借金で自己破産した場合、家族にはどんな影響がある?

自己破産は個人単位で行うものです。そのため、保証人になっていない限りは夫が自己破産しても奥さんに請求が行くことはありませんし、逆もまたしかりです。自己破産をすることによって、権利が制限されるなどのデメリットを直接被るのは本人だけです。

しかし、そのデメリットを間接的に家族が被る可能性は十分に考えられます。もしあなたがいま自己破産を考えているのならば、その点を理解しないまま、家族に相談もせずに自己破産するのは危険です。自己破産は任意整理と違い、家族に隠し通すこともまず不可能です。

自己破産する場合は、必ず事前に家族にその意志と、生じるデメリットを包み隠さず相談しましょう。

自己破産の基本的な仕組み

自己破産とは、裁判所で所定の手続きを行うことによって、借金を原則として0にする手続きです。原則として、となっていいるのは、例外的に免除されない借金もあるからです。

具体的には未払いの税金、損害賠償請求権、離婚時の養育費などは、自己破産をしても免除されません。このような、自己破産をしてもなくならない借金を非免責債権と言います。

自動車ローン、住宅ローン、金融機関のカードローン、クレジットカードの分割払いやリボ払いなどはいずれも非免責債権には当てはまらないため、自己破産をすれば0にできます。

自己破産で家族に直接影響が出ることはないが、間接的な影響は出る

自己破産は個人単位で行うものです。従って、自己破産をすることによって一部の行為が直接制限されるのは自己破産をした本人のみです。しかし、自己破産をした本人が権利の制限を受けることによって、家族に間接的に何らかの影響が及ぶことはあります。具体的には、以下のような影響が出る恐れがあります。

  • 自己破産者名義の住宅や自動車が使えなくなる
  • 一時的に収入源がなくなることがある
  • 一定の間自己破産者名義で新たなローンを組めなくなる
  • 長期の旅行や転居が制限される
  • 周囲に身内の自己破産がバレて、人間関係に影響が出る

今回は会社員の夫と専業主婦の妻、小学生の子供2名の世帯の夫が自己破産をすることにより、妻と子供にどのような影響が出るのかをシミュレーションしていきたいと思います。

自己破産者名義の住宅や自動車が使えなくなる

夫が自己破産をした場合、夫に帰属する時価20万円以上の財産は原則として没収されます。没収された財産は換価(換金)され、債権者に配当されます。一般的な個人が所有している可能性が高い時価20万円以上の財産には、以下の様なものがあります。

  • 住宅
  • 自動車
  • 解約返戻金が20万円以上ある保険

これらの財産は全て夫名義ではなくなるため、必然的に妻と子供2人もこの財産を使用できなくなります。マイホームやマイカーは手放すことになります。また、学資保険は子供名義で積み立てているかと思いますが、実質的な負担者が夫であれば夫の財産とみなされます。

最近は裁判所の判断で学資保険の維持が認められるケースもありますが、そうならないことについても覚悟しておくべきでしょう。

自己破産直前に名義を変更するのは財産隠しとみなされ、自己破産できなくなる可能性が高い

それならば、自己破産をする寸前に上記の財産を妻に名義変更すればいいのでは、と思われるかもしれませんが、これは絶対にやってしまってはいけない行為です。

このような財産隠しは債権者の「返済を受けられる権利」を不当に侵害する権利とみなされるからです。財産隠しが場合、夫の自己破産そのものが認められなくなってしまう可能性が高いです。

また、このような行為は「詐欺破産罪」という犯罪に該当し、1ヶ月以上10年以下の懲役、もしくは1000万円以下の罰金に処される恐れがあります。

バレなければいいのでは、と思われるかもしれませんが、自己破産の手続きで裁判所から専任される破産管財人(申し立て者の財産を管理する専門家。通常は弁護士)は必ず財産隠しに気づきます。

どうしても財産を残したいという場合は、個人再生をおすすめします。個人再生は原則として整理する債務を選べませんが、例外的に住宅ローンだけは整理の対象外にでき、自己破産のような財産没収もないので住宅だけは守れます。ただし、その際は当然住宅ローンは今後も支払い続けることになります。

一時的に収入源がなくなることがある

自己破産の手続き中は、一部の資格が制限されます。一部の例を挙げると以下のとおりです。

  • 弁護士
  • 司法書士
  • 行政書士
  • 会計士
  • 税理士
  • 証券会社外務員
  • 保険外務員
  • 損害保険代理店
  • 警備員
  • 会社役員

