近年、日本の食料自給率はどんどん低下しています。昭和40年はカロリーベースで70%超を記録していましたが、2015年では40%を切る結果になりました。
自給率が低下している原因として、農業に携わる人が減っていることが挙げられますね。IT系産業の急激な発達とともに、第一次産業である農業の人気は右肩下がりになっています。
そんな状況で増えてきているのが「耕作放棄地」です。耕作放棄地とはその名の通り、利用されていない農地のことをいいます。
耕作放棄地が増えるということは農業生産可能な農地が減っているということですから、この傾向が続けばさらに自給率が低下していくことが予想されます。
また、耕作放棄地を所有している人にとっても、その存在は厄介なものです。土地は所有しているだけで固定資産税という名の税金がかかりますから、なんとか使い道を見つけたい、もしくは売っぱらってしまいたいと考えている人は少なくないでしょう。
今回は、耕作放棄地とはなにか?という点についてまず解説し、そのあと、耕作放棄地にはどんな利用方法があるのかについても詳しく解説していきますね。
耕作放棄地とは?
先述した通り、耕作放棄地とはもはや利用されていない農地のことを言います。利用されなくなる理由はいくつかありますが、主なものは農業従事者の高齢化や若者の農業離れが挙げられますね。
また、農業は決して収益性が高い産業とは言えません。とくに近年は外国産の野菜や穀物が大量に流入しているので価格競争がより激しくなり、その結果収入が下がって農業では食えなくなったという人もいるでしょう。
こういった理由によっても使われていない農地は増加傾向にあります。
よく似た言葉に「遊休農地」や「休耕地」がありますが、これらは本格的とは言わないまでも少なからず耕作を行っている、もしくは意図を持って田や畑を休ませているという点で、耕作放棄地とは大きく異なります。
耕作放棄地が増えればそれに比例して農地は減少し、そして食料自給率の低下につながるでしょう。これも大問題なのですが、耕作放棄地には他にも問題点があります。それらをいくつか見ていきましょう。
耕作放棄の期間が長くなるにつれて田や畑の状態は悪化する
農地の命でもあるといえる土壌は、適切に管理されていないとどんどん質が悪化していきます。作物生産によって一時的に土壌から栄養が流出し、質は悪くなりますが、その後作物が枯れ、土に還ることで再び栄養分は補充されます。
また、適切なタイミングで田や畑を休ませることによっても土壌の質がアップし、よりよい作物が育つようになるのです。これらのサイクルが繰り返されることによって、農地のクオリティは維持されているのですね。
しかし、耕作放棄地になるとこのサイクルは回らなくなり、土壌が栄養分を補充する機会が失われてしまいます。それどころか雑草に栄養を吸収され、農地が荒れ果てることによって土壌から作物を育てるために重要な要素が消失していくのです。
そしていずれは商品として販売できるような作物を育てられない土壌になってしまい、もはや農地として活用できなくなってしまいます。
農地の消滅は食糧自給率に大きな影響を与えますから、これは決して望ましいことではありません。たとえ農地として利用されていなくても、質の維持のために適切な管理が求められているのです。
耕作放棄地は他の農地にも悪影響を与える
耕作放棄による影響はその農地だけに留まりません。周辺の農地にも大きな悪影響を与えてしまう可能性があるのです。
代表的なものは害虫や鳥獣の発生です。耕作放棄された土地で発生した虫は当然、周辺の農地にも移動し、そこで育てられている作物に悪影響を与えてしまうでしょう。
その結果、以前よりも多くの農薬を使用せざるを得なくなり、最終的にはその作物を購入する消費者にまで影響が出てしまいます。
また、耕作放棄地ではゴミの不法投棄が行われやすいという事実もあり、これも周辺の農地に悪影響を与える可能性があります。
これらの理由から、耕作放棄地をそのまま放置することは決してよいことだとは言えないのですね。
耕作放棄地に対しての国の政策
耕作放棄地の増加は国としても見逃せない点であり、その問題を解消するために、そして農業従事者を増やし食料自給率を上昇させるために、いくつかの対策、政策を行っています。
その代表的なものが農地中間管理機構による「農地バンク」です。農地バンクを簡単に解説すると、農地の貸し借りを斡旋する仕組みのことです。
この仕組みを使えば、自分では使わなくなった土地を貸し出すことで賃借料を得ることができ、また、農地の借りたい人にとってはより簡単な手続きでスムーズに農地を借り受けることができます。
