アパート経営の一括借り上げでよくあるトラブルとは?

アパート経営の「一括借り上げ」という仕組みをご存じでしょうか?一括借り上げとは、アパート経営に関する一切の業務を不動産業者に管理委託する契約のことです。さまざまなメリットがある反面、後にトラブルになっているケースも少なくありません。

このように、特に注意が必要な契約である「アパート経営の一括借り上げ」について、注意すべき点やよくあるトラブルをご紹介していきたいと思います。

アパート経営の一括借り上げとは?

保有している土地に賃貸アパートを建てて経営するときは、入居者の募集や家賃の徴収、建物のメンテナンスなどさまざまな作業が必要です。

一括借り上げでは、こうしたアパート経営に関わる業務をオーナーが行うのではなく、不動産管理会社側が賃貸物件の管理全般を行うという契約をします。

通常のアパート経営でも、家賃の徴収やメンテナンスなどの業務を業者に委託している不動産オーナーは珍しくありません。

しかし、一括借り上げに関しては、物件の運用を丸ごと業者に委託している点が決定的に違います。

普通のアパート経営が「不動産オーナーと個々の居住者の間の契約」となるのに対して、一括借り上げは「不動産オーナーと、委託された業者の間の契約」です。アパートを利用したい個々の居住者は、オーナーではなく委託業者との間で賃貸契約を結ぶことになります。

一括借り上げとサブリースの違い

・一括借り上げ:管理会社がオーナーから賃貸物件を借りること。マスターリースとも言われる
・サブリース:管理会社が借り上げた後、第三者と賃貸契約すること。又貸し

つまり、一括借り上げをしてからでないとサブリースはできないということです。又貸しを前提に借り上げることを「サブリース契約」と言います。

アパート経営の一括借り上げのメリット・デメリット

では、一括借り上げにはどのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか?順番に確認していきましょう。

アパート経営の一括借り上げのメリット

①空室リスクを回避できる

「空室リスク」とは、アパートに空き部屋ができてしまい本来満室になっていれば得られたはずの家賃収入が得られなくなってしまうことを指します。

オーナーの立場にしてみれば、アパート経営の収益額が減ってしまうので、できる限り回避したい状況となります。空き室は不動産投資の中で一番の課題になるでしょう。

通常、一括借り上げの契約ではすべての部屋(もしくは空き室のみ)をまとめて委託業者が借り受けることになるので空室リスクは発生しません。

仮に空室が発生した場合でも、一定の賃料がオーナーに保証されている契約(家賃保証契約)もあります。空室リスクは、オーナーに代わって委託業者が負うことになるわけです。もちろん、家賃滞納があったとしても、サブリース契約時の賃料を受け取れます。

②アパート経営に関わる雑務から解放される

ほとんどの不動産オーナーは、アパート経営自体に何らかの楽しみを見出しているわけではありません。

ただ純粋に「持っている資産を活用して利益を上げたい」と考えている方がほとんどでしょう。従って、入居者の募集を始めとする賃貸経営に関わる業務は基本的に余計な手間でしかありません。

一括借り上げを利用すれば、そうした雑務からは完全に開放され、ただ定期的に収益だけを受け取ることができます。

まるで株式投資と同じように自分は寝ていても利益だけを受け取れるので、経営に余計な時間や手間を費やしたくない方にとってはうってつけの方法だといえるでしょう。

③クレーム対応など、精神的な負担から解放される

アパート経営に関する雑務の中には、居住者同士のトラブルの仲介といった面倒な作業も含まれます。そうした対人関係のトラブルは、解決が難しいばかりでなく精神的な負担にもなるため非常に厄介です。

一括借り上げならほかの管理業務と同様、クレーム対応も委託業者が引き受けてくれます。

アパート経営の一括借り上げのデメリット

①委託しない場合と比べて、受け取る賃料の額が減る

委託業者も、何の利益もなしに管理業務や空室リスクを引き受けているわけではありません。居住者から徴収した家賃のうち、一定の額を手数料をとして引いた上で、残った利益を保証賃料という形でオーナーに引き渡しているのです。

一般的に、一括借り上げの保証賃料は「設定賃料の80~90%程度」に設定されていることが多いです。

つまり、家賃収入のうち1~2割程度の額は委託業者の利益になるというシステムになっています。これらの金額は本来自力で管理業務を行っていれば受け取れるはずの利益ですから、委託しない場合と比べて得られる収入は減少すると思ってください。

②建設費、リフォーム費は別途負担が必要

一括借り上げでは、建物のない土地の上に新たにアパートを建て、完成した後に一括借り上げの契約を結ぶケースもあります。このような場合、アパートの建設費用はオーナーが負担しなければなりません。

言い換えると、家賃収入が入ってくる前に初期投資を行わなくてはいけないため、通常の賃貸経営と同じく回収するまでに時間がかかってしまうのです。

では、すでに土地の上にアパートがある場合はどうでしょうか?そのような場合であっても契約時にリフォームを求められたり、将来建物が老朽化してきたタイミングでリフォームをするよう提案されたりする可能性があります。

このとき、借り上げを請け負う業者がそのままアパート建設やリフォームを請け負うパターンが多いです。一部には、空室リスクなど本来は自分たちが追うべきリスクを工事費用に上乗せしてくる業者もいるので注意してください。