自己破産の手続き中は、この資格を必要とする一切の業務ができなくなります。手続きにかかる期間は数ヶ月程度であり、それが終わればまた仕事ができるようになります。

しかし、例えば夫がこれらの資格を必要とする業務に携わっており、妻が専業主婦という場合、一時的に収入が途絶えてしまう可能性があります。その期間中は夫や妻が別の仕事をする、残すことが可能な財産で凌ぐなどの工夫が必要になってきます。

一定の間自己破産者名義で新たなローンが組めなくなる

自己破産をすると、暫くの間は自己破産者名義でローンが組めなくなります。

自己破産をすると、信用情報機関という機関に自己破産をしたことが記録されます。金融機関はその情報にアクセスできるので、自己破産をした直後にローンの審査を申し込んでも、自己破産したことがすぐにバレます。金融機関は当然最近自己破産をした人には貸さないので、審査に落ちるというわけです。

ローンが組めなくなるのは自己破産した本人のみで、その配偶者や子供には影響は出ません。しかし、今回の例のように妻が専業主婦で子供が小学生という場合、残された家族は無収入なのでもともとローンが組めません。

夫もローンを組めないので、この世帯の誰もローンを組めないということになります。このような状況下では、自動車や住宅を手に入れることができません(一括払いできる資力があるなら別ですが、自己破産をした直後にそのような資力は通常ありません)。

信用情報機関に登録された情報は通常7年~10年ほどで削除されます。削除されたあとは自己破産をしていないのと同じ状態になるため、またローンを組めるようになります。

なお、信用情報機関に登録された情報を、上記の期間よりも短くする手段は存在しません。たまに「信用情報機関のブラック情報即座に消します」といったような怪しい広告を目にすることもありますが、あれはすべて詐欺です。

長期の旅行や転居が制限される

自己破産の手続き中は、長期の旅行や転居が制限されます。自己破産者が逃走したり、遠く離れた所に財産を隠したりするのを防ぐためです。長期の旅行の定義は明確ではありませんが、宿泊を伴う旅行は原則として該当すると考えたほうがいいでしょう。

自己破産中にこれらの行為をしたい場合は、裁判所に許可を得てから行いましょう。通常は問題なく許可が出ます。裁判所に許可を得ずに長期の旅行や転居をしたことがバレると家族にも大きな不利益が及びますので、こっそり旅行などしないようにしてください。

周囲に家族の自己破産がバレて、人間関係に影響が出る

自己破産をすると、高額な財産であるマイホームやマイカーは原則として手放すことになります。突然マイホームもマイカーも手放したことが周囲にバレれば、周囲の人達からは少なからず不審に思われることでしょう。

周囲の人がそこから自己破産したという結論に至る可能性がどれくらいあるのかはよくわかりませんが、勘が良くて自己破産がどういうものか大まかに知っている人にはバレる可能性があります。

自己破産にまつわる7つの誤解

家族が自己破産をすることによって生じる主なデメリットは上記のとおりです。自己破産はネガティブなイメージがあるため、もっとたくさんのデメリットが有るのではないかと思っていたかも多いかと思いますが、それは誤解です。中には自己破産をすると以下のようなデメリットがあると思われている方も居るようですが、全て誤解です。

  • 公的年金が差し押さえられる?
  • 生活保護がなくなる?
  • 財産がすべて没収される?
  • 給料が全額差し押さえにあう?
  • 戸籍や住民票に記載される?
  • 新聞に掲載される?
  • 貯金ができない?

公的年金が差し押さえられる?

自己破産をしても、本人及び家族が受給している公的年金(国民年金、厚生年金、共済年金)の受給権は差し押さえられません。また、現時点では公的年金を受け取っていない人が自己破産をすることによって、将来の年金が差し押さえられることもありません。

ただし、公的年金をすでに受給しており、なおかつそれを借入先の銀行の銀行口座で受け取っている場合は注意が必要です。自己破産をすると、口座が凍結してしまうからです。一度口座が凍結してしまうと、そこからお金を引き出せることはほとんどありません。年金受取用の口座はローンのない別の銀行で用意するなどの工夫が必要になります。

また、民間の生命保険会社などで加入している年金保険は原則として解約され、債権者への支払いに当てられます。しかしその場合でも、その年金が生計維持のために使われていると認められた場合は、全体の4分の3までを受給できる可能性があります。

生活保護がなくなる?