これにより農業従事者の増加が期待できるうえに、耕作放棄地の発生も抑えられるので、貸し手、借り手、国の三者それぞれに大きなメリットが見込めます。農地バンクについてはページの後半でさらに詳しく解説しますね。
もう一つの農地に関する政策として、農地の固定資産税の増税があります。もともと、農地の固定資産税は他の利用名目に比べて圧倒的に安いものでした。これは、農業はそこまで大きな収益を見込める事業ではないという点からです。
しかし、平成29年度から農地の中でも耕作放棄地に関しては、固定資産税を以前のおよそ2倍に引き上げることが決定されました。
これにより、耕作放棄地のまま所有することが大きなデメリットになるので、なんらかのアクションを起こす人が増えるでしょう。農地の流動性の確保とともに、耕作放棄地の減少を狙った政策であると言えます。
さらに、耕作放棄地は農地として認められない場合も多々あります。一年に一度、行政の担当者がその土地の利用状況を確認することになっており、登記上は農地だとしても、実態が異なれば、固定資産税の計算時の地目は農地以外のものになってしまうのです。
耕作放棄地を再度利用するには、もう一度農地として活用する、農地以外の用途で利用する、他人に売却するなどの方法がありますが、どれもそう簡単ではないのが実情です。
以下からは、これらの方法で耕作放棄地を使うためのポイントについて解説していきますね。
耕作放棄地の再生利用方法
もう一度農地として活用する
耕作放棄地として間もないなら、再度農地として使える可能性は十分にあります。ただ、農業ができなくなったから耕作放棄をしたという人が多いでしょうから、この選択肢はあまり現実的ではありません。
農地以外の用途で利用する
もう農地として利用する見込みがないなら、違う用途で活用するのも一つの手です。更地にして駐車場にする、宅地用の土地として他人に貸し出すといった使い方が考えられますね。
登記上の地目が農地から変わってしまうため、固定資産税は大きく増えてしまいますが、それを超える収入が期待できるケースも少なくありません。
ただし、農地の転用ができるかどうかは立地条件、転用後の利用用途によって大きく左右され、その条件によってはどうやっても転用が認められないこともあります。
転用を行う際に一番のネックになるのが立地条件です。農地は食糧を生産する大切な土地ですから、おいそれと減らすわけにはいきません。農地として優秀な土地であればなおさらです。
そのため、農地をそのグレードによって5つの区分に分け、転用を許可するかどうかの目安にしています。区分はそれぞれ、
・甲種農地
・第一種農地
・第二種農地
・第三種農地
とされており、転用が認められるのは原則的に第二種農地と第三種農地のみです(例外的に第一種農地も認められることがあります)。
一般的に都市部に近いほどグレードが下がり、第三種農地に近づいていきます。逆に、地方の農村部にあるような農地は、農地としての利用価値が高いと判断され、グレードも高くなっていきます。
また、第二種農地、第三種農地であっても無条件で転用が認められるわけではありません。転用後の利用計画をしっかりと練り、申請書を作成して市町村の農業委員会に提出し、許可を得る必要があります。
このように転用のための手続きは複雑なうえにハードルが高いため、気軽に転用できるわけではないのです。とはいえ、絶対にできないというものでもないので、転用を真剣に考えているならぜひ取り組んでみましょう。
農地、耕作放棄地の売却
今後、自分で土地を活用しないのであれば、売却も選択肢のうちに入ってくるでしょう。しかし、農地の売却もやはり一筋縄ではいきません。
まず前提として、農地は農家相手にしか売却できません。これは農地法という法律の中で決まっており、売却相手は50a以上の耕作地を所有しているものに限る、と定められています。
また、農地の売買においても農業委員会の許可を得る必要があります。そのため売却手続きの流れとしては、取引相手を見つける→農業委員会に申請書を提出→仮登記を行う→委員会からの許可が下りる→本登記を行う、といったものになります。
現実的な取引相手としては、隣接している農地の所有者ということになるでしょう。農家という条件をもちろん満たしますし、ひとつながりの農地として集積化できるので、相手にとってもメリットが大きいためです。
一つ注意点として、農地は不動産屋ではなかなか扱ってもらえない、というものがあります。農地は取引価格が安いことが多く、買い手が農家に限定されるため、不動産屋からすると旨味があまりないのですね。
