転勤や結婚などで今まで住んでいたマンションに住み続けられなくなった場合、そのマンションを売るか貸すかで迷ったことがある方は少なくないかと思います。
売ったら売却損が出そうだけど、貸そうとして借り手がつかなかったら維持コストがかかることになるし……などと考えているうちに時間がどんどん経ってしまい、マンションの価値がどんどん下落していってしまうのでは困りますよね。
今回は売るか買うかの判断の助けになるPERや実質利回りといった定量的な指標、あるいはそれぞれのメリットやデメリットと言った定性的な指標を紹介したいと思います。これを理解すれば、所有するマンションで最大限の利益を得る方法がわかります。
目次
PERが少ない場合は賃貸にしたほうがお得
マンションを売るかかすかで迷った際に最初に見るべき指標はPERです。PERはマンションの収益力を表す数値で、物件を想定した賃料で貸し出した場合に何年で購入価格が回収できるかを示すものです。具体的な計算式は以下のとおりです。
例えば、購入価格が3000万円、想定月間賃料が10万円だった場合、PERは3000万円÷(10万円×12万円)=25となり、購入価格を回収するには25年かかることがわかります。
PERが少なければ少ないほど購入価格の回収にかかる時間が短いため、賃貸物件として貸し出したほうがお得ということになります。もちろん、実際には最初に想定した賃料が25年も続くわけはありませんし、空室期間なども発生するかもしれませんが、大雑把な指標としては役立ちます。
一般的に売るか買うかの判断の分かれ目となる数値は20で、これを超えたら売る、超えない場合は貸すのが有利とされています。
市場に出回っているマンションのPER
東京カンテイというサービスが発表したところによれば、2012年~2016年のそれぞれの首都圏、近畿圏、中部圏のPERは以下のようになっています。
2012年 | 2013年 | 2014年 | 2015年 | 2016年 | |
首都圏 | 23.83 | 23.98 | 24.99 | 27.30 | 28.66 |
近畿圏 | 24.42 | 23.94 | 24.38 | 26.04 | 28.30 |
中部圏 | 23.74 | 24.20 | 25.41 | 26.80 | 28.55 |
首都圏、近畿圏、中部圏のいずれの地域でも、だんだんPERは上がってきています。特に都市部ではマンション価格が上昇し、それに賃料の上昇が追いついていないため、回収にかかる期間は増加傾向にあるようです。
一方で、2015年以降は従来よりも安価な(PERが小さくなる)物件が東京や神奈川などの郊外で少しずつ見られるようになりました。鋼材価格の下落によって建築コストが落ち着き始めたためです。
また、同じ首都圏の中でも近隣駅によってPERは異なります。例えば、2016年時点で最もPERが低かった駅は東京メトロ銀座線の虎ノ門駅(東京都港区)で、その数字は14.17でした。次に低かったのは京浜急行本線の立会川駅(東京都品川区)で18.07なので、虎ノ門がダントツで低いことがわかります。参考までに、トップ10は以下のようになっています。
- 1位:東京メトロ銀座線虎ノ門駅(東京都港区)、14.17
- 2位:京浜急行本線立会川駅(東京都品川区)、18.07
- 3位:東京臨海高速鉄道りんかい線品川シーサイド駅(東京都品川区)、18.19
- 4位:東京メトロ南北線王子神谷駅(東京都北区)、18.30
- 5位:小田急小田原線開成駅(神奈川県足柄上郡開成町)、18.70
- 6位:JR中央線八王子駅(東京都八王子市)、18.88
- 7位:JR南武線小田栄駅(神奈川県川崎市川崎区)、19.33
- 8位:京成本線実籾駅(千葉県習志野市)、19.58
- 9位:日暮里舎人ライナー扇大橋駅(東京都足立区)、19,94
- 10位:JR中央線吉祥寺駅(東京都武蔵野市)、20.42
都心から郊外まで様々な駅がランクインしています。通常、都心部の物件は購入価格が高くなりがちなためPERは大きくなる傾向があるのですが、虎ノ門駅などはその中でも穴場的存在といえます。
ただ、これらはあくまで駅別に見た平均値であり、ランクインしていない駅の中にも貸すのが有利になるような物件は存在しています。
例えば賃料水準が高くなりつつあるJR武蔵野線越谷レイクタウン(埼玉県越谷市、21.38)やつくばエクスプレス三郷中央駅(埼玉県三郷市、21.60)はいま勢いのある地域で、賃料水準が増加しているため貸す側に有利であるといえます。
実質利回りが高い物件は貸し出したほうがお得
賃貸物件の収益性を図る指標として利回りをご存じの方は多いかと思いますが、実は利回りには表面利回りと実質利回りの2種類があります。それぞれの計算式は以下のとおりです。
- 表面利回り=年間想定賃料÷物件購入価格×100(%)
- 実質利回り=(年間想定賃料-物件運用時諸経費)÷(物件購入価格+物件購入時諸経費)×100(%)
例えば、年間想定賃料が200万円、物件運用時諸経費が25万円、物件購入価格が2000万円、物件購入時諸経費が200万円の場合、表面利回りと実質利回りはそれぞれ以下のようになります。
