空き家問題が深刻化する理由が人口減だけではない理由と解決法

近年、特に都市圏で空き家が増加する「空き家問題」が社会問題となりつつあります。国が正式に行っている「住宅・土地統計調査」によれば、2013年時点で日本全国にある空き家の数は約820万戸で、全住宅に占める割合は13.5%となっています。

野村総合研究所の予測によれば、平成45年時点での全国の空き家率は30.2%になるともされており、このまま放置すれば日本の空き家問題はますます深刻化するものと思われます。

空き家が増加している原因は一つにまとめることはできません。人口減も要因の一つですが、それ以外にも要因があります。今回は空き家問題はなぜ深刻化し続けるのか、空き家の増加はどのような危険をもたらすのか、解決方法はあるのか、などをまとめて考えていきたいと思います。親などが家を持っている場合はいずれ相続する日が来るので、事前に対処法を学んでおくことをおすすめします。

空き家は一貫して増え続けている

空き家に関する国の調査は昭和の頃から行われています。調査開始時、昭和53年時点での空き家の総数は約268万戸で、空き家率は7.6%でした。

その後一貫して空き家率は増加しており、平成10年の調査で初めて10%を突破。直近の調査である平成25年の調査では13.5%となっていますが、このまま有効な対策を打たなかった場合、平成35年には20%を突破し、平成45年には30%を突破すると予測されています。

一体なぜ空き家は増え続けているのでしょうか。理由は簡単で、住宅数の増加が居住者のいる住宅数の増加を上回っているからです。例えば、2008年から2013年にかけて、居住者のいる住宅数は5.0%増加していますが、その一方で住宅総数は5.3%増加しています。

一戸建ては空き家率の上昇が著しい

住宅の建て方別に見た場合、2013年時点で一戸建ての空き家は300万戸、長屋建ての空き家は45万戸、共同住宅の空き家が471万戸、その他の住宅が3万戸でした。この中で最も絶対数が多い共同住宅の空き家率は2008年から2013年で18.3%→17.6%と僅かに減少していたのに対して、一戸建ては8.4%→9.5%と上昇しています。

空き家率は地方都市のほうが高めだが、絶対数は大都市圏のほうが多い

空き家率には都道府県格差があり、最も高い山梨県で22.0%、最も低い宮城県で9.4%となっています。空き家が高い、もしくは低い都道府県は以下のとおりです。

高い

  • 山梨県:22.0%
  • 長野県:19.8%
  • 奈良県:18.1%
  • 高知県:17.8%
  • 愛媛県:17.5%
  • 徳島県:17.5%

低い

  • 宮城県:9.4%
  • 沖縄県:10.4%
  • 山形県:10.7%
  • 埼玉県:10.9%
  • 東京都11.1%
  • 神奈川県:11.2%

空き家率は全体的に西高東低となっており、また大都市圏では低く、地方都市では高い傾向があります。ただし、空き家の絶対数については大都市圏のほうが多く、東京都、大阪府、神奈川県がトップ3を占めています。

更に細かく主要都市を見ていった場合、最も空き家率が低いのはさいたま市の9.9%で、最も高いのは大阪市で17.2%でした。空き家の絶対数が最も増加したのは東京都区部(4.5万戸増加)で、最も減少したのは仙台市(2.5万戸の減少)でした。

主要都市別に見た場合でも全体的に空き家率は西高東低となっています。

人口減少だけではない!空き家が増え続ける理由

空き家が増え続ける理由は人口が減っているからだ、と思われるかもしれませんが、それは回答としては不十分です。たしかに日本の人口は減少に転じましたが、世帯数はまだ増加しているからです。国勢調査によれば、平成27年時点での日本の世帯数は約5340万3000世帯で、平成22年と比べて145万3000世帯(2.8%)ほど増加しています。

一方、人口は同じ期間に94万7000人ほど減少しています。人口が減って世帯数が増えているということは、言い換えれば1世帯あたりの人数が減っているということでもあります。昭和45年に3.45人だった1世帯あたり人数は、平成27年には2.38人まで減少しています。

人口や1世帯あたりの人数が減っていても世帯数が増えているのならば空き家率は増えなそうな気もします。しかし、実際には空き家率は増加し続けています。一体なぜでしょうか。

新規物件の供給が多い

最も大きな原因は、新規物件の供給が多いことです。たしかに世帯数は増加していますが、それを上回るペースで新規物件が供給されているため、空き家率が上昇しているのです。

例えば、東京カンテイの調査によれば、東京都の場合、リーマンショックの影響で新築マンションの供給件数は2009年には約2万8500戸あまりまで減ってしまいましたが、その後増加し約4万3600戸まで回復しています。神奈川県、千葉県、埼玉県、大阪府、兵庫県でも似たような推移を見せています。

