今の御時世、会社はいつ潰れるかわかりません。いつも通りに給料が支払われると思っていたら、突然会社が潰れて呆然とした経験があるという人は、意外と少なくないのです。
勤務先が突然潰れてしまったときに、多くの人が心配するのが今後の生活です。特に借金がある人はなおさらです。今回の記事では、突然会社が倒産したときの対処法を解説しています。これを読んで万が一に備えて下さい。
目次
倒産とは経済活動ができなくなった状態
そもそも倒産とは、企業が債務を支払えなくなったり、経済活動を続けられなくなった状態のことをいいます。最近は経営破綻という言葉使われることも多いですが、意味としてはそれほど違いはありません。
倒産後は会社が事業を継続しながら再建を図ることもあれば、企業自体を清算することもあります。
ただし、再建を目指す場合でも、コストカットのためにかなりの従業員が解雇されることになります。会社が倒産することになったら、どちらにしろ自分は解雇される可能性が大きいと覚悟しておいたほうがいいでしょう。
まずは再就職先を探そう
会社が倒産したら、当然元の会社から給料はもらえなくなってしまいますので、新しい就職先を見つけなければなりません。
就職先の探し方は色々ありますが、基本的に元の会社からの紹介には期待しない方がいいでしょう。そんな余裕がある会社はそもそも倒産しないはずですからね。
再就職先を探すのに便利なのがハローワークです。ハローワークで再就職先を探す場合は、会社からもらえる離職票が必要になります。離職票は通常、離職から10日以内に送らなければいけない決まりになっています。送られてこないときは元の会社に早急に連絡しましょう。
ハローワークではまず、求職票に住所、指名、年齢などの一般的な事項のほか、最終の就職先、希望する職業、希望する勤務時間、希望する休日数、過去の職業履歴、保有資格などを記入します。ハローワークに見本が置いてあるので、そのとおりに記入すれば問題ないでしょう。
記入後、それを受付に渡すと、ハローワークカードというカードが貰えます。これはハローワークで職業相談をしたり、紹介状を発行してもらったりするときに必ず必要になるカードです。大事なものなので再就職先が見つかるまでなくさないようにしましょう。
カードを貰ったあとは、職員と面談を行います。求職票に書いてある内容をもとに質問が行われるため、何を聞かれるかは人によって異なります。職員は話の内容をパソコンで記録してくれます。
その後はハローワークに設置されているパソコンの検索システムを使って希望する仕事を見つけます。地域の求人情報を業種ごとに絞れるので非常に便利です。テレホンサービスや小冊子などもありますが、基本的にはパソコンで探したほうが早いです。
良い求人が見つかったら、ハローワークの職員に相談しましょう。気になることがある場合は、どんどん質問して下さい。相談の結果求人に応募する場合は、職員が面接の段取りを決めてくれたうえで、紹介状をもらえます。
この紹介状は面接の際に必要になるものなので、なくさないように保管しましょう。
面接の結果、再就職先が決まった場合は、就職する前の日にハローワークへ行って就職の報告と手続きを行って下さい。決まらなかった場合は、もう一度システムを使って仕事を探します。
失業期間中は失業給付を受けよう
前の就職先で雇用保険に加入していた場合は、失業期間中は失業給付を受けることができます。失業給付の申請はハローワークで行います。前述の離職票と、雇用保険に加入していたことを証明する保険証を持って、ハローワークまで行きます。
職員から退職した理由を尋ねられますので、素直に会社が倒産したことを伝えてください。会社都合による退職は、自己都合による退職と比べて失業給付の給付期間が2倍以上になります。
職員と話を済ませたあとは、通常別日に開かれる失業保険の「雇用保険受給説明会」に参加します。ここでは職員から求人検索システムなどの使い方の説明などを受けたあと、簡単なアンケートに解答します。
失業給付は再就職する意思と能力がある人にしか給付されませんので、アンケートでは再就職の時期の目標や予定を前向きに記入しましょう。
失業保険の給付期間は人によって異なります。失業保険受給者は大きく
- 一般受給資格者
- 特定受給資格者
- 就職困難者
- 日雇労働被保険者
にわけられます。最も数が多いのは一般受給資格者(自己都合退職者)ですが、会社の倒産によって失業した場合は特定受給資格者に該当することになります。会社都合に依る退職のため、失業保険の給付日数は長めに取られています。具体的な給付日数は以下のとおりです。
失業保険の給付日数
労働期間 | 1年未満 | 1年以上 5年未満 |
5年以上 10年未満 |
10年以上 20年未満 |
20年以上 |
---|---|---|---|---|---|
30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | – |
30歳以上 35歳未満 |
90日 | 90日 | 180日 | 210日 | 240日 |
35歳以上 45歳未満 |
90日 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 |
45歳以上 60歳未満 |
90日 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 |
60歳以上 65歳未満 |
90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
雇用保険には全部で14種類の保険がある!?
