少ない原資で大きく稼げる可能性を秘めていることから、投資家にも人気がある金融商品「FX」。投資にはあまり興味がないという方でも、名前くらいは耳にしたことがあるのではないのでしょうか。
確かにFXはうまくやれば定期預金や債券などとは比べ物にならないくらいの高い利回りをたたき出せることもあります。
しかし、その一方でFXがもとで多額の負債を抱え、自己破産に追い込まれる人がいることを忘れてはいけません。ハイリスクとハイリターンは常に表裏一体なのです。本記事ではFXで借金が生まれる仕組みと、借金を背負わないための簡単なコツを解説したいと思います。
FXは「為替の変動を利用して儲ける取引」である
まずはFXの基本的な仕組みについて説明したいと思います。FXは気軽に行える投資の一つです。株式投資は株式、不動産投資は不動産、債券投資は債券を対象とした投資ですが、FXは外国通貨を対象に投資を行います。
たとえば、日本の自国通貨は「円」で、アメリカの通貨は「ドル」です。ドルと円の交換比率が毎日変わっていることは、皆さんもご存知かと思います。これを利用して儲けるのがFXです。
具体的な例を見てみましょう。たとえば、1ドル=120円の時に1万2000円で100ドルを買います。その後1ドルが125円になったら、その100ドルを1万2500円で売ります。1万2000円で買ったものを1万2500円で売ったのですから、差し引き500円の儲けです。
これがFXの基本的な仕組みです。
FXでは「売り」から入ることも可能
先の例ではまずドルを買い、その後売る場合について考えてみましたが、FXでは逆にまずドルを売り、その後買い戻す取引をすることも可能です。
具体的な例を見てみましょう。たとえば、1ドル120円の時に最初に100ドルを売ります。その後1ドルが115円になったら、先ほど売った100ドルを買い戻します。1万2000円で売ったものを1万1500円で買い戻したのですから、差し引き500円の儲けです。
以上のことからもわかるように、FXの最大の特徴は「円安でも円高でも儲けられる可能性がある」ということです。円安になると思った場合は買いから入ればいいですし、円高になると思った場合は売りから入ればいいわけです。
通常の外貨預金は円高が進むとどうしても損になってしまいますが、FXでは円高でも利益を上げられる。これはFXの最大の魅力といえます。
FXでは原資(証拠金)の数倍~数十倍の額が取引できる
もう一度さっきの例を見てみましょう。1ドル120円の時に100ドルを買います。その後1ドルが125円になったら、その100ドルを売ります。1万2000円で買ったものを1万2500円で売ったのですから、差し引き500円の利益になります。
確かに利益は出ていますが、たったの500円だけです。安いラーメン1杯食べて終わりです。もし1万ドル買っていれば利益は5万円でしたが、これでも1か月の生活費の足しにもなりません。リスク背負って120万円投資しておいてリターンがわずか5万円とは何とも悲しい話です。
と、これだけ見るとFXで億万長者になるなんてのは夢のまた夢の話であるようにも思えますが、実はFXには原資の数倍~数十倍のお金で取引をする仕組みがあります。このような仕組みを「レバレッジ」といいます。
また、最初に取引業者の口座に預け入れる担保のお金(原資)を「証拠金」といいます。少額の証拠金にレバレッジを効かせて、多額の取引ができるのも、FXの特徴といえます。
具体的な例を見てみましょう。1ドル120円の時に、原資(証拠金)1万2000円でドルを買うとします。普通に考えたら1万2000円分=100ドルしか買えません。しかし、レバレッジを活用すればもっと多くのドルが買えます。
たとえば、レバレッジが100倍だった場合は、証拠金1万2000円の100倍、つまりは120万円分だけドルを購入することができます(=1万ドル)。そしてその後1ドル125円になった段階でその1万ドルを125万円で売れば、差し引き5万円の儲けです。
わずか1万2000円の原資で、5万円も稼ぐことができました。もし原資が120万円あれば、儲けは500万円になっていました。
レバレッジが高いと借金を負う可能性も
むろんレバレッジが高いのはいいことばかりではありません。仮にこの後1ドルが115円になった場合、1万ドルを売っても115万円にしかなりません。120万円で買ったものを115万円で売ったのですから、5万円の損失です。
5万円の損失の補てんは証拠金から行われますが、証拠金は1万2000円しかないので差額の3万8000円は借金ということになります。これがFXで借金をする仕組みです。
実際にFXで借金を負う可能性はあまり高くない
しかし、実際のところFXで借金を負う可能性はそれほど高くありません。節度を守って取引をしていれば、証拠金を失うことはあっても借金まで負うことはまずないといえます。「ロスカット」という仕組みが働くからです。
ロスカットとは、含み損が大きくなりそうなときに自動的に行われる強制的な決済のことをいいます。証拠金だけでは損失を補てんできなそうになったときは、FX業者側の判断で自動的に取引をしてくれるのです。
具体的な例を見てみましょう。たとえば、証拠金1万2000円、レバレッジ100倍で、1ドル120円の時にドルを120万円で1万ドル買い、その後1ドル119.4円になったとします。この時点でドルをすべて売れば、119万4000円帰ってきます。従って含み損は6000円です。
つまり、この段階での実質的な証拠金(証拠金残高)は1万2000円-6000円=6000円となります。
当初の証拠金に対する証拠金残高の割合を証拠金維持率といいます。この場合の証拠金維持率は6000円/1万2000円=50%ということになります。
