口約束の効力というのは、人によって考え方が異なる問題だと思われます。しかし、法律的には、答えは1つに決まっています。
社会人になり、自分でお金を稼ぐようになると、仕事上でもプライベートでも、他社とさまざまな約束を交わすことが増えていきます。
口約束の効力については、誤解している人もたくさんいます。正確に理解をしておくことで、思わぬトラブルになることを防げるかもしれません。
口約束でも法律的には有効!だけど・・・
口約束とは、契約書などの書面を作成せず、口頭だけで約束をすることを言います。家族や友人の間で約束をするときは、いちいち書面を作ったりしないことも多いです。
しかし、ビジネスの場面でも、口約束だけで契約が結ばれることはあります。お互いに信頼関係が築けている場合などです。もしも口約束が守っても守らなくてもよいものなら、世の中は混乱してしまうでしょう。
実は、口約束でも法律的な効果はあります。日本の民法は諾成契約主義が採用されていますので、口約束でも法律的に有効な契約が結べます。ただし、例外もあります。
保証人契約など、書面で契約をしなければ無効になることもある
民法550条では、「書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。」と定められています。
書面によらない贈与は、一応は有効ですが、履行をしないうちは自由に撤回ができるということです。
また、民法第446条2項では、「保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。」とあります。保証契約については、書面でしなければ効力がないということです。
このように、特例で書面でしなければ効力が発生しないとされていたり、自由に撤回ができるとされているケースでは、書面を作成することは必須となるでしょう。
公序良俗に反する契約
意外と知らない人も多いですが、公序良俗に反する契約は、口約束でも、書面を作成していたとしても、どちらにしても無効です。
例えば、「5万円を払うので性交渉をする」という約束をしていた場合、それが書面によるものでも、口約束によるものでも、公序良俗違反になるので無効です。
逆に、すでに5万円を支払っていた場合、公序良俗違反を犯していた人は、たとえ「性交渉をする」という約束が果たされていなくても、5万円を相手から返してくれと裁判を起こすことはできません。
違反行為をしたら、法律は守ってくれないことがあるので注意をしておきましょう。
お酒の席での約束事は?
お酒に酔っている席で、口約束で重要な契約を結んでしまった場合にはどうなるでしょうか?
お酒に酔っていても、口約束での契約は有効になります。しかし、実際には、お酒の席で勢いでした約束事は、成立しないことも多いです。
裁判になったときには、訴えを提起した側に立証責任があります。言った・言わないの論争になるでしょう。
仮に言ったということが立証できても、お酒の席での話ですから、法律的な効果が認められることは少ないかもしれません。法律と現実とは違うという1つの例です。
結論!重要な契約は書面で行う
口約束での契約にも、特例がなければ、法律的な効果はあることがわかりました。しかし、相手が約束を守らず、さらに「そんな約束はしていない」と開き直っている場合には、言った・言わないの争いになってしまうでしょう。
裁判になると証拠がなければ負けてしまう可能性が高いですから、重要な契約は書面で行うことが、無難です。お金の貸し借りを口約束だけでする場合には、お金をあげるつもりでいたほうがよいでしょう。
口約束でのお金の貸し借りの約束
家族や友人に対してお金を貸すときには、借用書を作らずにお金を貸してしまうことが多いです。口約束だけでの契約も有効なので、相手が長年の付き合いがあって信用のできる人物ならば、それもよいかもしれません。
しかし、お金の貸し借りでトラブルが起きると、それまで良好だった人間関係を簡単に破壊してしまうことがあります。なるべくお金は借りない・貸さないということを心がけておくべきでしょう。
出世払いの注意点
お金の貸し借りをするときには、「出世払い」、「お金に余裕ができたときに支払う」というように、期限をはっきりと定めずに契約をしてしまうことがあります。
出世払いといったように、実現するかどうかが不確定なことを条件にすることは、無期限であることとほぼ同じであると考えておいたほうがよいでしょう。
親が子供にお金を貸すときには、出世払いとして、お金をあげるつもりで貸すことがあります。しかし、きちんと返して欲しいと思っている場合には、何月何日までに返済するといように、期限の定めが重要になります。
利息をつけるか否か
個人間のお金の貸し借りでも、利息をつけることができます。利息についてなにも定めなかった場合でも、法定利息の5.0%は請求することができます。
分割払いか一括払いか
個人間の借金でも、分割払いで少しずつでも支払ってもらうようにしておくことがおすすめです。なぜなら、毎月定期的にお金が振り込まれていれば、それが証拠となるからです。
よく、メールで約束をしたから大丈夫だと考えている人がいますが、メールでの約束だけでは、裁判になったときに証拠として認められないこともあります。
メールの証拠能力
メールで「何月何日までに返す」といったやり取りをしていた場合、それが証拠となるかどうかはケースバイケースです。メールは手書きの文書に比べて偽造が容易であるため、証拠としては認められないこともあります。
しかし、相手が争わない場合など、メールが決め手となることもあるので、なるべく証拠となるメールは残しておくべきです。
口約束での借金、相手が返済しなかったら?
