土地の共有名義(共有持分)の取扱と売却のコツ

土地の所有者には所有権が与えられますが、今の日本では一つの土地の所有権を複数の人間で持つ「共有名義」も認められています。共有名義下での各人の持ち分を「共有持分」といいます。

共有名義にはメリットとデメリットがありますが、どちらかと言えばデメリットのほうが多いです。

今回は

  • 共有名義がなぜ発生するのか
  • 共有名義のメリットとデメリット
  • 共有名義を解消する方法
  • 共有名義を解消せずに売却する際の注意点

をまとめてご紹介したいと思います。

共有名義は「複数人で一つの土地を共有すること」

共有名義とは簡単に言えば、複数人で一つの土地を共有し、それぞれが所有権を持つことです。

例えば、ある土地を2人で共有名義にしている場合、2人とも1つの土地に対する所有権を半分ずつ持つことになります。2分の1の土地の所有権を2人が持つわけではないので注意が必要です。

また、共有名義におけるそれぞれの持ち分を共有持分と言います。共有持分の比率は必ずしも全員同じである必要はなく、例えば1人が10分の9、もう1人が10分の1の共有持分を持つことも十分考えられます。

共有名義の土地に何かするときには全会一致が基本

共有名義の土地を売ったり、あるいはその上に建物を立てたりする場合は、原則として所有権を持つ共有名義人全員の合意が必要になります。

株主総会などだと保有する株式の割合が多い人の意見が優先されますが、共有名義の場合は共有持分が多い人と少ない人の意見は対等です。

極端な話、共有持分が100分の99の人がその土地を売りたいと言っても、100分の1の人が嫌だと言えば土地全体は売れないわけです(自分の持分のみを売る個は可能ですが、余りおすすめしません。理由は後述します)。

なぜ土地が共有名義になってしまうのか?

土地が共有名義になる原因は色々ありますが、最もメジャーなのは相続です。その土地の所有者が亡くなった場合、残された配偶者や子供などがそれを相続することになります。相続人が複数いて、土地を売却(現金化)せずそのままの形で相続する場合、必然的にその土地は共有名義となります。

また、夫婦や親子などが共同でマイホームを購入する際に資金を出し合った場合も、共有名義となります。

共有持分の割合(相続の場合)

土地を複数人で相続して共有名義とする場合、それぞれの共有持分は原則として法定相続の割合(法定分割)に従います。例えば、配偶者と子供が2人いる場合、法定相続の割合は配偶者が2分の1、子供がそれぞれ4分の1となります。

評価額4000万円の土地を分割する場合は、配偶者が2000万円分、子供がそれぞれ1000万円ずつの共有持分を持つことになるわけです。

共有持分の割合(共同購入の場合)

共同で土地を購入した場合は、そのときに出した金額がそのまま共有持分になります。例えば、親子で二世帯住宅を建てるために父親が1000万円、子供が2000万円出した場合、父親の共有持分は1000万円分(3分の1)、子供の共有持分は2000万円分(3分の2)となります。

なお、お金を出していない人を共有名義人にした場合、贈与を行ったものとみなされます。例えば夫婦で住む家を建てるための土地代を夫が全額出したのに妻も共有名義人に加えた場合、贈与を行ったものとみなされ、贈与税がかかります。

共有名義のメリット2つ

共有名義のメリットはいくつかありますが、代表的なものは以下の2つです。

  • 住宅ローン控除が複数回受けられる
  • 共有名義人の1人が死亡した場合に、相続税が軽減される

住宅ローン控除が複数回受けられる

住宅ローン控除とは、住宅ローンを借り入れてい住宅を取得する場合に、取得者の金利負担の軽減を図る制度です。毎年末の住宅ローン残高又は住宅の取得対価のうちいずれか少ない方の金額の1%が、10年間に渡り所得税の額から控除されます。

共有名義で土地を購入した場合、住宅ローン控除は共有持分を持つ全員がそれぞれの住宅ローン残高に対して利用できるようになるため、実質的に住宅ローン控除が複数回受けられるようになります。

共有名義人の1人が死亡した場合に、相続税が軽減される

例えば、夫婦の夫が亡くなった場合について考えてみましょう。もし夫のみが土地の所有権を持っていた場合、その土地の評価額がそのまま課税対象となってしまい、妻の支払う相続税が跳ね上がります。

