企業が借金をするメリットってあるの?

多くの企業は借金をしながら事業を行っています。こう聞くと、借金=絶対悪という意識の強い人は「今すぐ借金を完済して健全な経営を行うべきだ」と思われるかもしれませんが、企業経営において借金があることは必ずしも悪いことではありません。

一方で無借金経営を悪と断じたがる人もいますが、これもやや極端過ぎる意見です。ビジネスの規模や内容によっては、無借金経営のほうがうまくいくこともあるからです。本記事では借金と無借金経営、それぞれのメリットを紹介したいと思います。

資本金と借金のメリット

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事業を始めるときの最初の運転資金を資本金といいます。以前は株式会社を設立する場合は最低1000万円以上の資本金を用意する必要がありましたが、現在は1円でも株式会社を設立することができます。

とはいえ、資本金が大いに越したことはありません。資本金は多ければ多いほど資金繰りは楽になりますし、金融機関から借金をしなくても経営が行えます。

また、資本金が多いと金融機関から借金をしやすいという特徴もあります。借金をする気があるにせよ、ないにせよ、資本金は多いに越したことはないのです。

しかし、現実的には資本金だけですべてをやりくりできる企業というのはそれほど多くありません。多くの企業は借り入れを行い、本業の傍らで元本や利子を返済しています。

世の中にはかなりの額の借金があるにもかかわらず経営を続けている企業がたくさんありますが、一体なぜああした企業は倒産しないのでしょうか。

企業は赤字でも倒産しないし、黒字でも倒産する

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企業が倒産するのは赤字になった時ではありません。赤字を出し続けながら存在している企業はゴマンとあります。一方で、黒字を残しているにもかかわらず倒産してしまう企業もあります。一体なぜでしょうか。

例えば、商品を200万円で仕入れて500万円で販売したとします。

この場合、会計上は300万円の黒字です。しかし、売上の500万円がすぐに入金されるとは限りません。また、売上の500万円が本当に入金されるかどうかもわかりません。相手の企業の資金繰りが悪化していて、少し待ってくださいと言われるかもしれません。

一方で仕入れに使った200万円は必ず支払わなければいけません。仮に200万円を2016年7月1日に支払う約束をしていたのに、売上の500万円の支払いを2016年7月10日まで待って欲しいと言われたら、約束を破ることになってしまいます。

これを不渡りと良い、不渡りを起こすと会社は倒産となってしまいます。会計上は黒字になっていても、お金が入るタイミングと出るタイミングがずれてしまうと企業は倒産してしまうことがあるのです。黒字であるにもかかわらず倒産してしまうことを黒字倒産といいます。

黒字倒産は新規のベンチャー企業などによく見られる現象です。会計上は黒字でも、手許に現金がないと企業はあっけなく倒産してしまうのです。

一方、たとえ赤字であっても、手許に現金が十分にあればとりあえず当分の間企業は潰れません。もちろん赤字が続けば手許の現金がなくなり、その結果として倒産してしまうことはあります。

企業が借金をするメリットは?

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企業が借金をするメリットを幾つか紹介します。

手許の現金が増えるので倒産しづらくなる

前述のとおり、会計上は黒字でも手許の現金がなくなってしまえば、企業は倒産してしまいます。借金をして手元にお金を残しておけば、それだけ倒産のリスクを少なくすることができます。

もちろん利子の支払いというデメリットは有りますが、それ以上に倒産のリスクを減らせるというメリットのほうが大きいです。

事業規模が大きくなり、すぐに利益が増やせる

経営学の理論上、有利子負債、つまり借金は、会社を成長させ利益を増やすために必要不可欠であると考えられています。

例えば、資本金が100万円の企業があり、この企業が営業利益率が10%の事業にチャレンジする場合について考えます。

もし借金をせずに事業を行った場合、増えるお金(純利益)は100万円×10%=10万円です。一方、金利3.0%で900万円を借金して事業を行った場合、増えるお金(純利益)は(100万円+900万円)×10%-900万円×3.0%=73万円です。

借金をしたほうが、借金をしなかった場合よりも7倍以上利益が大きくなりました。利益が大きくなれば早急に必要な設備投資が行えますし、ビジネスの幅も広がります。このように、金利以上の営業利益率が見込めるのならば、借金は十分有力な選択肢に入ります。

金融機関との信頼が構築できる

個人でもカードローンやキャッシングを繰り返し利用して返済実績を作れば優遇金利が適用されるのと同様に、企業の場合でも繰り返し利用して返済実績を作ればより低い金利で借りられます。

また、金融機関と良好な関係を気づいておけば、金融機関が知っている有益な情報を教えてもらうこともできます。銀行が有力なアドバイザーとなってくれるので(縛られることもありますが)経営者の暴走を防ぐことも可能です。

無駄な投資を減らせる

借金をしている最中、企業は元本と利子の返済を行わなくてはなりません。元本と利子の返済を行えばそれだけ自由に使えるお金が減ります。自由に使えるお金が減るというのは一見悪いことに思えますが、自由に使えるお金が減ればそれだけ無駄な投資も減らせます。

