日本の借金が1000兆円を突破したとか、一人あたりに直すと800万円であるとかいうニュースを聞いたことがある方は少なくないかと思います。
国の借金が増え続けているのは日本に限ったことではありません。アメリカでも、ヨーロッパ諸国でも、殆どの国で借金は増え続けています。増加のペースに多少の差はありますが、だいたいどこの国でも借金は増え続けています。
一体国の借金というのはなぜ増え続けるのでしょうか。今回はその理由について考えてみたいと思います。
目次
国民がお金を借りているわけではない
まず、国の借金とは何か、というところから考えてみたいと思います。国というのは政府のことです。政府は毎年様々な事業を行います。そしてその事業を行うためには予算、つまりはお金が必要です。
予算は最初に組まれる本予算、その後予算に過不足が生じた場合に組まれる補正予算、衆議院解散のときなどに暫定的に組まれる暫定予算の3つがあります。
予算の財源は税金です。しかし、税金だけではすべてを賄うことはできません。そこで政府は国債という仕組みで借金をして予算を組みます。
国債は国が発行する債券です。債券とは予め一定の期間保有ごとに利子を受け取ることができ、満期まで保有し続けると元本が受け取れるものです。株式とは違い、発行元には返済義務があります。
満期が来るまで国が財政破綻しない限り、元本は保証されます。(満期が来る前に売却することもできますが、その場合は元本割れする可能性があります)。
では、一体誰が国債を買うのでしょうか。国債を買うのは個人投資家や機関投資家というイメージを持つと、我々には縁遠い話に思えるかもしれませんが、実は主な国債の買い手は銀行です。
銀行は我々が預けている預金に対して利息をつけなければなりません。利息をつけるためにはお金を増やす必要があるわけで、そのために国債を買っているのです。つまり、国民は銀行を通じて国債を間接的に買っているわけです。
国が一度支出を始めるとなかなか減らせない
支出が収入よりも多い状況は明らかに不自然で均衡が取れていないので、支出を減らすか収入を増やすかどちらかすれば良いのでは?と思われるかもしれません。
たしかにそれは正しいことなのですが、実際に国が支出を減らしたり、収入を増やしたりするのはとても難しいことなのです。
まずは支出について考えてみましょう。国の支出の内訳は国債費(39%)が最も多く、社会保障費(33%)、地方交付税交付金(8%)、財政投融資(7%)、その他(全部まとめて13%)となっています。
国債費
国債費とは国債の利子の支払い、もしくは元本の支払いに当てるお金のことです。借金を返せなくなったら国は破綻しますから、これは当然節約できません。となると一番節約できる可能性が大きいのは社会保障関係費に思えます。
社会保障関係費
社会保障関係費とは概ね年金、医療、介護、生活保護のいずれかに該当するものです。国と地方の社会保障費の合計を社会保障給付費といいますが、これは実に合計で110兆円に達しています。内訳は年金が約50兆円、医療は35兆円、介護が9兆円です。
これらの内訳を見ても分かる通り、社会保障費は主に高齢者のために使われます。高齢化が急速に進展している日本では必然的に社会保障費も膨らみ続けています。
社会保障費を節約するためには高齢者の同意が必要ですが、生活のかかっている高齢者がそんなことに同意するわけにはありません。
資産に余裕があって、しかも人がいい高齢者なら話は別ですが、そうした人はごく少数派にとどまるため、高齢者の社会保障削減を掲げる政治家ではおそらくは選挙に勝てないでしょう。
高齢者に限った話ではありませんが、社会保障というのは一度充実させると後でカットするのが極めて難しくなります。必ずその恩恵を受けている人たちの反対を受けるからです。
反対の声に逆らって社会保障費をカットすれば国民切り捨てとメディアがこぞって叩く現状では、どの党が政権についてもそう大きく状況は変わらないでしょう。
地方交付税交付金
次に多いのは地方交付税です。地方交付税とは簡単に言えば国から地方自治体へ送られる仕送りです。