中古物件の人気がない

では、新規物件が多く供給されるのでしょうか。理由は簡単で、高く売れるからです。首都圏の新築マンションの坪単価は東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府、兵庫県のいずれでも上昇傾向にあります。

普通供給量が増えたら価格は下がるものですが、それ以上に需要が伸びているため高値がついているのです。では、一体何故新築物件の需要は増加しているのでしょうか。

理由は色々と考えられますが、一番の原因は中古物件の人気がないことでしょう。中古物件の中には状態のいい物件もありますが、そうでない物件もあります。安心安全かどうかもわからない中古物件を買うよりは、多少高いお金を出すことになっても新築物件のほうが……と考える人が多いため、新築物件の供給・需要がともに伸びる一方で中古物件が売れず、空き家率が上昇しているものと考えられます。

固定資産税の減免措置がある

空き家になってしまったらいつまでも建物を載せておかずにさっさと更地にしてしまえばいいのに、と思われるかもしれません。

しかし、日本には土地に家屋が建っていると固定資産税が原則6分の1になる制度がある、言い換えれば土地を更地にしてしまうと固定資産税が原則6倍になるルールが有るため、簡単に更地にはできないのです。

売ってしまえば固定資産税は払わなくても良くなりますが、そもそも空き家になるような土地なので売れない場合も多いです。

また、更地にするにはお金がかかります。お金をかけて更地にして高い固定資産税を取られるより、建物を載せたままで安い固定資産税を払ったほうがいいと考えるのは当然のことであり、これも空き家の増加の原因の一つといえます。

空き家があると何が問題か?

空き家があっても別に問題が発生するわけでもないし、放っておけばいいのではないか、と思われるかもしれません。しかし、空き家が増加することは周辺住民にとっても、そしてその空き家所有者にとっても望ましいことではありません。。

治安の悪化

空き家の最も大きな問題は治安の悪化です。空き家はホームレスや不良などのたまり場になるリスクを抱えています。特に空室が多いアパートでは知らず知らずの内このような減少が起こることが多いです。

それくらいならば大した問題ではないように思えるかもしれませんが、最悪の場合放火などに発展することもあります。

放火犯は特定の地域で連続的に放火をする傾向があるため、空き家率が高い地域は格好のターゲットです。口かけている木造の空き家が並んでいる地域は、相当危険であるといえます。

日本の住宅は密集して建てられる傾向が強く、1つ家が燃え始めると隣に燃え広がりやすいです。仮に燃え広がった場合、被害を受けた近隣住民は空き家の所有者に損害賠償を求めることが可能です。

犯罪心理学用語に、割れ窓理論というものがあります。窓ガラスが割れたままの建物を放置すると、多くの人が誰もその建物が管理されていないと考えるようになり、他の窓も破壊されるという理論です。

要するに小さな腐敗があると、それがあっという間に全般に広がっていってしまうというわけです。ニューヨーク市ではこの理論を応用し、地下鉄の落書きなどを徹底的に取り締まった結果、犯罪を大幅に減らし、治安を回復させることに成功しています。

空き家も同じで、ちょっと管理に難があると、たちまちその被害は広がってしまいます。

景観の悪化

空き家は適切に管理されないことが多いため、建物は人が住んでいるものよりも高速に老朽化し、雑草は高く伸び放題になります。このような空き家が増えるのは、近隣住民にとって望ましいことではありません。

場合によってはそうした建物のせいで近隣の不動産価格が下落してしまうこともあります。管理されていない家が多い地域は管理されていない地域であるとみなされるからです。

住宅市場の需給バランスの悪化

現時点でもすでに住宅はあまり気味であるにも関わらず、なおも多くの住宅が供給されています。この状態が暫く続けば、空き家率はますます高くなるでしょう。

空き家の数が増えればそれだけ住宅の希少性は減るため、すべての住宅の資産価値は下がっていくことでしょう。中古市場が空き家で溢れかえっているというのは、市場としてもあまり健全なものではありません。

空き家問題解決のための国や自治体などの取り組み

空き家問題はその問題性がそれほど明確ではないためなかなか対策も進まなかったのですが、最近は国や自治体も対策に乗り出しています。

事業者に対する減税と補助金

空き家の買い取りや再販は通常の不動産売買よりも業者が負担する税金が多く、それが空き家処分の妨げとなっっていました。そのことを受けて、政府は2014年にこれらの税金を下げ、また一部の自治体は空き家改修費を補助する動きも出ています。

空き家を処分する事業者側の負担を減らすことによって、空き家の処分を促進しよう、というわけですね。

固定資産税評価額減免の撤廃

前述の通り、土地の上に建物が乗っかっている場合、固定資産税評価額が減免される制度があります。

政府は2015年の「空き家対策特別措置法」では、隣接地に危険が及ぶ場合など「自治体が定めた特定の空き家」についてはこの減免制度を廃止。さらに、所有者が自治体の勧告を無視する場合、取り壊し費用を直接所有者に請求できるようになりました。