しかし、夫と妻がそれぞれ半分ずつ所有権を持っていた場合、夫の共有持分(土地の半分)の評価額しか課税対象にしかならないため、妻の支払う相続税が安くなります。

共有名義のデメリット2つ

このようにメリットも有る共有名義ですが、基本的にはデメリットのほうが多いです。代表的なデメリットは以下の2つです。

  • 売却や活用がしづらくなる
  • 相続が発生するに従って、共有名義人が増える可能性がある

売却がしづらくなる

共有名義の最大のデメリットが、売却や活用が難しくなることです。共有名義の土地を売却する場合、もしくは建物を建てる場合、共有名義人全員の合意を得なければなりません。

共有名義人が2人の場合は本人以外の1人を説得すればいいのでまだなんとかなるかもしれませんが、共有名義人が3人、4人と増えるに従って足並みが揃わなくなる可能性は高まります。

このデメリットが特に強力に現れるのが離婚時です。例えば、土地を共有名義で所有している夫婦が離婚する場合、夫が土地の売却を主張しても、妻が拒否すれば売ることはできません。もちろん逆も同様です。夫婦仲がこじれた場合などは話し合いもうまくいかないことが多いです。

その場合は名義をすべて夫のものにして、そのかわり土地の購入費用のローンは全て夫が支払う、という解決策が取られることが多いですが、土地を夫婦が連帯して借り入れした場合などは、債務者が減るのを嫌った銀行が名義変更を拒否することがあります。

現時点では仲のいい夫婦、あるいは兄弟や親子などであっても、いつ関係がこじれるかは全くわかりません。その人と一蓮托生する覚悟がなければ、共有名義は避けたほうがいいでしょう。

相続が発生するに従って、共有名義人が増える可能性がある

例えば、ある土地を兄と弟の2人で共有名義にしたとします。この時点で、共有名義人は2人です。

その後、兄が亡くなり、兄の配偶者が全体の2分の1を、3人の子供がそれぞれ6分の1を相続したとします。この時点で、共有名義人の「弟、兄の配偶者、兄の子供3人」で5人です。

その後、弟も亡くなり、弟の配偶者が全体の2分の1を、2人の子供がそれぞれ4分の1を相続したとします。この時点で、共有名義人は「兄の配偶者、兄の子供3人、弟の配偶者、弟の子供3人」の7人です。

このように、共有名義のある土地をそのままにしておくと、どんどん共有名義人が増えていく可能性があります。共有名義人の絶対数が増えればそれだけ売却する・しない、あるいは土地の活用法についての意見をまとめるのが難しくなります。

共有名義人の誰かと連絡が取れなくなってしまい、売るに売れない自体に陥ってしまうかもしれません。

何かとデメリットが多い共有名義を解消する方法5つ

共有名義は基本的にデメリットの法が多いので、税制上有利だからという理由で安易に選ぶべきではありません。

現時点で共有名義になっている土地がある場合は、なるべく早く共有名義を解消することをおすすめします。共有名義を解消する方法はいくつかありますが、代表的な方法は以下の5つです。

  • 持分移転
  • 持分放棄
  • 全部売却
  • 分筆
  • 共有物分割請求訴訟

持分移転

持分移転とは、有権を持つ共有名義人の誰か一人に持分を集中させて、所有権社を一人にするための取り組みです。一般的には売買、もしくは贈与によって行われます。

例えば、ある土地の所有権をA,B,Cの3人がそれぞれ3分の1ずつ持っていたとします。AがBとCにお金を出して彼らの持分を売ってもらえば、単独名義人になることができます。

話としてはわかりやすいですが、単独名義人になりたいと考えている人がいて、なおかつその人にある程度の資金がないと成り立ちません(贈与の場合は別ですが)。

また、その土地の連帯債務で共有名義としている場合、単独名義に変更する際には金融機関の同意が必要になります。

金融機関が同意するかどうかはケースバイケースですが、連帯債務者が減ることを嫌って同意しない金融機関も少なくありません。

持分放棄

持分放棄とは、共有名義人が全てが自らの持分を放棄することによって、所有権を他の共有名義人に移す仕組みです。放棄された持分は、他の共有者の持分割合に応じて分配されます。

例えば、Aが4分の1、Bが4分の1、Cが2分の1の所有権を持っていて、Aが持分放棄をするとします。

残されたBとCの持分の割合は1:2なので、Aの持分の4分の1のうち、12分の1はBに、6分の1はCに与えられます。従って、持分放棄の所有権の割合はBが4分の1+12分の1=3分の1、Cが2分の1+6分の1=3分の2となります。

仮にCを除く全ての共有名義人が持分放棄を行った場合、必然的にすべてがCの持分となるため、共有名義が解消できます。

一見贈与と似ていますが、持分放棄は贈与と違って他の共有者にしか自分の持分を与えられません。ただし、税法上は贈与とみなされるため、他の共有名義人に贈与をしたと扱われる可能性があります。