外部企業との信頼が構築できる

金融機関からお金を借りるということは、金融機関の審査に合格したことと同義です。そして金融機関はお金を返せそうな企業にしか融資を行いません。

金融機関からお金を借りている企業はお金を返せるほど健全な経営を行えているということです。このことは外部の企業から信頼される要因となります。

万が一の際に金融機関からお金を借りやすい

一時的に資金繰りが悪化しても、普段から借り入れをしている企業ならば、金融機関から比較的簡単に融資を引き出すことが出来るでしょう。

しかし、無借金経営の企業がいきなり借金をするのは簡単なことではありません。そんなことをすれば、金融機関はまず間違いなく警戒します。もしかしたらもうすぐ倒産するのではないか、と思われるかもしれません。

別に借りなくても……という余裕のあるときに返済実績を作っておけば、それが実績となりいざというときに借りやすくなります。普段の利息の支払はいざというときのための投資と考えてください。

利息の支払が経費になる

借金の利息の支払は経費に計上することができます(元本の支払いは経費になりません)。経費が増えればそれだけ利益が減り、税金が安くなります。

インフレになれば借金が実質的に軽減される

インフレとは、物価が上昇しお金の価値が下がっている状態のことです。例えば、今まで1本100円の牛乳が200円に値上がりするような現象をインフレといいます。インフレになるとお金の価値(1円あたりの重み)が下がります。これとは真逆の現象をデフレといいます。

インフレが進むと借金の負担は実質的に軽減されます。例えば、純利益が1000万円の企業が1000万円の借金をした場合について考えます。この場合、借金を返済するには純利益1年分のお金が必要です。

しかし、物価が2倍に上昇すれば純利益は2000万円に増えるので、借金を返済するには純利益の半年分のお金だけで良いということになります。極端な話、物価が100倍になれば、借金の重みは100分の1になります。

デフレが続いていた日本ではやや想像しづらいかもしれませんが、今後インフレに流れが戻れば借金は実質的には目減りしていくものと考えて間違いないでしょう。もちろん、今後デフレが進めば借金の実質的な負担は大きくなります。

無借金経営のメリットは?

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ここまで借金をすることのメリットについて紹介してきましたが、一方で無借金経営にもそれなりにメリットが有ります。

実際のところ大企業の殆どは借金をしながら経営をしているのですが、中堅以下の企業に絞ってみれば無借金経営のメリットを最大限享受し、健全で自由な経営ができているところも少なくありません。では、無借金経営のメリットとは一体何なのでしょうか。

利子を支払わないでいい

無借金経営の一番のメリットはやはり利子を払わなくていいことです。資本金が十分に大きく、金融機関から借り入れを起こさなくても十分な投資ができる場合は、無借金経営のほうが利子の支払を抑えられるぶんメリットは大きいといえます。

総資産利益率が高くなる

財務分析の概念の一つに、総資産利益率というのがあります。企業がすべての財産を利用して、どれだけの利益を挙げられているかを示すものです。計算式は

総資産利益率=純利益÷総資産

です。ここで言う資産とは流動資産・固定資産・繰延資産などの合計であり、貸借対照表の借方をすべて合計したものであり、負債+純資産と一致します。

無借金経営をしていれば負債が少なくなるため、分母が少なくなり総資産利益率は上がります。総資産利益率は企業が総資産を利益獲得のためにどれだけ上手に活用できているかを示す数値であり、大きい方が良いとされています。

金融機関の意見に左右されない自由な経営ができる

金融機関から多額の借り入れを行っていると、金融機関の意向を無視できなくなります。経営が金融機関の意見に左右されてしまうわけです。

また、銀行がいきなり借金の回収に乗り出してくる可能性も0ではありません。無借金経営ならばこうしたデメリットを排除することができます。

名古屋式経営って何?

無借金経営の中でも、特に有名なものに名古屋式経営があります。その名の通り名古屋の企業で見られる経営方式で、石橋を叩いて渡ると揶揄されるほど冒険を嫌い、ひたすら慎重に事業に取り組む手法です。

借金を極力せずに自己資本のみで経営を行い、得た利益は万が一のために内部留保として蓄積していきます。事業の急激な拡大に対しては非常に慎重であり、他地域への出店にも消極的です。

トヨタ自動車を始めとした名古屋の多くの企業は名古屋式経営により、実質的な無借金経営を達成しています。

名古屋金利

名古屋金利とは、名古屋の金融機関の平均貸出金利のことです。名古屋金利は他地域と比べて著しく低いです。前述のとおり名古屋には無借金経営を達成している企業が多く、資金需要が小さい上に金融機関内の競争が激しいので金利が低くなっているのです。

また、金融機関事態もかなり貸出には慎重であり、安定性の高い企業にしか貸出を行わないため金利が低くなりやすいのです。

無借金経営は善か悪か

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無借金経営も借金経営どちらも一長一短であり、どちらが一概に優れているとは言えません。借金を毛嫌いする人は無借金経営を手放しで賞賛する傾向にありますし、逆にビジネスに詳しい人は借金経営を賞賛する方向にありますが、どちらも考え方が極端すぎます。

どんな商売をしているかによって選ぶべき選択肢は違うのです。自身の企業にとってより有益な選択肢を選ぶようにしましょう。