自らの税収だけで財政が成り立っている自治体は多くありません。殆どの自治体ではお金が不足しています。それを穴埋めするのが地方交付税です。近年は多くの自治体が地方交付税を受け取れることを念頭に活動しているため、これをカットするのも容易ではありません。
財政投融資
財政投融資とは空港や高速道路、都市再開発などの社会資本作りに対して投資、もしくは融資することです。土木分野のみならず、中小企業や農林水産業、国際金融やODA、教育や福祉、医療などが対象です。
その他、公共事業関係費や文教及び科学技術振興費、防衛関係費などはもともと規模が大きくないぶんコストカットできる余地も少なく、ここから削るのは非効率です。
となればやはり社会保障費を削るしか無いのですが、前述の通り高齢者はまずそれに反対するため上手くいかない、というのが現状なのです。
国の収入は簡単には増えない
では、支出を減らすのではなく、収入を増やす方法を考えてみましょう。しかし、こちらは支出を減らす以上に難しいことはすぐに想像がつくかと思います。国の収入の多くは税収のことであり、増税に進んで賛成する国民はまずいないからです。
国の収入は租税及び印紙収入(60%)、国債(36%)、その他(4%)という内訳になっています。
租税及び印紙収入とは簡単に言えば税金のことです。内訳は所得税(18%)、消費税(18%)、法人税(13%)その他(10%)となっています。
所得税
所得税は個人の所得に対してかかる税金で、所得が高い人ほど税率が高くなります。消費税は消費に対してかかる税金で、現在は一律8%です。法人税は会社などの諸遠くに対してかかる税金で、法人の種類や資本金の切っ波、所得金額によって変わります。
日本の所得税率は諸外国と比べるとやや高い(ただし低所得者の所得税率は低い)仕組みになっています。これ以上所得税を上げてしまうと、たくさん所得税を支払っている富裕層が海外に流出してしまう可能性があり、容易には引き上げられません。
消費税
消費税は現在一律8%ですが、将来は10%になります。しかし、消費税が上がったことによる経済活動の低下なども考えると、税収増は極めて限定的なものになるでしょう。
法人税
法人税は諸外国とあまり変わらない水準で、ここを上げると起業の経済活動が低調になってしまう恐れがあります。
増税ができない日本
どの税金を上げるにせよ、その税金を負担しなければならない人から反発があることはまず間違いありません。また、増税は消費を停滞させ、却って景気を悪化させる可能性もあることを考えると、なかなか増税には踏み切れません。
その結果が毎年の国債の発行につながっているわけです。たくさん保障は受けたい、かと言ってその財源を負担したくないという国民のワガママを聞いてきた結果がこれです。政治家は国民の声を聞いていないのではなく、むしろ国民に対して言いなりになりすぎているのです。
本来、税収を増やしたいのならば、未来に対して投資し、価値を創造できる人を育成しなければなりません。つまり、教育費や科学新興費にもっとお金を出すべきなのです。
言い方は悪いですが、社会保障の主な対象になる高齢者はすでに価値を創造し終えた人で、これから彼らが新しく何かを創造するとは少し考えづらいです(中にはそれが出来る高齢者もいるかもしれませんが、割合としては大きくはないでしょう)。
そもそも、彼らはもっと若いうちに財産を築いておくべきだったのです。特に病気があるわけでもなかったのに自分の怠惰のせいで十分な資産を築くことができず、それを今の若い人が面倒見なければならないというのは理不尽な話です。
しかし、若者は高齢者より少ないので、その声が届くことはほぼ考えられないでしょう。最も日本は全体で見れば相当裕福な国であることは間違いなく、このままでも問題ないという見方もあります。
経済というのは実に複雑なものであり、簡単に一つの結論が出せるようなものではないのです。
問題なのは対外債務
ところで、前述の通り日本の国債の多くは日本の銀行が買っています。日本の銀行にお金を預けるのはほとんどが日本人ですから、日本の国債はほとんど日本人が買っているということになります。
一方で海外の投資家や金融機関、あるいは政府などが日本の国債を買うこともないわけではありません。あるいは逆に、日本の投資家や金融機関や政府が海外の国債を買うこともあります。
対内債務で破産した国はない