そして、耕作放棄地は売却が難しいことも理解しておきましょう。前述したように、放置期間が長いほど農地として復旧させるのに手間がかかります。さらにある程度の費用も必要になるので、これらの点から嫌がられることも多いでしょう。
なるべく農地のうちに売却してしまうのが望ましいですが、すでに耕作放棄地になってしまっている場合は、多少手入れや再生作業を行い、十分農地として再利用できる状態にしてから取引相手を探すのも手かもしれません。
農地バンクについて
農地バンクはアベノミクスの代表的政策の一つであり、食料自給率の回復、農業従事者数の増加を狙って打ち出された施策です。
その内容は上述したように、農地の斡旋事業であり、農地を貸したい人と借りたい人をつなぐためのマッチングサービスだと言えるでしょう。
農業を始めたい、農業経営者になりたいと考えている若者は今でも一定数存在します。農業をスタートするには農地が必要になりますが、実家が農家でもない限り、最初から農地を所有している人はいないしょう。
そこでまず農地を取得することが第一の目標になります。ただ、これも前述したように、農地の売買は原則的に農家同士でしか行えません。
そのため近年までは、農家になるのには農地がいるのに、農地を買うには農家でなければならないという、なんともあべこべな状況になっていたのです。これでは農家として活動しようとする人が増えるわけはありませんね。
農地を売る側にも、先祖代々引き継がれてきた土地を売るということに抵抗がある人が多く、農地の売買はスムーズであるとは言い難い状態でした。その結果、耕作放棄地が増え続けてきたのです。
このような状況を打破し、若者による営農を支援、推進するために打ち出されたのが農地バンクで、この仕組みを利用すれば農地を持たない若者でも比較的簡単に農地を取得することができます。
また、農地バンクのコンセプトは農地の貸し借りであるため、数年後には貸し出した農地はもとの農家に返ってきます。そのため、土地を売却することに抵抗がある人でも使いやすいのではないかと期待されているのですね。
もちろん、両者が合意すれば契約を延長し、そのまま土地を貸し出し続けることも可能です。
農地バンクは、貸し出す側にとっては使わない農地を有効利用してもらえるうえに賃借料を受け取ることができ、借りる側にとっても取得が難しい農地を簡単に借りられるうえに十分な農業者としての経験が積めるという、お互いにメリットがある仕組みだとされています。
農地バンクの問題点
メリットしかないように感じられる農地バンクですが、実際はそこまで普及していないのが実情です。利用率がいまいちである理由として、借り手と貸し手のマッチングがなかなか上手くいかないという点があります。
農地と一言に言っても、それぞれ立地条件や面積は異なり、質の高いものから低いものまでさまざまです。そして農地バンクではどちらかというと質の低い農地が集まりやすい傾向があります。
これはある意味当たり前のことで、質の高い農地であれば農地バンクを利用せずとも貸し手や買い手が見つかるためです。立地がいいなら転用してしまって、他の用途として利用すればより高い収益を期待できるでしょう。
そして、借り手としてはやはり少しでも条件の良い農地を借りたいものです。あまりに地方のほうにある農地や、質の悪い農地を進んで借りたいという人は少ないでしょう。
このように貸し手と借り手の間で求める条件の相違が起こり、その結果マッチングが上手くいかないという状況に陥っているのですね。
また、あまりに整備されていない農地、つまり耕作放棄地は農地バンクに登録することができません。そのような土地を貸し出しても借り手側にはメリットがありませんし、後でトラブルが起きれば団体の信用にも関わるかもしれません。
売却も難しく、農地バンクの利用も難しいということで、耕作放棄地にはほとんどメリットがありません。土地が荒れ果ててしまう前に、なんらかの対処を行うようにしましょう。
まとめ
耕作放棄地を持っていても、毎年無駄に固定資産税を払うだけになってしまいますし、平成29年度からその固定資産税も増税されることから、なるべく早めに土地の活用方法を模索したいところです。
転用、売却にはいくつかの条件がありますが、よほど環境が悪い土地でない限り、なんらかの選択肢が見つかるはずです。土地を手放したくないという人は、農地バンクを検討してみるのもアリでしょう。
自分の状況を踏まえて、適切な土地活用を考えてみてくださいね。