通常の業者では、証拠金維持率が50%を割った段階でマージンコールを送ることになっています。マージンコールとはFX業者が投資家に対して送る警告のようなものです。
マージンコールを受け取った投資家は、証拠金を追加して証拠金維持率を上げるか、もしくはその時点で決済するかのどちらかを選ぶ必要があります。
たとえば、ここに証拠金を1万円追加した場合、実質的な証拠金は6000円+1万円=1万6000円となり、証拠金維持率は1万6000円÷1万2000円≒133.3%となります。これなら急場はしのげます。
もちろん、今後さらに損失が広がる可能性を見越して、この時点で決済をするというのも選択肢になります。
マージンコールを受け取ったにもかかわらず証拠金の追加もせず、さらには決済も行わなず、さらに損失が大きくなり証拠金維持率が低くなった場合は、その時点で強制的に決済が行われます。これがロスカットです。
マージンコールはロスカットが近いことを示す最後通告のようなものといえます。ロスカットが正常に機能すれば、原則的には口座がマイナス(借金)になることはありません。
ロスカットがあれば必ず借金を背負わない、というわけではない
いきなりさっきの話とは矛盾してしまいますが、ロスカット制度のあるFX業者を利用していれば、絶対に借金を背負わないのかというと必ずしもとそうとは言えません。ロスカット制度が常に正常に働くとは限らないからです。
為替取引というのは、買い手と売り手がそろって初めて成立するものです。売りたいという人がいても買いたいという言う人がいなければどうしようもありませんし、逆もまたしかりです。
買い手がいないときや売り手がいないときは持ち続けるしかありませんが、そうしているうちにさらに為替が変動して借金になってしまうこともあります。
また、強制ロスカットは成行注文であり、指値注文ではありません。成行注文とは値段を指定しない注文のことです。たとえば、売り注文が100万円分あるのに買い注文が10万円分しかない場合は需給ギャップが生じます。
この場合、成行注文時点での為替では売買が成立しないので、より買う側に有利な方向まで値段が飛びます。本当は1ドル90円でロスカットされるはずだったのに、実際には1ドル80円でロスカットされてしまうこともあるのはそのためです。
また、FX業者でサーバーの不具合があり、注文ができなくなることも考えられます。FXは取引のボリュームが多いため、相場が急激に変わった時は売買注文が殺到した時にはサーバーダウンすることもあります。
障害に伴って発生した損失は基本的に投資家の責任となるので注意が必要です。
このようにFXは「原則的に借金は生まれない取引」である物の、実際のところはその原則に当てはまらないケースというのが多数あります。現実的にはFXは借金と隣り合わせである、ということは覚えておいたほうがいいでしょう。
借金をしないコツは「低レバレッジ、低リスク、豊富な原資」
FXで借金をしない一番のコツは「レバレッジを小さくすること」です。極端な話、レバレッジを1倍にしてしまえば絶対に借金することはありません。最悪でも証拠金をすべて失うだけで済みます。
レバレッジを1倍にして取引することは実質的には外貨預金であり、FXとは言えないかもしれませんが、ともかくこうすれば借金は絶対に避けられます。
とはいえレバレッジ1倍のFXはあまりにも面白みがありませんし、儲けもほとんど出ません。一般的にはレバレッジは3倍~8倍程度なら借金を背負うことはまずないとされています。
それなりに儲けたい、かといって借金は嫌だという場合は、レバレッジをこの程度に合わせるといいでしょう。
ちなみに、現在の日本の業者の最高レバレッジは25倍です。海外業者を使えばレバレッジ400倍での取引も可能ですが、初心者にはお勧めできません。
次に取引をする通貨について考えてみましょう。先進国の通貨、たとえばドルやユーロなどはあまり大きく値動きする可能性がないので比較的低リスクといえます。
逆に名前も知らないような国のマイナー通貨は短期間のうちに大きく価格変動する可能性が高いので、あまりたくさん買うべきではありません。むろん、大きく儲けられる可能性を秘めているともいえるのですが……。
原資については当然、多ければ多いほど借金を背負う可能性が低くなります。まあ、豊富に原資を持っている人がFXにチャレンジする意味があるのかどうかと聞かれると疑問が残りますが……。
FXの損失で自己破産はできる?
FXで多額(数千万円以上)の借金を負ってしまった場合は、普通は自己破産を選択することになるかと思います。しかし、自己破産には免責不許可事由(自己破産が認められないケース)が定義されており、その中に「FXや不動産などの投資」が含まれています。
しかし、実際にはFXで作った投資でも自己破産が認められるケースが大半です。自己破産には裁量免責という制度があるからです。裁量免責とは、裁判所の判断で免責不許可事由があったとしてもそれに目をつぶって免責を認めることです。
裁判所としても免責不許可になって自暴自棄になられて自殺や犯罪などに手を染められることは避けたいので、実際にはほとんどの場合において裁量免責が認められます。
とはいえ何もしないでも裁量免責が認められるわけではありません。自己破産の手続きにおいては裁判所に書面を提出したり、面談を行ったりする必要がありますが、その中で自分の判断に甘さがあったこと、それについて反省していること、自己破産した後は真面目に生きて行くつもりであることなどをアピールしていくといいでしょう。
一人で裁判所と渡り合うのはほぼ不可能なので、自己破産の手続きの際には弁護士などの専門家の力を借りることを強くお勧めします。彼らの手を借りることができれば、手続きもスムーズにいきます。
弁護士費用は何千万もの借金に比べたら微々たるものですし、法テラスでは無料相談も受け付けていますので、積極的に利用してみてはいかがでしょうか。