全部売却

全部売却とは、共有名義人が同意の上でその土地を全部売却し、持ち分に応じて代金を分配する方法です。

例えば、AがAが4分の1、Bが4分の1、Cのが2分の1の所有権を持っていて、その土地が4000万円で売れたとします。

この場合、Aは1000万円、Bは1000万円、Cは2000万円を受け取ることになります。

売却代金を共有者で持分に応じて分けるので公平感が高く、不平不満も生まれづらく、土地を細分化しないので高く売れるなど、メリットが多い方法です。

ただし、全部売却にあたっては、当然全員の合意が必要となります。一人でも売りたくないという人がいたら、この方法は選べません。

また、土地の売却には土地の名義人全員が立ち会う必要があります。その場で署名、押印する必要があるからです。何らかの理由で立ち会えない場合は、本人の委任を受けた者が代理人を務めることもできます。

あるいは、共有名義人全員が、特定の一人を選んでその人に全権を委任することも可能です。ただし、その際でも電話などの方法で委任状に署名と押印をしたことが確認されます。勝手に委任状が作られている可能性もあるからです。

分筆

分筆とは、土地を登記簿上複数の土地に分けて、持ち分に応じて分配することです。例えば、AがAが4分の1、Bが4分の1、Cのが2分の1の所有権を持っているとします。

この場合、面積で単純に1:1:2の割合で分けるのではなく、土地を分けたあとの評価額が1:1:2になるように分けます。

分筆をすると3人がそれぞれ狭い土地の単独名義人となるため、自分の意志だけで売ったり建物を立てたりできるようになります。

ただし、分筆した土地の実勢価格の合計額は、分筆する前の土地の実勢価格よりも低くなることが大半です。細かく分割された土地は使いづらく、市場で高く買われづらいからです。

共有物分割請求訴訟

共有物分割請求訴訟とは、共有状態を解消するために、裁判所に適切な分割の方法を裁定してもらうものです。訴訟ではありますが、どちらが正しいか・勝つかを決めるものと言うよりは、揉めないための適切な配分を決めるものと捉えたほうがいいでしょう。

裁判所から提示される分割方法はいくつかありますが、現物分割(土地そのものを分割する)全面的価格賠償(共有者のうち特定のものに取得させ、残りのものに金銭で賠償させる方法)などがあります。

共有持分は売却できるが、価格は安くなる

共有名義人の全員が得られない場合、その土地そのものを勝手に売ることはできません。ただし、共有持分(所有権)は他の共有名義人の許可を取らずに売却しても問題ありません。売却の手続きの流れは通常のそれと変わりなく、売買契約を結んで代金を受け渡し、所有権を移転するだけです。

しかし、共有持分が高額で買い取られることは殆どありません。知らない他人との共有名義になっている土地など誰も欲しがらないからです。投資家やブローカーなどならば買ってくれる可能性はありますが、大抵の場合非常に安い価格で買い叩かれます。

共有持分を市場で売却しようとしても、適正価格(その土地全体の市場価格に持分の割合を掛けたもの)に届くことはまずありません。適正価格の70%が付けばかなりいい方で、実際には50%以下になることすら珍しくありません。共有名義状態の土地というのは、他人から見れば厄介以外の何物でもないのです。

共有持分買取サービスについて

世の中には共有持分を積極的に買い取っている業者があります。大手ではセンチュリー21が積極的に共有持分の買い取りを行っているようです。

彼らは共有持分を安く買い、登録している投資家に売却しています。投資家は他の共有名義人とも話し合って残りの共有持分を買い取ったり、応じてくれない場合は弁護士を雇って訴訟を起こしたりしているようです。

共有持分買取サービスは共有持分が売りやすいという点では良いサービスですが、やはり価格は適正価格よりも低くなります。話し合いや訴訟に手間がかかるからです。共有名義人同士の関係がこじれている場合を除けば、何とかして共有名義人全員の許可を得ることをおすすめします。

共有名義人が行方不明でも土地の売却ができるケース

共有持分ではなく土地全体を売却する場合は、共有名義人全員の同意が必要になります。言い換えれば、共有名義人の誰か一人でも同意しなかった場合は、土地が売却できないわけです。

では、共有名義人のうち誰かが行方不明になってしまい、同意を得ようにも得られない状態になってしまった場合にはどうすればいいのでしょうか。

結論から言えば、特別な事情がない限り、土地そのものは売れません(各共有名義人が自分の共有持分を売ることはできます)。逆に言えば、特別な事情があれば、共有名義人本人から同意を得られなくても土地が売れます。特別な事情と認められるケースは色々有りますが、代表的なものは以下の3つです。