業者の中には、条件を満たせば修繕費用が無料になる所がありますので、契約内容は細かく確認してください。

③借地借家法では、借主=不動産業者の立場が強い

一括借り上げは、「オーナーがアパートを不動産業者に貸す契約」となるため、通常の賃貸契約と同じく「借地借家法」が適用されます。

借地借家法は貸主よりも不利な立場になりやすい借主の立場を保護するために作られた法律です。そのため、一括借り上げの契約では法律上、オーナーよりも借主となる業者の立場が強くなりがちなのです。

この後ご紹介するように、アパート経営の一括借り上げではオーナーと業者がトラブルになることも少なくありません。しかし、法律では借主(不動産業者)が有利なため、裁判になったとき、オーナーに不利な判決が出てしまう可能性もあります。

アパート経営の一括借り上げでよくあるトラブル

ここでは、アパート経営の一括借り上げで「よくあるトラブル」をまとめてみました。どのようなパターンがありうるのか学んでおきましょう。

賃料の見直しに関するトラブル

一括借り上げでは、一定期間ごとにオーナーに支払われる借り上げ賃料の見直しが行われます。

仮に契約期間自体が30年あったとしても、賃料の見直し自体は2~5年程度のスパンで行われることが多いです。不動産は時間の経過とともに価値が損なわれていき、徐々に入居者を探すのが難しくなっていくためこのような仕組みになっています。

しかし、オーナーにとって「受け取れる賃料が減っていく」ことを意味しています。たとえば、もしアパートを修繕するべきタイミングで賃料の減額を宣告されたとしたらどうなるでしょうか?元々考えていた収益計画は達成できないことになってしまいます。

突然の解約に関するトラブル

一括借り上げは契約ですから、一方が契約を止めたければ解約することもできます。

問題は、不動産会社から突如として更新時期に関係なく解約を通告される可能性もあるということです。

もし一括借り上げを解約されてしまったら、契約が切れる次の日からオーナーが自力でアパート経営を行わなければいけません。

そもそも、経営に手間を掛けたくない、かけられる手間がないから一括借上げを行っていたはずですから、土地活用に関するあらゆる計画が台無しになってしまいます。

もっとも、別のパターンで困ってしまう可能性もあります。「解約されたのでアパートを見に行ったら、空室だらけだった」というパターンです。まだ新しい物件で入居率が悪いだけなら、修繕の手間はそれほどないかもしれませんが、再び自力で入居者募集をかけて探すところから始めなければなりません。

業者の倒産に関するトラブル

契約していた不動産業者が、ある日突然倒産してしまったというトラブルもあります。倒産するからには、事業もうまくいっていないはずなので未払いの賃料などがあるとしても回収することはできないでしょう。

問題は、金銭的な損失だけに留まるとは限りません。突然解約されてしまった場合と同様、入居者はいるはずなのでアパート経営の管理業務はオーナーが引き継がなければいけなくなります。突如としてやるべきことが増えてしまうため、大きな負担になるはずです。

アパート経営の一括借り上げを行う際の注意点

以上のようなことを踏まえた上で、アパート経営の一括借り上げを行ってみたいという方は、次の注意点を忘れないようにしてください。

業者任せにせず、自分で収支計画を建てる

ここまでの説明から、一括借り上げにはメリットばかりでなく、デメリットやリスクもあるということを理解してもらえたと思います。従って、一括借り上げを行うにあたってはデメリットやリスクにはオーナー自身が注意して備えて置かなければいけません。

具体的には、アパートの建設費やローンの支払い、借り上げ賃料などを加味して十分に余裕を持った収益計画を立てておきましょう。もちろん、将来の修繕・リフォーム費用や賃料の減額リスクを考慮するのも忘れないでください。

一括借り上げのメリットは、あくまで「管理業務を委託して、空室リスクを回避できること」。収益の見積もりなど、通常のアパート経営でも必要になる事業計画が不要になるわけではないのです。

一括借り上げ以外の選択肢も検討する

アパート経営の計画を立てるときは、一括借り上げだけでなく通常の賃貸契約や駐車場の運営など、ほかの土地活用の方法も検討して相互に比較するようにしてください。

もちろん、もし「一括借り上げよりも他の方法で活用した方がいい」という結論が出たなら、一括借り上げ以外の方法を選んでもいいわけです。

大切なのは、ろくな検討もせずただ「楽そう、簡単そう」といったイメージだけで一括借り上げを選ばないことです。先ほどの注意点にも関連しますが、土地活用でどのように利益を上げていくのか、具体的なプランが描けなければやらないほうが良いでしょう。

契約内容を入念に確かめる

不動産業者との契約内容は、すべて書面化され確認できるようになるはずです。一括借り上げを行うことが決まり、業者の選定も済んだなら、契約書の内容を入念にチェックしておいてください。

まとめ

アパート経営・マンション経営の一括借り上げは、管理業務を丸ごと業者に委託して賃料だけを受け取れる仕組みです。空室リスクを回避し、雑務から解放されるといったメリットがあり、賃貸住宅の経営が楽になります。

ですが、「2~5年毎に受け取れる賃料収入が減ってしまう」「手数料の支払いが必要」、「建設費やリフォーム費が割高になる可能性がある」といったデメリットも抱えています。

賃料の見直しや解約時に業者とトラブルになる可能性があるので、収益計画と契約内容の確認はしっかり行っておきましょう。