410万円未満 | 収入×0.75-375,000円 | |
410万円以上~770万円未満 | 収入×0.85-785,000円 | |
770万円以上~ | 収入×0.95-1,555,000円 |
例えば、公的年金として65歳未満の人が毎年80万円を受け取る場合、80万円-70万円=10万円が雑所得となり、この金額に対して所得税と住民税がかかります。ただし、他に所得がある人はその所得金額も所得にプラスされます。
年金がもらえる時期は年齢によって異なる?
国民年金という制度が発足した当初、受給開始年齢は55歳と定められていました。当時は高齢者の割合がいまと比べて非常に少なく、なおかつ長生きする人も少なかったのでこれでも問題がなかったのです。
しかし、受給開始年齢はその後60歳まで引き上げられ、さらに2013年4月からは3年毎に受給開始年齢が1年ずつ引き上げられることが決定しています。現役世代は基本的に、受給は65歳になってからと考えたほうが良いでしょう。
欧米諸国では年金の需給開始年齢が66歳~70歳というところも多く、それと比べるとまだ早い方とは言えるのですが、今後の経済状況によってはさらに受給開始年齢が遅れる可能性もあり、油断はできません。
しかし、実は国民年金制度には繰り上げ・繰り下げ制度というものがあります。最大で5年間、受給開始の時期を早めたり、遅らせたりすることが出来るのです。では、一体どちらがオトクなのでしょうか。
国民年金の繰り上げ支給
まずは繰り上げ支給のメリットとデメリットを見ていきましょう。繰上げ支給の一番のメリットは、年金をもらい損なうリスクを減らせることです。
国民年金は終身、つまりは亡くなるまで受け取れることが出来るものですが、逆に年金支給開始時期の前に亡くなってしまったら、本人にとっては払い損となります(死んでしまったら損も得もない、という考え方もあるかもしれませんが、ここでは振れません)。
繰上げ支給を受ければ、そのリスクを小さくすることができます。
また、繰上げ支給を受ければ、仕事もなく年金ももらえない空白期間を減らすこともできます。仮に年金支給開始が65歳だとして、60歳で定年を迎えると、5年間の空白期間ができてしまいます。
すんなりと再就職が決まれば良いのですが、うまくいくとは限りませんし、もしうまく言ったとしても定年前より稼ぎは減るはずです。年金の繰上げ支給制度を利用すれば、その穴を埋めることができます。
国民年金の繰り下げ支給
一方、繰上げ支給のデメリットとしては、給付額が減額されることが挙げられます。繰上げ支給を受けると、1ヶ月支給開始時期を早めるごとに、受給額が0.5%ずつ減ってしまいます。
仮に5年早めれば、30%も減らされてしまいます。仮に5年間の繰上げ支給を受けた場合、76歳8ヶ月の時点でもらえる総年金額は逆転してしまいます。
また、65歳になる前に重度の障害を負った場合、生姜基礎年金を受給することはできません。
一方、繰下げ支給のメリットとデメリットは、繰上げ支給のメリットとデメリットを逆にしたものになります。払い損のまま終わってしまう可能性がある反面、支給額が増えます。どちらも一長一短ですが、現実的には約半数の人が繰り上げ受給制度を利用しています。
国民年金の知られざる一面、障害基礎年金・遺族基礎年金とは
先ほど障害基礎年金というワードが出てきましたので、こちらについてもちょっと説明したいと思います。
実は国民年金の給付には「老齢基礎年金」「障害基礎年年金」「遺族基礎生年金」の3つの制度があります。老齢基礎年金は一定の年齢になったらもらえる年金、要するに今まで説明してきた年金です。
障害基礎年金は、怪我や病気などで障害を有することになった場合、一定条件を満たしていれば支給される年金です。遺族基礎年金は、被保険者が死亡した場合、一定の条件を満たせば遺族に対して支給される年金です。
国民年金に加入して入れば、原則としてすべての年金を受け取れます。
障害基礎年金
障害基礎年金は、保険料納付期間が加入期間の3分の2以上あり、なおかつ一定の障害がある人が受け取れる年金です。老齢基礎年金と違い、65歳未満でも受給できます。
障害基礎年金には1級と2級があり、1級ならば年間約100万円、2級ならば約80万円を受給できます。また、子供がいる場合は、1人につき約22万8000円(3人目以降は約7万6000円)が加算されます。
なお、障害者年金の等級は、障害者手帳の等級とは基準が違います。障害者手帳1級を持っているからと言って、必ずしも障害年金1級に該当するとは限りません。逆に、障害者手帳を持っていなくても、障害基礎年金を受け取れる可能性はあります。
なお、厚生年金に加入している場合は、障害基礎年金とは別に、障害厚生年金を受け取ることができます。こちらは1級~3級と受給対象範囲が広くなっています。
遺族基礎年金
遺族基礎年金とは、国民年金加入者が死亡した場合、その遺族(子供がいる妻、もしくは子供)が受け取れる年金です。老齢基礎年金と違い、65歳未満でも受給できます。ただし、その死亡した人の保険料納付期間が加入期間の3分の2以上無いといけません。
受給う金額は配偶者+子供1人の場合は約100万円、子供2人の場合は約123万円、子供3人の場合は約130万円、それ以降は子供がひとり増えるごとにプラス約8万円となっています。子供が18歳になるまで(子供に障害がある場合は20歳まで)受給できます。
なお、厚生年金に加入していた場合は、遺族基礎年金とは別に、遺族厚生年金も受け取ることができます。こちらは子供がいなかった場合でも受給できます。
寡婦年金
