農地転用を行う手順は転用したい土地が存在する場所によって違いますが、「市街化区域」にある場合、比較的簡単な手続きで農地転用を行うことができます。
今回は、特に市街化区域で行う農地転用に注目して、メリットやデメリット、必要な手続きや注意点を順番にご紹介しましょう。
市街化区域とは?
日本では、国土を均衡に発展させるために「都市計画法」という法律が定められています。都市計画法によって、日本中の土地は地域ごとにさまざまな区分に線引きされていますが、「市街化区域」とはそれらの区分のひとつです。
市街化区域と対になる存在として、「市街化調整区域」というものもあります。こちらの定義は反対に「市街化を抑制すべき区域」です。たとえば、「古き良き歴史と情緒ある町並みを守るべき土地」などを想像するとわかりやすいでしょうか。
市街化区域を農地転用するメリット・デメリット
市街化区域にある土地を農地転用する場合のメリット、デメリットを合わせてご紹介します。
市街化区域を農地転用するメリット
①農地転用の手続きが簡単に済む
今回、農地転用について触れるにあたって特に市街化区域に注目してご紹介したのは、「農地転用の手続きがほかの区域に比べて簡単」というメリットがあるからです。
日本は小さな島国で、国土が狭い割に多くの人口を抱えています。少ない土地で数多くの人口を支えるため、農地の転用は「農地法」という法律によって制限を受けているのです。
通常、農地転用を行うためには農林水産大臣、もしくは都道府県知事から許可を受けなければいけません。
農地転用の申請書・届出書様式は市町村のホームページからダウンロードできます。しかし、対象となる土地が市街化区域にある場合、事前に農業委員会に届け出ることで許可を貰う必要なく農地転用を行うことができます。
ただし、登記簿の地目変更手続きをするには、届出受理通知書が必要になります。
市街化区域はいわゆる「都会」を目指す土地なので、農地を減らして宅地など別の土地を増やすことが「都市化に貢献している」と評価されるわけです。
②土地を活用して収益を上げられる
農地は通常、野菜などの農作物を自家用に育てたり、販売したりするために使われます。もちろん、農地としての利用で土地から利益を上げることは可能ですが、逆に農地以外の目的で土地利用することもできません。
もし、ほかの方法で土地を活用すればもっと利益を上げられるとしたら、収益化の機会を損なっていることになります。
利用目的を農地に限らなければ、土地活用の方法はさまざまです。宅地にして住宅を建設する、アパートやマンションを建てて利用者から家賃を得る、駐車場にして利用者に料金を払わせるといった方法もあるでしょう。
店舗や事務所、倉庫などを建てて自分で何らかの事業を行うのはもちろん、事業を行いたい人に土地を貸して収入を得ることも可能です。
③太陽光発電など、新たな土地活用の方法もある
現在、農地転用の新たなパターンとして注目を集めているものに「太陽光発電」があります。農地だった土地に太陽光発電パネルを並べて、太陽の光から電気を発電、電力会社に売却して利益を得るという方法です。
元々農地として使っていた土地ですから、日当たりの良さは保証されています。また、クリーンなエネルギーを供給することによって、地球環境の維持に貢献できるのもメリットだといえるでしょう。
一方で、発電設備を設置するために初期費用がかかり、費用が回収できるまで利益が発生しないというデメリットもあります。
ただし、この点はほかの方法で土地活用を行った場合も同じなので、太陽光発電特有のデメリットというわけでもありません。現在使っていない農地である「耕作放棄地」などを有効に活用するアイデアとして覚えておいて損はないと思います。
市街化区域を農地転用するデメリット
①日本の農地が減少してしまう
これは土地所有者個人というよりも、社会にとっての損失と表現した方がいいでしょう。先に述べたとおり日本は国土の広さに比べて人口が非常に多いため、農地とそこから生産される国産農産物は非常に貴重です。
一般的には一度農地以外に転用された土地が再び農地になる可能性は低く、「日本から農地が減ってしまう」という問題があります。
ただし、農地が減る=農産物が減ると簡単に結びつけることはできません。なぜなら、耕作放棄地などの「使っていない農地」も存在するからです。
実質的に使っていなかった農地を活用するなら、むしろ土地を有効活用したといえるわけで社会にとっても有益なことだといえるでしょう。
②転用後の土地活用が失敗する可能性もある