ある国の政府や民間企業や個人が、海外の投資家や金融機関や政府に将来返済しなければいけない債務を対外債務と言います。一方、国内の投資家や金融機関や政府に将来返済しなければいけない債務を対内債務と言います。
このうち、遥かに怖いのは対外債務です。対外債務の返済が滞ると国内から資本を引き上げられてしまう可能性が高い上、世界経済を混乱に陥らせる可能性があるからです。
これまで過去に対外債務で破産したことがある国はたくさんあっても、対内債務で破産した国はありません。債務が大きくても、その殆どが対内債務だったらほとんど問題ないわけです。
日本の対外債務は世界第7位
日本の対外債務は2015年時点で約2.74ドル(約300兆円)です。これは世界第7位の金額です。ただし、この額面が大きいからと言って必ずしも危険なのかというと、あるいは少ないから安心なのかというとそうとも限りません。
経済規模は国によって違います。例えばGDPが100兆ドルの国にとって対外債務1兆ドルは大した額ではありませんが、GDPが10億ドルしかない国にとって対外債務1兆ドルは非常に大きな額と言えます。
実質的な負担の大きさを見るには、対GDP比で見る必要があります。対外債務の総額が対GDPに対して最も大きいのはルクセンブルクで、その割合は実に5417%です。
つまり、国の稼ぎの約54倍もの対外債務を抱えているというわけです。日本は60%で、世界54位となっています。
この計算は民間と政府の対外債務を合算して考えた数値であり、必ずしもこの数値だけでその国の財政の危険度が測れるわけではありませんが、指標とはなるでしょう。
ちなみに、前述のルクセンブルクは実は世界で最も一人あたりのGDPが高い国です。ルクセンブルクのような小国は産業をまんべんなくやっていたら大国にはどうしても勝てないので、一点豪華主義に走る必要があります。
ルクセンブルクが選んだのは金融業でした。金融業は経済が好調なときならば極めて高いGDPと成長率をただきたすことができますが、一方で経済が停滞するととたんに立ち行かなくなります。
金融業以外にもいろいろな産業があればそっちでカバーすることも出来るのですが、前述の通り小国は一点豪華主義でないと生き残れません。ルクセンブルクの対外債務の大きさはそれを如実に表しています。
日本の対外純資産は世界トップクラス
ところで、誰かがお金を借りるということは、誰かがお金を貸すということでもあります。ある国が対外債務を負っているということは、それだけ別の国が対外債権を持っているということでもあります。
対外債務が多くても、対外債権がそれ以上に大きければ問題ない、という考え方があります。対外債権から対外債務を差し引いて、それがプラスだった場合は対外純資産、マイナスだった場合は対外純負債があるといいます。
対外純資産が大きければ大きいほど、利子や配当を受け取れるので国は豊かになります。財務省がまとめたところによれば、日本の対外純資産残高は約339兆円で、これは世界トップの数値です。
2014年と比べて減少してはいますが、それでもまだまだ他国の追随を許しません。こうした観点で見れば、日本経済はバラ色とも言えないこともないわけです。
それならば何故生活はちっとも良くならないのか
日本にこれだけの対外純資産があって、債務はほとんどが問題のない対内債務ならば日本人の暮らしはもっと豊かになるのでは?と思われるかもしれませんが、これは単純な話で、日本人の生活が貧しいとするならば、世界の人達はもっと貧しいというだけです。
日本人の平均的な生活水準は、世界的に見ればトップクラスであり、しかし日本人はこの暮らしが当たり前になってるからそのことがわからないのです。
年収が400万円の人は、世界で最も稼いでいる人トップ1%に入ります。もちろん物価は国によって違うので一概には言えませんが、これで年収が少ないと嘆くのならば、世界の多くの人たちから石を投げられるのは間違いないでしょう。
それでも年収を増やしたいのならばやはり勉強と努力によってのし上がるぐらいしかありません。日本にはチャンスがそこらじゅうに転がっています。他人が文句をいうだけでそれに見合った努力をしない今こそ、自分がのし上がるチャンスと言えそうです。