空き家対策特別法と深い関係がある行政代執行とは

「行政代執行」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?たまにテレビで使われたり、解説されたりしている用語なので、知っている人もいるかもしれませんね。

言葉の意味を簡単に解説すると、行政による強制的な対応のことを言います。近年であれば、大阪府の駅地下道での串かつ店の事例が有名ですね。

行政の許可が打ち切られたにも関わらず営業を続けたことによる不当占拠を理由に、行政代執行の一歩手前の状態になりました。最終的には自主退去を行い、強制対処は行われませんでしたが。

行政代執行は、あまりわたしたちには関係がないものに感じますが、空き家対策特別措置法が施行されたことにより、状況が一変しました。

現在、空き家を所有しており、さらにその空き家が周辺地域や住民に悪影響を与えるものであると判定された場合、行政代執行の対象になってしまう可能性があるのです。

実際、法律施行から2017年までに、空き家の問題に対する行政代執行はいくつか行われています。誰も住んでいないからそのまま放置しておいていいや、という考え方は危険かもしれません。

このページでは、行政代執行とはどういったものであるのか、そして空き家対策特別措置法とはどんな関連があるのかについて見ていきましょう。

行政代執行とは?

行政代執行とは、先述したように、果たすべき義務があるにも関わらず、それを行わない場合に行政が代わりに対応することを言います。

「行政代執行法」と呼ばれる法律があり、その中で行政代執行を行う基準や、手続きの流れが定められています。一部を抜粋しますね。

第二条  法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代つてなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。

とくに重要なのは「その不履行を放置することが~」の部分です。行政代執行は、対象者の権利をある意味無視する行為です。それを国や自治体が行おうとするのですから、代執行を行うにはそれに見合った理由が必要になります。

その際に重要視されるのは「公共の福祉に反していないかどうか」です。国家はより多くの幸福を目指すことを目標としています。公共の福祉に反することはその目標を阻害することになるため、代執行を行う理由となるのですね。

また、最終行にある「その費用を義務者から徴収することができる」というのもポイントです。かかった費用はしっかり徴収されるうえ、対応の内容によっては高額な費用がかかることがあります。

たとえば、ゴミ屋敷の清掃を行う場合には専門の業者を呼ばなければなりません。頑張れば自分たちの手で行うこともできるでしょうが、行政にはそこまでする義理も義務もありません。

業者を呼べば当然費用がかかります。そして行政は、この費用をその当事者から徴収することができるのです。さらに、行政が業者を選定した場合、わたしたちが自分で選ぶより費用が高くなることが多々あります。

一般的にいろんなサービスを利用するとき、なるべく安いものを選ぼうとしますよね?しかし、行政にはその視点はあまりありません。どうせ当事者に請求するからいいや、というわけではありませんが、費用については優先順位はそこまで高くないのです。

そのため、簡単な作業であっても思わぬ費用を請求される可能性があります。代わりにやってくれるからいいや、なんて気軽に考えられるものではない、というわけです。

この費用は税金と同じ扱いなので、支払いを拒否して滞納を続けると、裁判所を介して訴えられることになります。裁判をしても勝ち目はほぼありませんから、最終的には差し押さえ処分となり、財産を徴収されてしまうでしょう。

行政代執行までの流れ

強制的に対処する、といってもある日突然執行されるわけではありません。行政代執行法にも明記されていますが、事前に当事者と連絡を取り、その旨を伝えておく必要があります。ただ、緊急の場合は例外とされています。

なにかしらの問題点が見つかった場合には数回の指導が入り、改善を求められるケースが多いです。そしていずれは最終勧告が出され、それでも対応しなかった場合には強制対処となるのが行政代執行までの一般的な流れとなります。

空き家対策特別措置法との関係は?