実質利回り=(200万円-25万円)÷(2000万円+200万円)≒7.95%
このように、同じ利回りであっても表面利回りと実質利回りでは数値に大きな差が出ます。不動産情報サイトなどに掲載されている利回りは大抵の場合表面利回りですが、物件の収益力をより実質的に表しているのは実質利回りです。
実質利回りは最低でも7%はほしいところですが、物件によって確保したい実質利回りは異なる一面もあります。
郊外の物件ほど高い実質利回りが求められる
実質利回りの計算式の注意点として、満室を想定している、つまり絶え間なく人が入り続けていることが挙げられます。しかし、実際にずっと人が入り続けてくれる保証はどこにもありません。実際には人が入ったり出たりするものです。
そして、人が少ない郊外の物件ほど空室期間が長引きやすい傾向があります。そのことを考えると、郊外の場合は実質利回りは10%程度を基準にした方がいいかもしれません。これなら空室期間が多少あっても高い利回りでカバーできます。
もう一つの注意点は、実質利回りは変動するということです。実質利回りを計算するのに必要な要素の内、物件購入価格と物件購入時諸経費は動くことはありませんが、年間想定賃料と物件運用時諸経費は動きます。
一般的に築年数が長くなるほど年間想定賃料は安くなり、物件運用時諸経費は高くなります。すると必然的に、実質利回りは下がっていきます。
逆に物件購入後にその近隣エリアが急速に開発され、地価が高騰した場合は年間想定賃料が高くなることもありえますが、一般的には実質利回りはだんだん下がっていくものと考えておいたほうがいいでしょう。
想定賃料は周辺の物件から計算する
年間マンションの部屋は基本的に一点もので、同じ建物内でも回数や日当たりによって賃料が変わることがあります。そのため、自分の所有する物件の想定賃料を正確に計算するのは簡単なことではありません。より正確を期したい場合は不動産鑑定士に依頼して考えてもらうことも可能ですが、そこまでお金をかけられないという場合は周辺の物件を参考にするといいでしょう。
近隣にあって駅からの距離、築年数、部屋の広さなどが類似している物件の賃料を見ていけば、その物件の大まかな想定賃料を導き出すことができます。
売却代金は不動産情報サイトに見積もりを出してもらえる
一方、売却代金の計算は遥かに簡単で、不動産情報サイトなどを利用すれば簡単に無料で見積もってもらうことができます。不動産会社の見積もりには机上で行う簡易査定と、現場で行う訪問査定があります。査定を受けた上で売らないという判断をすることも可能なので、いくらで売れるか知りたい場合は査定を受けるといいでしょう。
マンションを貸すことによって発生するメリットとデメリット
マンションを貸すことによって発生するメリットとデメリット(特徴)には、以下の様なものがあります。
入居さえあれば毎月賃料収入が得られる
マンションを貸す一番のメリットは、継続的に賃料収入が得られることです。マンションを売ってしまった場合、一時的に多くの売却代金は得られますが、その後何も得られるものはなくなります。
貸した場合は継続的にお金が入ってくるので、毎月の生活が楽になったり、計画的な資産形成をしたりできます。いきなり高額な売却代金を手にしても適切に運用できる自信がない方や、安定した収入を得たい方には貸すのをおすすめします。
資産を持ち続けられる
マンションを貸せば、マンションを持ち続けることができます。持ち続ければ将来価格が高騰したときに売却益を出すことができます。よく「お金がお金を吸い寄せる」という表現がされることはありますが、実際には「資産がお金をす寄せる」と言った方がいいでしょう。
資産があればそれを貸したり売ったりすることによって更にお金が入ってきて、そのお金を資産として運用しさらにお金を得ることが可能です。こうした流れを作るための足がかりとして、マンション経営は有効です。
維持管理の手間とコストが発生する
マンションを持ち続ける場合、その維持管理にかかる費用が発生します。マンションの経営者は貸主として、物件を借りる人が利用できる程度に維持する必要があります。経年劣化が著しい場合はリフォームやリノベーションなどのお金がかかりますし、固定資産税や都市計画税などの税金も支払わなければなりません。これらの費用は入居のあるなしにかかわらず発生する費用であるため、入居がないと完全な赤字になってしまいます。
また、マンションを貸し出すということは立派な賃貸業なので、手間もかかります。マンションの維持管理という業務は外部委託してしまえば良いですが、管理業者に対する対応は大家自らが行う必要があります。管理委託料は賃料の5%程度と決して高くはないため、時間が余っていて管理に自身があるという方以外は委託してしまったほうが楽でしょう。
なお、管理会社には建物の維持管理や家賃の回収業務などだけを引き受けているところもあれば、滞納した家賃の建て替えをしてくれるところもあります。当然、後者のほうが管理委託料は高くなります。
経営が借り手の質に左右されやすい