ここまで失業給付について説明してきましたが、雇用保険に入っていた人が受け取れるのは失業給付だけではありません。失業給付以外にも、全部で13種類の給付があるのです。
例えば、ハローワークが支持している公共職業訓練所で職業訓練を受ける場合は、「技能習得手当」という給付が受けられます。
また、一定の条件を満たした就職先に就職した場合は、「再就職手当」がもらえます。この他にもいろいろな制度がありますので、フルに活用したいところです。詳しい制度の仕組みはハローワークの職員が最もよく知っていますので、よく聞いておきましょう。
ハローワーク以外で再就職先を探そう
ハローワークは非常に便利で心強い味方ですが、再就職先はハローワークで見つけなければいけないという決まりがあるわけではありません。
例えば、会社が倒産する前に作っておいた人脈がある場合は、その人のつてを頼るのもいいでしょう。技量が十分にあれば、友人やかつての取引先の知人から仕事を紹介してもらえるかもしれません。
また、最近はいわゆる求人サイトを使って再就職先を探す人が少なくありません。求人サイトを利用するメリットは、応募企業の担当者と直接やり取りができることです。
面接日程調整なども自分でしなければならないため大変といえば大変なのですが、その分熱意をより相手に伝えやすいです。サービスも基本的に無料で利用できる上、会員登録をしておくだけでスカウト情報が入ってくることもあります。
転職エージェントを使う人も少なくありません。転職エージェントとは、転職を希望する人にアドバイスをくれたり、求人を紹介してくれたりするアドバイザーです。
転職アドバイザーサイトに登録すると必ず担当がつき、相談に乗ってもらったり、面接の対策に協力してもらったりすることができます。こちらも基本的に無料で利用することができるうえ、面倒な日程調整などは転職エージェントがやってくれるというメリットもあります。
求人サイトと転職エージェントどちらも一長一短であり、どちらが一概に優れているとか劣っているとか、そういうことはできません。自分で求人を探したいのならば求人サイトのほうが便利ですが、求人の選考は他人に任せたいという場合は転職エージェントのほうが便利です。
企業から見た場合、求人サイトへの広告掲載よりも転職エージェントに支払うコンサルティング料金のほうが高いため、求人サイトでは通常レベルの人材を探し、転職エージェント経由ではレベルの高い人材を探す、というような使い分けをしている企業が少なくありません。
自分のレベルにあまり自信がない場合は求人サイトを、自信がある場合は転職エージェントを利用するのがいいかもしれませんね。
求人サイトはどう使えばいい?
