差し押さえという言葉が持つイメージはなかなか恐ろしいものですが、実際の所差し押さえがどんなものなのか正確に把握している人はあまり多くありません。
イメージだけで怖がってしまう人も多いようですが、それは正しい態度とはいえません。何事にも正しい怖がり方というものがあるのです。今回は差し押さえという仕組みの概要と、それを避けるための方法を説明したいと思います。
差し押さえは最終手段
差し押さえとは、強制執行の一種です。強制執行とは、債務者が債務を返済しない時に、債権者が強制的に取り立てられる制度のことです。
強制執行の中でも金銭の支払を行わない債務者の財産から強制的に取り立てるものを差し押さえといいます。支払いではなく行為(建物の取り壊しなど)を強制的に行わせることは「差し押さえ以外の強制処分」と言います。
しかし、債務者が債務を返済しなかったからといって、いきなり差し押さえが行われることはまずありません。債権者としても、なるべくことを荒立てるような真似はしたくないのです。
差し押さえにも労力がかかります。それよりももっと穏やかで簡単な方法で返済を促し、それでも返済が行われなかった時に初めて差し押さえを行うのです。
差し押さえを力づくで妨害しようとすると、強制執行妨害となり、罰金刑や懲役刑の対象となります。
1. まずは電話や手紙で催促
返済が滞ると、債権者はまず電話による催促を行います。返済遅れの原因はほとんどがうっかりミスであり、この時点でほとんどの債務者が返済を行います。ここで終われば、何の問題もありません。
電話での催促が空振りに終わった場合は、電話ではなく手紙で催促を行うことが多いようです。債権者が電話に気がついていなかっただけの場合はこの時点で返済が行われるので問題がありませんが、中には悪意を持って手紙を無視するような債務者もいます。
その場合は次のステップに進みます。
2. 直接訪問で催促
電話や手紙による取り立てが長期間(1ヶ月程度)無視された場合、自宅を直接訪問して催促を行うことがあります(1人暮らしの場合のみ。同居している家族がいる場合は通常、自宅への訪問は行われません)。
債権者は債務者に対して誓約書と返済計画書を手渡し、今後支払いを必ず行うと誓わせます。
3. 裁判所に訴える
自宅への訪問も効果がなかった場合は、裁判所に提出する書類の作成を始めます。債権者が裁判を起こすと、債務者のもとに裁判に出席するようにという内容の呼出状が届きます。
裁判では債権者と債務者の双方の意見を聞いたうえで判決が下されますが、殆どの場合で債務を支払うようにという判決が下されます。まあ、当たり前の話ですね。
しかし、中にはこうした判決が下されたにも関わらず、なお逃げようとする債務者もいます。こうした債務者から、強制的に取り立てるのが差し押さえです。債務者が判決に従わなかった場合、債権者は裁判所に差し押さえの申し立てができます。
裁判所の差し押さえ命令が出た場合、債権者は債務者の財産を差し押さえることができます(仮執行宣言が出ていたり、公正証書が昨性されていたりすると、判決の前に差し押さえが行われることもあります)。
最初に差し押さえの対象になるのは給料
差し押さえが認められた場合、債権者は債務者のほぼすべての換金可能な財産を差し押さえることができます。具体的には、不動産(土地や建物)、動産(不動産以外のもの)、債権(債務者に持っている請求権)を差し押さえることができます。
しかし、現実的には債権者がすべての財産をいきなり差し押さえることはありません。換金性の低いもの(例えば中古の扇風機など)を差し押さえてもそれを現金化するのは難しいですし、持ち出しや売却の労力を考えるとむしろ赤字になってしまいます。
また、一部の生活必需品は、そもそも差し押さえること事態が禁止されています。
さて、そのような中でも最も差し押さえの対象になりやすいのが給料です。給料はほぼ必ず差し押さえの対象になると入っても過言ではありません。何しろ現金ですからね。
ただし、給料を全額差し押さえることはできません。債務者にも生活があるからです。差し押さえの上限は、手取りの4分の1までと定められています。ただし、33万円を超えた部分については、全額差し押さえが可能です。
手取りが33万円以上の場合、「33万円を超えた部分」と「手取りの4分の1」のうち、より大きい額が差し押さえられます。例えば、手取りが40万円の場合、「33万円を超えた部分」は7万円、「手取りの4分の1」は10万円なので、10万円が差し押さえられます。
1度の差し押さえでは足りない場合は、2度、3度と給料を差し押さえることができます。
なお、給料に対する差し押さえが執行された場合、そのことが会社に伝えられます。
銀行預金も差し押さえの対象に
銀行預金も差し押さえの対象になりやすい財産の一つです。預金の差し押さえの特徴は、給料と違って差し押さえに制限がないことです。つまり、全額を一気に差し押さえられてしまう可能性があることです。
差し押さえの結果預金が1円もなくなり、債務者が生活できなくなっても、それは債権者の知ったことではないというわけですね。
不動産や自動車も差し押さえの対象だが、優先順位はやや低い
不動産や自動車は非常に高価な財産なので差し押さえの対象になることもありますが、優先順位は給料や銀行預金と比べるとやや低めです。給料や預金は実質現金と同じですが、不動産や自動車は現金化するのに手間がかかります。
また、維持管理、保管に費用がかかります。債権者としてもなるべく余計な手間は掛けたくないので、給料や銀行預金がある場合はそちらを優先させるのです。
家財の優先順位はかなり低い
家財も差し押さえの対象になることがありますが、その優先順位は非常に低いです。まず、冷蔵庫、洗濯機、調理器具、ベッドなどの生活必需品はそもそも差し押さえができません。
パソコンは生活必需品ではありませんが、それほど高額で処分することもできませんし、中に個人情報が入っていることも多いので、差し押さえの対象にはなりにくいです。
家財の中でも特に優先順位が高いのは大画面TV、高級家具、美術品などの競売で現金化しやすく、なおかつそれなりに高額な値がつくものです。どの財産を差し押さえるかは執行官次第です。なお、自分以外の財産(家族の財産など)は差し押さえられません。
差し押さえを避けるための方法
差し押さえを避ける最も簡単な方法は、そもそも借金を滞納しないことです。万が一滞納してしまった場合は、すぐに返済すれば差し押さえまで行くことはまずありません。
すぐに支払うのが難しくても少し待ってもらえれば……という場合は、話し合いで支払期限を伸ばしてもらったり、分割払いにしてもらったりすることも可能です。催促を無視するのが一番いけません。
万が一裁判を起こされてしまった場合は、話し合いでの和解を目指しましょう。和解を目指す場合は、必ず弁護士のサポートを受けるようにしましょう。弁護士費用もままならないという場合は、法テラスに駆け込んでください。