借り主が貸した物件を大切に使ってくれるとは限りません。敷金を使えばある程度原状回復することは可能ですが、それにも限界があります。大切に使っていないという理由で追い出すこともできません(借り手は法律で手厚く保護されています)。
また、家賃の支払いを平気で遅らせるような質の悪い人間も存在します。貸す場合は事前にしっかりと審査を行い、問題がありそうな人は事前にはねることが大切です。
組合員としての責任を果たす必要がある
分譲マンションを他人に融資した場合、管理組合に組合員として参加するのは所有者です。組合員になれるのは一区分につき1人であり、所有者の家族などの同居人は組合員になれません。組合員なので議決権を行使できますが、代わりに一定の責任を追うことにもあります。
ローンが残っている場合、貸せないことがある
住宅ローンを借りて買ったマンションをのローンが残っている場合、金融機関に無断で他者に貸し出すことは通常できません。貸し出したい場合はローンを一括返済するか、金融機関に相談して許可をもらうかする必要があります。
ただ、現実にはローンを組んで購入後転勤などの事情で住めなくなり、賃貸物件として貸し出しているケースは相当数あるため、そこまで気にする必要はありません。
貸したい場合は必ず金融機関に相談しましょう。対応は金融機関によって異なりますが、そのまま住宅ローンの返済を続けるならば貸してもいいとするところもあれば、事業者ローン(不動産投資用のローン。住宅ローンより高金利)への借り換えを義務としているところもあります。もちろん、一括返済を求めてくるところもあります。
無断で貸してしまうと信用がなくなりその時点での一括返済を求められる可能性が非常に高いです。万が一そうなったら困るので、必ず事前に相談してください。
マンションを売ることによって発生するメリットとデメリット
マンションを売ることによって発生するメリットとデメリット(特徴)には、以下の様なものがあります。
多額な売却代金が得られる
マンションを売る最大のメリットは、すぐに多額の売却代金が得られることです。マンションを貸す場合に入ってくる賃料は、継続的ですが額が少ないのでなかなか効果を実感しづらいものです。まとまった資金を用意して他の投資に回したいという方は、売ったほうがいいでしょう。
将来の下落リスクを避けられる
不動産というものは原則的に、時間が経てば立つほど価格が下がっていきます。いくらマンションを貸して賃料を得たとしても、その後の売却金額がそれ以上に下がってしまっては意味がありません。早期の段階で売ってしまえば、後々物件価格が下落するリスクを下げることができます。
維持管理にかかるコストをなくせる
不動産を管理するためにはリフォーム・リノベーション代金や固定資産税、都市計画税などの費用が必要になります。マンションを売却してしまえば、それらの負担から開放されます。
住宅ローンの残債が多い場合は売れないケースが多い
住宅ローンの残債が多い場合は、金融機関に売却が認められない場合が多いです。どうしても売りたい場合はローンを完済できる金額で売るか、不足分を現金で用意する必要があります。
借地の場合は家主の許可が必要
借地の上に自分の家を立てている場合は、地主に承諾を貰う必要があります。承諾には借地権価格の10%程度の費用が必要になります。土地が高いと承諾料も高額になりやすいため注意が必要です。
地主と折り合いがつかない場合は裁判所に申し立てることで、地主の承諾に代わる許可を得ることが可能ですが、それにはかなりの労力がかかります。
地価が上昇している場合、損をする可能性がある
売ろうとしているマンション近辺の価格が上昇している場合は、すぐに売らずにある程度価格が高騰してから売った方がいいケースもあります。
地価が上がるか下がるかというのはなかなか予測しづらいものなのでなんとも言えませんが、需要の高まりを感じている場合は一旦貸し出して、価格がつり上がってから売ったほうがいいかもしれません。
結局売るのと貸すのどっちが得なの?
非常に難しい問題ですが、PERが小さく実質利回りが高い場合は貸したほうが、そうでない場合は売ったほうが有利になることが多いです。ただし、マンション経営には費用やストレスがつきものです。
費用の方はともかくストレスに関しては非常に数値化しづらいので、収益は少なくてもいいから物件管理の煩わしさから開放されたいという人は、たとえPERや実質利回りが優秀でも売ったほうがいいのかもしれません。このあたりの性向は人それぞれなので、金銭的な利益と精神的な負担のバランスを考えて最終的な判断をしましょう。
まとめ
- PER=購入価格÷(想定月間賃料×12)が20を超える場合は売る、超えない場合は貸すのが有利になりやすい
- 実質利回りは最低でも7%、郊外の物件の場合は10%はほしい
- 想定賃料は条件が似た周辺の物件の賃料から導き出す
- 売却価格は不動産情報サイトで見積もってもらえる
- 売るのにも買うのにもそれぞれメリットとデメリットがある
マンションを売るか買うかと言うのは、人生で下す判断の中でも非常に重要なものです。目先の利益や感情にとらわれず、PERや実質利回りなどを駆使して、どちらがより自分にとって総合的に(金銭面に限らず精神面も含めて)得であるかを見極めましょう。