自己破産と生活保護は独立した制度ですので、自己破産をしようがしまいが、生活保護受給条件を満たしていれば同じように受給できます。ただし、生活保護費をローンの返済に当てるのは望ましいことではありません。厚生労働省のホームページにもそのことが明記されています。

住宅ローンがあるために保護を受給できないことはありません。ただし、保護費から住宅ローンを返済することは、最低限度の生活を保障する生活保護制度の趣旨からは、原則として認められません。

引用元:http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12000000-Shakaiengokyoku-Shakai/QA29.pdf

財産がすべて没収される?

自己破産をしても、すべての財産が没収されることはありません。高額な一部の財産を除けば、殆どのものは手元に残ります。

自己破産をして破産管財人(自己破産者の財産を管理・換価する人)が裁判所から専任されると、自己破産者の財産の処分を判断する権利は破産管財人に移ります。しかし、すべての財産が破産管財人の支配下に移るわけではありません。支配下に移らない財産を自由財産といい、自由財産は以下の3つにわけられます。

  • 新得財産:破産開始手続き決定後に取得した財産(新得財産)は、その金額にかかわらず自由財産となります。
  • 99万円までの現金:自己破産をすると原則的に20万円以上の財産は没収されますが、例外的に現金だけは99万円まで没収されません。ただし預貯金は20万円を超えると、それを上回った文が没収の対象となります。しかし、最近は裁判所の判断で預貯金も99万円まで守られるケースもあります。この辺は非常に複雑なので、どうすれば最も多くの財産を残せるかわからないという場合は、弁護士に相談しましょう。
  • 差押禁止財産:差押禁止財産とは、生活に欠かせない道具(衣服、寝具、家具、台所用具)などです。

給料が全額差し押さえにあう?

すでに受給した給料については、給料債権でなく預貯金として扱われるため20万円以上の部分については処分されます。これから受給する給料のうち、破産手続開始の時点で発生している給料債権については、原則として4分の3が差し押さえ禁止財産に当たります。破産手続開始の時点で発生していない給与債権は新得財産扱いとなります。。

戸籍や住民票に記載される?

自己破産をしても、そのことが戸籍や住民票に掲載されるわけではありません。かつては市町村役場が管理していた破産者名簿に名前が記載されるのが一般的でしたが、平成17年の破産法改正後は、そのようなこともほとんどなくなりました。

仮に名前が掲載されたとしても、破産者名簿自体は非公開で、外部の個人や企業などには公開されません。地方公務員の知り合いがたまたま破産者名簿を見る可能性は0ではありませんが、非常に低く無視しても問題ないレベルです。

新聞に掲載される?

自己破産をしても、一般的な民間の新聞(全国紙やブロック紙、地方紙など)に名前が掲載されることはありません。しかし、国が発行する機関紙である「官報」には名前及び住所が掲載されます。

官報は破産者名簿と違って、見ようと思えば誰でも見られます。比較的新しいものはWebで確認できるほか、県庁の官報販売所で買ったり、図書館で無料で見たりすることも可能です。

しかし、実際に官報を見る人はごく少数です。誰でも見られるものであっても、実際にはほとんど誰も見ないのです。主な読者や金融・不動産関係の企業の担当者、市区町村役場や税務署などで働く一部の公務員などです。

貯金ができない?

自己破産をするとその時点で20万円以上の預貯金は処分されますが、手続き決定開始後に得たお金は新得財産=自由財産となり処分はされないので、当然貯金も可能です。

貯金だけでなく、不動産や株式などを購入することもできます(最も、ローンは組めないので現金一括購入が事実上の必須条件となります)。

家族に内緒で自己破産をするのは危険!

自己破産というのは、お世辞にもかっこいいものではありません。何とかして家族に隠したいという気持ちはわからないでもありません。

しかし、家族に隠れて自己破産をするのは非常に難しい上、バレたときに大きく信頼を失うことになるのでおすすめできません。もちろん、自己破産をする意志を明確にして伝えてもある程度信頼を失うことは免れませんが、それでも隠そうとしてバレるよりはよっぽどマシです。

処分する財産がなくても自己破産はいずれバレる

マイホームかマイカーの少なくともどちらか一方を保有している場合、それらの財産は原則として没収されるため、自己破産をするのは事実上不可能です。これらの財産がなくても、20万円以上の財産がある場合は原則として没収されるため、やはり隠し通すのは不可能です。

では、これらの高額な財産がない場合はどうでしょう。この場合、自己破産の手続きをバレないようにやれば、隠し通すことはできなくもありません。

裁判所からの通知は弁護士事務所に届くように設定しておけば、自宅に裁判所からの通知は来なくなります。弁護士からの連絡は弁護士事務所の封筒を使わず、弁護士の個人名で出してもらえれば、家族にもあまり怪しまれないでしょう。