どんな資産運用にも成功の可能性と同時に、失敗するリスクがつきまといます。農地転用も決して例外ではありません。農地を転用してほかの事業を始めたとしても、うまくいかなければ単純に損失を出して終わってしまうことになります。
たとえば、賃貸住宅を建てるにしろ駐車場経営を始めるにしろ、農地を改修するには一定の初期投資が必要です。しかし、それらの投資を確実に回収できるという保証はどこにもありません。
使っていない農地を転用しただけなら損失はそれだけで済みますが、問題は現在使っている農地を転用して失敗してしまった場合です。
本来、農地として使い続けていれば得られたはずの利益を失った上に損失を抱えてしまうことになるため、ただただマイナスが積み重なる結果となり経済的にも精神的に大きな負担を抱えてしまうでしょう。
③固定資産税の支払い額が増加する
もっと直接的で確実なデメリットもあります。農地が持つ大きなメリットのひとつが、固定資産税の支払額が少なくて済むこと。一般の農地の固定資産税は10アール当たりおよそ数百円~1000円程度となっており、宅地などと比べて非常に低く設定されています。
市街化区域の農地は「生産緑地・一般市街化区域農地・特定市街化区域農地」の3種類。このうち、生産緑地は一般の農地と同じ課税額です。一般市街化区域と特定市街化区域農地については、農地転用が簡単にできることもあり最初から宅地並みの評価額になっています。
ただし、一般市街化区域は「課税標準額が1/3になる特例」と、前年度と比較して支払額の増加が緩やかになる「負担軽減措置」の適用を受けることが可能です。
三大都市圏に位置する「特定市街化区域農地」については、「課税標準額が1/3になる特例」は受けられますが、負担軽減措置を受けることはできません。
農地転用を行うと、生産緑地は評価額が宅地並になることから固定資産税の支払額が大幅に増加します。
一般市街化区域、特定市街化区域農地の場合であっても「課税標準額の特例」などが外れることになるので、支払額は3倍に増えてしまうことになります。
市街化区域を農地転用する際の手続き方法
届出書の書式を確認する
市街地区域にある土地を農地転用する場合、手続きを行うのが土地の所有者かいなかで適用される条文が変わります。所有者自身が農地転用を行う場合は農地法の第4条、所有者以外の人が土地を買い受け、または借り受けて転用する場合は第5条の適用を受けます。
適用される条文によって提出すべき届出書の種類が変わるので、所属する自治体で確認してください。
必要書類を提出する
市街地区域での農地転用では、農業委員会に必要書類を提出しなければいけません。主に次のような書類が必要です。
登記事項証明書(登記簿謄本)
土地の地番を表示する図面
転用候補地付近の縮尺図
建設する建物とその周辺の図面
預金通帳等の写し
土地所有者の同意書(本人以外が申請する場合)
耕作者の同意書
他法令の許認可を示す書面
土地改良区の意見書
取水・排水に関する関係者の同意書
状況に応じて一部不要になる書類もあります。農業委員会に提出すべき書類を問い合わせたうえで、必要なものを揃えて提出するようにしてください。
市街化区域を農地転用する際の注意点
必要書類に不備がないようにする
市街地区域の場合、農地転用の手続きそのものは簡単になりますが、許可申請書類に不備があると許可は受けられません。足りない書類がないか入念に確かめておきましょう。
自力で書類を書くのが難しいという方は行政書士や弁護士などに代行を依頼するのも有効です。
周辺住民への説明を行っておく
農地を転用すると建物を建てる際などに工事が必要になるため、念のためそばに住む人々にも説明しておくと後で余計なトラブルになるのを避けられます。
固定資産税の支払額をチェックしておく
すでにご説明してきたように、農地転用を行うと固定資産税の支払額は大きく変化します。転用する土地が「生産緑地・一般市街化区域農地・特定市街化区域農地」のどれに該当するか調べ、転用した場合に支払額がどれだけ変わるか確認しておきましょう。
まとめ
農地をほかの目的で使用する土地に変更する「農地転用」は、土地所有者に新たな利益を生み出す可能性を与えてくれます。
特に、手続きが簡単な「市街地区域」にある土地は転用しやすいため、土地活用のチャンスを広げるためにも積極的に検討してみましょう。太陽光発電など、近年注目を集めている土地活用の方法と相性が良い点も見過ごせません。
ただし、固定資産税の増加や失敗のリスクなど、損失の可能性がつきまとうことも忘れてはいけません。メリットとデメリットをしっかり理解した上で、後悔しないように実行してください。