寡婦年金とは、国民年金の加入期間が25年を超えている夫が、老齢基礎年金を貰う前に亡くなった場合、残された妻が受給できる年金です。ただし、10年以上結婚している、再婚ではない、妻が老齢基礎年金をもらっていないなどの条件を満たす必要があります。
寡婦年金は、妻が60歳~65歳の5年間に渡り受け取ることができます。支給金額は、夫が受け取れるはずだった老齢基礎年金の4分の3です。なお、この制度は遺族基礎年金、死亡一時金とは併用できません。
死亡一時金
死亡一時金は、民間保険でいうところの死亡保障のようなものです。国民年金に3年以上加入していた人、老齢基礎年金や障害基礎年金をもらうこと亡くなってしまった場合、死亡一時金を受け取ることができます。
ただし、遺族基礎年金と寡婦年金のどちらか一方が貰える場合は、死亡一時金はもらえません。死亡一時金の金額は以下のとおりです。
年金保険料の納付済み期間 | 受取れる死亡一時金の金額 |
---|---|
3年~15年未満 | 12万円 |
15年~20年未満 | 14万5千円 |
20年~25年未満 | 17万円 |
25年~30年未満 | 22万円 |
30年~35年未満 | 27万円 |
35年~ | 32万円 |
結局、国民年金は現時点では払ったほうがまだましである
厚生労働省が発表した試算によれば、国民年金保険料の払込額と給付額(年金額)を比較した場合、1935生まれから2005年生まれまで、すべての世代で給付額が上回っています。
ただし、1935年生まれの人は払込額の5.8倍の給付を受け取れるのに対して、2005年生まれでは1.7倍にしかなりません。そういった意味では、世代間格差は深刻です。
一方で、払わないよりも払ったほうがオトクであるのも確かです。
高齢者のほうが遥かに高い倍率になっているのは現役世代にとってはかなり腹立たしい話ではありますが、それでも1.7倍になって返ってくること、老齢基礎年金以外にも様々な保障があることを考えると、払わないよりは払ったほうがいくらかマシである、というわけです。
また、国民年金保険料の支払いは全額控除の対象となります。控除については本題とはずれますので深入りしませんが、要するに国民年金保険料を納付すれば、ちょっと所得税と住民税が安くなるわけです。
ただし、これは2005年時点での試算であり、本当にこれだけもらえると確定しているわけではないことには注意が必要です。
国民年金基金は自営業者向けの2階建て部分の年金
最後に、国民年金と名前が似ていて紛らわしい国民年金基金について説明したいと思います。国民年金基金は、国民年金とは異なる年金制度です。
前述の通り、会社員や公務員には国民年金とは別に厚生年金という制度があります。厚生年金制度のお陰で、会社員や公務員は比較的手厚い支給を受けられるわけです。
国民年金基金は自営業者の厚生年金
一方、自営業者に厚生年金の代わりに用意されているのが国民年金基金です。国民年金基金は公的年金の一つで、自営業者などの第1号被保険者の老後の生活を保証するものです。厚生年金と違い、任意加入となっています。
国民年金基金は各都道府県に1つずつ「地域型国民年金基金」と、職種ごとに全国規模で設立されている「職能型国民年金基金(25種)」があり、いずれか1つに加入することができます。
国民年金基金は厚生年金と違い、自身で掛金を決めることができます。将来たくさん年金が欲しい場合は掛金を増やせば良いわけです。ただし、掛金の上限は6万8000円までと決められています。
確定拠出年金との併用に注意
確定拠出年金をやっている場合は、両者の掛金を合算して6万8000円になるように調節しなければなりません。掛金は口数単位で増やしたり減らしたりできますが、増やせるのは年に1回までです。また、掛金を0にすることはできません。
国民年金基金の受給は基本65歳から
国民年金基金は国民年金とは違い、積立方式の年金です。ただし、支給開始年齢に達するまでは途中でお金を引き出すことができません。これはデメリットとも言えますが、年金を使ってしまう可能性がないという点ではむしろメリットといえるかもしれません。
国民年金基金には節税効果があり、支払った金額は全て所得控除の対象となります。掛金を増やすほど、所得税と住民税の節税効果が大きくなります。また、年金を受け取る際には公的年金所得控除が利用できます。
控除額に年間4万円という制限があり、なおかつ公的年金控除設けられない民間の個人年金と比べると、かなり税制面で有利になっています。
国民年金基金の返戻率
一方で、国民年金基金は予め返戻率が決まっており、物価スライドに対応していません。将来もし大きなインフレが発生した場合、実質的な受給額は少なくなってしまいます。
もちろん、デフレが続けば実質的な受給額は高くなりますが、将来物価がどうなるかは誰も正確に予想ができません。また、返戻率は加入した時期に左右されます。現在の運用利回りは1.75%です。
また、国民年金基金の運用状況には厳しいものもあります。国民年金基金によれば、将来給付に必要な積立金は約1兆5000億円も不足しています。今日明日で破綻することはないでしょうが、10年後、あるいは数十年後も大丈夫なのかというと……。
あなたの老後を救えるのはあなただけ
将来、年金制度がどうなっているのか私にはわかりません。おそらく、私よりもずっと頭が良い学者でも、完璧に予測するのは不可能でしょう。
ただ、何はともあれ、これからの時代は一方的に国の施しを待つだけでは救われない、ということだけは確かなように思えます。自ら学び、生き残る手段を考える人だけが生き残れるのではないでしょうか。