民泊の規制緩和

訪日外国人の増加に伴い、都市部を中心に宿泊施設の予約が取りづらい状況が続いています。それを受けて政府は東京や大阪などの一部の地域では、条件付きで旅館業法の適用除外とする民泊が認められるようになりました。

民泊とは、住宅を宿泊用に提供すること、もしくはそのような住宅に宿泊することです。民泊が認められれば空き家も活用されるものと考えられます。

解体費用の補助

損傷や老朽化が激しい住宅の解体について、国や自治体などから補助が出ることがあります。

空き家バンクの開設

空き家バンクとは、自治体や自治体に委託された事業者が行っている空き家のマッチングサービスです。空き家の情報をウェブサイト上で公開して、使いたい人を探します。移住を考えている人には空き家が開放されたり、皇居施設として利用されたりすることもあります。

空き家を活用したビジネスの成長

人が困っているところでは必ずビジネスが生まれるものです。特に空き家問題については政府や自治体の後押しもあるため、様々なビジネスが生まれています。

空き家貸出ビジネス

空き家貸出ビジネスとはその名の通り空き家を貸し出すビジネスのことです。この中でも特に注目を集めているのが前述の民泊です。従来、民泊は旅館業法上で“グレーゾーン”でしたが、前述のとおり東京や大阪などの一部の地域では政府のお墨付きが出て、それに伴いビジネスに参加する民間事業者も増え始めています。

例えば空き家の多いマンションを一括で買い上げ、短期間単位で貸し出す、というのが典型的な空き家ビジネスです。大京穴吹不動産は、羽田空港に近い大田区の空き家約100戸を買い取り、リフォームした上で民泊として活用する予定です。

空き家買い取りビジネス

文字通り空き家を安値で買い取り、その後売りに出すビジネスです。オーナーが活用できていない空き家でも、しっかりとしたノウハウが有る不動産業者ならば十分に活用できる可能性があります。

しっかりとリフォームやリノベーションを行い住宅の資産価値を向上させ、人に入ってもらうことができれば、事業者は利益を得られますし、もともとの所有者は空き家を処分でき、お互いに得をします。

空き家管理ビジネス

空き家の見回りや管理などを代行するサービスです。前述の通り、2015年の「空き家対策特別措置法」で、隣接地に危険が及ぶ場合など「自治体が定めた特定の空き家」は固定資産税評価額の減免が受けられなくなりました。逆に言えば、「自治体が定めた特定の空き家」にならない限りは、今まで通り減免が受けられるわけです。

空き家管理サービスは空き家を適切に管理することによって清潔さを保ち、「自治体が定めた特定の空き家」になることを避けるためのものです。主に地域の不動産会社や警備会社、物流会社などが参入しています。

1件あたりの管理料金は安く、単体で見れば優秀なビジネスモデルとはいえませんが、顧客との信頼関係が築け、その後の買い取りなどにつながりやすいというメリットも有るようです。

空き家の根本的な活用になっていませんが、とりあえず景観は保たれますし、きれいにしておけばいざという時に活用できる可能性も高まります。

空き家を最も特に活用する方法

現時点で空き家をお持ちで、できるだけお得に活用したいと考えている方も少なくないでしょう。空き家の活用方法は大きく3つにわけられます。すなわち

  • 自分が住む
  • 他人に貸し出す
  • 売却する

の3つです。自分が住むという選択肢は仕事のことなどを考えると現実的な選択肢ではなく、実質的な選択肢は「他人に貸し出す」か「売却する」の2つだけになります。

他人に貸し出すメリットは、その他人が建物をある程度管理してくれることです。人が住んでいれば空き家ではないので固定資産税の減免が無くなる心配もありませんし、もともと空き家になるような土地は固定資産税の評価額も高くならないので、かなり安く貸し出しても黒字が出やすいです。

ただし、何の取り柄もないただ古いだけの空き家を借りたがる人は当然いないので、人が借りたくなるための工夫が必要になります。リフォームローンを活用してリフォームし、その後得られる賃料収入でローンを返していくというのが一つの手段です。

売却のメリットは、固定資産税を払わなくて住むようになることです。また、建物を管理する手間もなくなります。ただし、空き家を売るのは簡単なことではありません。どうしても売れない場合は、隣の家の所有者に格安で売却してしまってもいいでしょう。

まとめ

  • 日本では空き家率、空き家数ともに増え続けている
  • 特に西日本で空き家率が高い傾向がある
  • 空き家が増えている一方で新規住宅の供給量は多い
  • 空き家が増えると治安や景観に悪影響を与える
  • 空き家を活用したビジネスは活況を呈している
  • 空き家は早めに貸し出すか売却したほうが良い

空き家は時間が経てば立つほどより老朽化し、ますます活用が難しくなってしまいます。現時点で空き家を抱えているというのは、早めに処分しましょう。