今まで、行政代執行はわたしたちにはあまり関係がない制度でした。冒頭でお話しした串カツ店のように、自分の店舗を人の土地に出しているなどすれば多少接点があるかもしれませんが、そのような人はそこまで多くないと思います。

また、自ら公共の福祉に反するような行動をする人もまれでしょう。しかし、平成27年に施行された「空き家対策特別措置法」によって、行政代執行を受ける可能性がある人はグンと増えたのではないかと考えられます。

空き家対策特別措置法はその名の通り、空き家に関する法律です。近年は人口の減少、都市への人口集中によって空き家の数が急激に増えており、それに関する問題がたびたび起こるようになってきました。

たとえば、空き家の老朽化が進めば倒壊や損壊のリスクが大幅に上昇するでしょう。これによる影響がその空き家だけで済めばいいのですが、多くの場合そうはいきません。瓦が飛んだり、ガラスが割れたりすれば、周辺の住居、住民にも迷惑がかかるかもしれません。

また、空き家に置かれたゴミが長年放置されると腐敗が進み、衛生環境に悪影響を及ぼします。これも悪臭が害虫の発生につながり、周辺に大きな悪影響を与えてしまうでしょう。まさに公共の福祉に反していると言えます。

こういった問題に対応するために制定されたのが空き家対策特別措置法です。この法律により、行政が空き家所有者に対して改善を求めることができるようになり、その指導に従わない場合には行政代執行による強制対処が可能になりました。

親から相続した住宅を空き家にしたまま所有している人は一定数いるのではないでしょうか。そのまま放置し続けると、老朽化や腐敗によって迷惑な物件であると判断され、行政代執行の対象になってしまうかもしれません。

空き家に対する行政対応の流れ

先述したように突然強制対処が執行されるわけではありません。空き家に関する問題の場合は、まず事前に行政が実態調査を行い、周辺地域に悪影響を与える可能性があるかどうかをチェックします。

そして、問題があると判定された場合は「特定空家」として認定され、行政による指導の対象となります。

数回の指導を受けても改善行動をしなかった場合は「勧告」、次に「命令」、そして最終的に「代執行」となるのです。ただ、勧告の段階になった時点で、固定資産税の特別控除を受けられなくなるというペナルティが課せられます。

住宅が立地している土地の場合、いくつかの条件を満たせば、固定資産税が最大6分の1に減額されますが、この特例が適用されなくなってしまうのです。

この控除を受けるために空き家のまま放置している人もいるでしょうから、そういった人にとってこの措置は大きな痛手でしょう。

そして代執行になってしまえばこちらの意思に関わらず、強制対処が行われます。もちろん、それにかかる費用は空き家の所有者負担です。

ですから、もし指導を受けてしまった場合には、早急に対処するべきことをおすすめします。

空き家を所有している場合はどうすればいい?

現在、空き家を所有している人はどうすればいいのでしょうか?周辺に迷惑が出ないように定期的にメンテナンスをするのも一つの手ですが、それには当然費用がかかりますし、将来に渡ってずっと作業を続けていくのは大きな負担になるでしょう。

すると選択肢としては、空き家の解体や土地を含めて売却などが考えられます。解体費用こそかかりますが、更地にしたあとは他の人に貸したり、駐車場にしたりすることで定期的な収入が見込めます。

売却ならある程度の売却益を期待できるでしょうし、それ以降は維持費用がかからないというメリットもあります。都市部周辺なら土地の需要は尽きませんから、期待以上の価格で売却できる可能性が高まるでしょう。

また、相続予定の空き家があるものの、使い道が思い浮かばない場合は、相続放棄を検討してみるのも一つの選択肢です。

いずれにしても、空き家をそのまま放置することには大きなリスクが伴うようになったことは覚えておきましょう。

まとめ

空き家を放置すると行政代執行になるかも!?とお話ししましたが、行政もそこまで余裕があるわけではありませんから、片っ端から調査、指導を行うわけではありません。実際、強制対処まで進んだ事例はそう多くありません。

ただ、周辺住民からクレームが入ればやはり動かざるをえなくなるので、その結果特定空き家として判定されてしまう、ということは十分考えられます。

空き家を適切に管理、もしくは解体、売却してしまえばこういったリスクは完璧に回避することができるので、現在空き家を所有し、放置してしまっているなら、これからどうするかを一度検討してみてくださいね。