口約束での借金は、相手が甘えてしまって返済をしないということがよくあります。
証拠がない場合
借用書を作成せず、なにも証拠がない場合には、相手は裁判になっても負けることはないので、逃げられると考えてしまっている場合があります。「もう少し待ってくれたらお金ができる」などと引き伸ばしにしておいて、10年の時効を狙っているケースもあります。
時効は10年なの?
銀行や消費者金融からの借金の時効は5年なので誤解している人がいますが、個人間の借金の時効は10年です。
飲み屋のツケ、旅館やホテルの宿泊料などは、民法が改正されて時効が5年になるという話がありますが、2016年現在はまだ民法が改正されていないので、飲み屋のツケなどは1年で時効が来てしまいます。
信用情報に傷がつかない
金融機関からの借金である場合には、延滞をすると信用情報に傷がついてしまうという大きなデメリットがあります。延滞が続くとブラックリストに入れられてしまって、強制執行をされてしまいます。
個人間の借金では、信用情報に傷がつくというデメリットがないため、相手が甘えてしまっている傾向があります。
相手との関係を壊してしまう
法的措置をとって強引に借金を回収しようとすれば、相手との関係を壊してしまう可能性があります。相手が「自分との関係を壊したくないから強くは出られないだろう」と考えている場合もあります。
刑事事件にできるか
口約束であっても、相手がお金を返すと約束をしたのに、いっさい返済をしてくれない場合、詐欺罪で訴えることもできます。しかし、刑事事件で訴えるには確実な証拠が必要になります。
メールのやりとり、ボイスレコーダーへの録音、銀行振り込みの明細書、預金通帳など、できるだけ証拠を揃えておきましょう。
民事事件として解決をする方法
刑事事件にする場合、相手を犯罪者として訴えるということになりますので、時間や手間がかかるだけでなく、精神的な負担もかかります。なるべく民事事件として解決をしてしまうのがよいでしょう。
お金を貸したという証拠が揃っているなら、弁護士に相談をして、裁判もする覚悟があるなら、お金が返ってくる可能性は高いです。給料口座の差し押さえといった強制的な手段に出ることも可能です。
両親に話すことで解決をすることも
相手側の両親や兄弟、友人に話すことで、本人にきつく言ってくれるかもしれません。両親が代わりにお金を返してくれることもあります。
相手に「両親に話します」と伝えることで、両親にバラされることを恐れて、あわててお金を返してくれるかもしれません。
借用書の効力
個人間での借金でも、借用書を作成しておくことが重要になります。しかし、借用書には法的効力がありません。
法的効力がないので、相手が返済をしなくても、強制的に財産を差し押さえることができません。
もちろん、裁判などで証拠として使えますので、全くの無駄というわけでもありません。
借用書の約束通りに相手が支払わない場合には?
相手が支払わない場合には、まずは口頭や内容証明郵便で催促をして、それでも支払わなければ、裁判をする必要があります。
裁判をするためには弁護士を雇う費用などもかかり、膨大な時間が必要になるので会社を休む必要もでてくるかもしれません。たくさんの労力と時間をかけて裁判に勝っても、相手が自己破産をしてしまって無意味になってしまうこともあります。
法的効力のある書類とは
借用書に法的効力を持たせるためには、公正証書を作成しておくことです。公正証書を作成しておけば、相手が支払わないときに裁判をスキップしていきなり給料の差し押さえや口座の差し押さえをすることができます。
もちろん、公正証書を作成しておけば絶対に安心というわけでもありませんが、給料の差し押さえをされると相手としては会社にバレてしまい、不利益を被るので、精神的なプレッシャーも与えることができます。
公正証書の作成には、契約を結ぶ両者で揃って公証役場まで行き、手数料を支払って書類を作成する必要があります。
「お金を貸してほしい」と言われたら、「公正証書を作成してくれるならいいよ」と言うことで、相手は「それなら消費者金融で借りるよ」と諦めてくれるかもしれません。相手を諦めさせる理由としても使えますね。