自己破産をする場合裁判所に出頭する必要がありますが、弁護士を雇う場合は1回出頭すればいいだけなので、適当な理由をつけて外出してしまえば隠せるはずです。

しかし、その後が問題です。自己破産をすると、前述のとおり様々な制約がかかります。その制約からバレるケースが非常に多いのです。

特に大きいのが「一定の間自己破産者名義で新たなローンを組めなくなる」というものです。現時点では住宅ローンや自動車ローンを組む予定がなくても、将来必要になったときに当然必ず審査に落ちるので、家族からは少なからず怪しまれることでしょう。

また、クレジットカードも原則として作れなくなります。クレジットカードも厳密に言えば借金の一つだからです。いい年をした大人がクレジットカードの一つも持っていないというのは明らかに不自然です。特に、今まで普通にクレジットカードを使っていた人が、いきなり現金主義になった場合、間違いなく周りから怪しまれます。

これについては、一応デビットカード(即座にお金が引き落とされるカード)でカモフラージュすることもできます(クレジットカードとデビットカードは見た目が似ているので、ジロジロ見られなければバレることはないでしょう)が、バレるかもしれないというプレッシャーが長く続くことには変わりありません。

また、意外と忘れられがちなことですが、携帯電話の本体料金の分割払いも原則としてできなくなります。携帯電話会社によっては、10万円以下の端末の場合は信用情報機関への問い合わせを行わない(自社審査のみ)こともありますが、行うこともあります。

闇金からのDMは非常に危険で防ぐ手立てもない

そして、自己破産がバレる主な原因の一つに、闇金から送られてくるDMがあります。先程少し触れた官報の主な読者は特定の企業の担当者や公務員などの、いわゆる「カタギ」の人たちですが、闇金の人たちも見ることがあります。闇金側から見れば、官報に名前が載っている人たちは絶好の「カモ」だからです。

官報に掲載されている人は自己破産をした人、言い換えれば正規の金融機関からの借り入れができない人です。正規の金融機関から借りられる人たちには相手にされない闇金が彼らをターゲットにするのは至極当然の話です。

自己破産までしたのに凝りもせず闇金からお金を借りる人など居いるのか、と思われるかもしれませんが、コレが結構いるから困りものです。喉元過ぎれば熱さを忘れる、とはよく言ったものです。

一度闇金から借りてしまうと泥沼に巻き込まれることは確実で、縁を切るためには弁護士の力が必要になります。弁護士を雇うためには弁護士費用が必要であり、無駄な出費をさらに重ねることになります。

闇金は弁護士などと違ってこちらに対する配慮などまるでありませんので、堂々と金融機関名を名乗ってDMを送ってきます。聞いたこともないような怪しい金融機関から何通もDMが送られてきたら、どんなに鈍い人でも怪しいと気づくはずです。

それを毎回他の家族に見られる前に処分するのは非常に難しい(昼間働いている社会人ならばなおさら)なため、無理して隠し通そうとせず、明確にした方がいいでしょう。

借金が少ない場合は「任意整理」ならバレずに行いやすい

もし家族にどうしても債務整理がバレたくない場合は、任意整理を選ぶのも一考の価値ありです。任意整理は自己破産と違い、債務整理後も借金は残ります。それ故に多額の借金がある人には向きませんが、自動車ローンや住宅ローンなど、特定のローンを整理の対象外とすることができるので、大事な財産を手放す必要がなく、従ってバレにくいです。

また、任意整理は裁判所を通さない私的な手続きですので、裁判所から連絡が来ることもありませんし、官報に名前が掲載されないので闇金から連絡が来ることもありません。新規借り入れができない期間も自己破産と比べると短いです。

ただし、借金の額が多い場合は、バレないことよりも借金をなくすことを優先すべきです。

まとめ

  • 自己破産をすると、家族に間接的な影響が及ぶことがある
  • 自己破産者名義の住宅や自動車などは没収され使えなくなる
  • 自己破産者名義でローンを組むこともしばらくできなくなる
  • 自己破産をしても年金がもらえなくなったり、給料が全額差し押さえられたりすることはない
  • 家族に自己破産を隠すのは非常に難しく、バレたときに大きく信頼を失墜する

自己破産は人生を大きく変えるものです。後のトラブルを防ぐためにも、必ず行う前に家族に相談しましょう。