  • その土地の固定資産税・都市計画税などが支払えず、維持管理が困難になっている場合
  • 行方不明者がローンを滞納している場合
  • 土地の上の建物が老朽化していて、修復・取り壊し費用などが支払えない場合

共有名義人を探す

共有名義人が行方不明になってしまった場合は、まずはその人を探すことから始めましょう。その人の知り合いや実家などに連絡しても行方がわからない場合は、住民票からの追跡調査を行うのがいいでしょう。通常、他人の住民票はその人の委任状がなければ開示できないのですが、役所側が正統な使用目的があると認めた場合は、委任状がなくても開示が可能です。

不在者財産管理人制度を利用する

共有名義人を探しても見つからなかった場合は、不在者財産管理人制度を利用するのがいいでしょう。不在者財産管理人とは、裁判所が選任する、行方不明者の財産を本人に変わって管理・保全する代理人のことです。裁判所からその共有名義人が確かに行方不明になっていると認めてもらえれば、不在者財産管理がつきます。

裁判所に行方不明を認めて貰うための条件

裁判所に行方不明であることを認めてもらうためには、その共有名義人が「容易に帰来する見込みがない者」である必要があります。

どうとでも解釈できる言い方になってしまっていますが、1年以上連絡がつかないことが目安になるとされています。1~2ヶ月連絡がつかないだけでは、おそらく認められないでしょう。

また、あくまで行方不明になっていることが条件なので、例えば「居場所はわかっているが話を聞いてもらえない」場合などは行方不明だと認められません。

不在者財産管理人になれる人・なれない人

申立者は、不在者財産管理人の候補を立てることができます。不在者財産管理人になるための資格などは特に定められていないため、一般的にはその不在者の親族が不在者財産管理人に選ばれます。

ただし、不在者と直接的な利害関係がある親族は、裁判所に却下される可能性が高いです。例えば他の共有名義人が不在者財産管理人になろうとしても、おそらくは認められないでしょう。

その場合は家庭裁判所が弁護士や司法書士などの中から不在者財産管理人を選びます。その場合は当然、彼らに報酬を支払うことになります。

不在者財産管理人の権限

不在者財産管理人にできることは、財産を適切に管理・保全することのみであり、勝手に売却することはできません。

つまり、不在者財産管理人をつけただけでは、土地を売却することはできないのです。しかし、前述の「特別な事情」がある場合は、裁判所に「権限外行為許可」を申立てることで、売却の許可が認められる可能性があります。

権限外行為許可の申し立ての際には、売却予定価格と売却予定先を明示し、その価格が適正価格(市場価格に沿った妥当価格)であることを示さなければなりません。

市場価格から明らかに外れた安値で売ってしまっては共有名義人の不利益になるからです。その価格が適正価格であることを証明するためには、不動産鑑定士によるカンテイをつけるのがいいでしょう。

行方不明期間が7年以上の場合は「失踪宣告」ができる

失踪宣告とは、その人が失踪してから一定の期間が経過した場合、その人を法律上死亡したものとして扱う制度です。

「一定の期間」は通常は7年ですが、戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者などの場合は1年です。後者は非常にレアケースなので、失踪から7年経ったら失踪宣告ができるとだけ覚えておけばだいたいOKです。

失踪宣告をするにあたっては、家庭裁判所の審判を受ける必要があります。家庭裁判所は申し立てを受けて、運転免許センターや法務省などに問い合わせを行い、行方不明者が生存している証拠を探します。

探しても行方不明者が発見されなかった場合は、失踪宣告が認められ、行方不明者は法律上死亡したものとみなされます。

失踪宣告が認められた場合、行方不明者は死亡したものとみなされますので、その人の共有持分は配偶者や子供などの相続人に受け継がれます。

相続人の居場所がわかっている場合は、その人の同意を得られれば土地を売れます。相続人も行方不明の場合は、その人に対して不在者財産管理人を置くか、失踪宣告をしなければなりません。

相続人がいない場合、被相続人(失踪した共有名義人)の財産は他の共有名義人のものとなります。

まとめ

  • 共有名義にはメリットもあるが、デメリットのほうが大きい
  • 共有名義の解決方法には「持分移転」「持分放棄」「全部売却」「文筆」「共有物分割請求訴訟」がある
  • 共有名義の土地を他の共有名義人の許可無く売ってはいけない
  • 共有持分は自分の意志だけで売れるが、価格は安くなる
  • 共有名義人が行方不明の場合は、不在者財産管理人制度を利用する
  • 失踪から7年経っている場合は、失踪宣告によって相続が発生する

共有名義はほうっておくと何かと問題に発展しがちです。現時点で共有名義になっている土地がある場合は、なるべく早く解消しましょう。