求人サイトを利用する場合は、自分で求人をチェックして応募しなければなりません。しかし、世の中にはたくさんの求人があるため、どれに応募すればいいのか迷ってしまうこともあるかと思います。
きちんと自分の中で基準を作ってから申し込むようにしないとやたらと申込数が多くなったり、逆にどこにも申し込む決心がつかなくなってしまうので注意が必要です。
求人を探す上で重要になってくるのが、希望条件の優先順位です。当たり前の話ですが、自分の希望する条件を全部満たしてくれる求人はめったにありませんし、たとえあったとしてもより優秀な人がその席を奪ってしまいます。必ずどこかで妥協しなければなりません。
しかし、だからといってあまりにも妥協しすぎてしまうと、今度は就職決定後に後悔することになります。すべての条件を満たす職場はなくても、特に優先させたい条件だけを満たしている職場は少なからず存在しています。
自分が職場に対してどのような条件を求めているのか予め明らかにしておき、その条件を満たす職場を見つけるようにしましょう。
希望条件のチェックリストを作ってみよう
一般的な希望条件には、以下の様なものがあります。
- 企業の規模が大きく、安定している
- 設立年が新しく、将来性がある
- 今までに取った資格や経験を活かせる
- 優良顧客を多く抱えている
- 忙しすぎない
- 季節ごとの忙しさがあまり変わらない
- 希望する市場や業界である
- 自動車で通いやすい
- 家から近い
- 駅から近い
- 転勤させられる可能性が低い
- 平均年齢が高い/低い
- 職場の雰囲気が悪くない
- 社員を教育する体制が整っている
- 資格を取得すると手当がつく
- キャリアアップ制度が充実している
- 社員の独立をサポートしてくれる
- 基本給が高い
- 出来高次第で大きく稼げる
- ボーナスがたくさんもらえる
- 退職金がもらえる
- 出産や育休制度が整っている
- 休日が多い
- 長期休暇を取りやすい
これらの条件をたくさん満たしている企業があればいいですが、実際にはそんな企業はまずありません。そこで、この中でも特に絶対に譲れない条件を幾つかピックアップします。例えば、
- 企業の規模が大きく、安定している
- 希望する市場や業界である
- 職場の雰囲気が悪くない
- 基本給が高い
の4つの条件が絶対に譲れないものである場合は、まずこの条件を満たしている求人をとりあえずピックアップしていきます。
求人がたくさん見つかったら、その中からその他の条件を多く満たしている求人を探し、それに申し込むようにします。これだけで理想に近い職場を見つけられる確率はぐんとアップします。
会社が倒産した場合、履歴書や面接はどうやって乗り切る?
会社が倒産したことを知られると採用レースで不利になるのではと心配される方も多いようですが、基本的には倒産で退職しても不利になることはありません(もちろん有利になることもありませんが)。
企業の倒産は基本的には経営者、経営陣の責任であって、一社員の責任ではないからです。運が悪かったんですね、という感想ぐらいしか持たれません。履歴書にも「倒産したので退職」という旨を記入して構いません。
ただし、会社の倒産が原因で仕方なく転職活動をしている、という態度を表に出すのは辞めたほうがいいでしょう。大抵の人にとって転職活動は「仕方なく行うもの」ではありますが、それが相手に伝わってしまうのはまずいです。
業績不振で倒産したが、その経験を糧にして新しい職場では業績向上に貢献できるように頑張りたい、といった自己PRをした方がいいでしょう。
履歴書と職務経歴書の違いは?
転職活動をするにあたっては、履歴書と職務経歴書が必要になります。どちらも似たような書類ですが、じつは全く違うものです。
履歴書はこれまでの自分の人生の履歴を証明するものです。基本的には所属していた高校、大学、会社を順番に書いていくものです。大雑把に自分を知ってもらうために必要な書類、という感覚でだいたいいいでしょう。
書ける面積かなりは限られているので、必要なことがあれば口頭で伝える、ぐらいの気持ちで大丈夫です。
一方、職務経歴書は具体的にどのような仕事をしてきて、どのようなことを学び、どのような技術を身に着けたかを詳しくアピールするものだと考えて下さい。
面接で何も喋らなくても自分の能力が相手に伝わるような職務経歴書は非常に高く評価されます。職務経歴書は自分の能力のプレゼンツールです。自分がいかに有能であるかをどんどん語っていきましょう。
なお、転職エージェントに登録した場合は、履歴書や職務経歴書の書き方を丁寧に指導してもらうことができます。やり方に自信がないという場合は、転職エージェントを利用したほうがいいかもしれません。
健康保険に入ろう
会社が倒産した場合、その時点で今まで使っていた健康保険証は使えなくなってしまいます。健康保険証がないと、医療費が全額自己負担となってしまいます。
これを防ぐためには、以下の3つのどれかを選択しなければなりません。
- 国民健康保険に加入する
- 任意継続の手続きをする
- 被扶養者になる
国民健康保険は各市区町村が運営している健康保険です。原則として自営業者や無職者、短時間労働者などが加入するものです。国民健康保険料は市区町村によって異なります。
国民健康保険に加入する場合は、退職してから14日以内に市区町村に行き、手続きをする必要があります。手続きには退職日が証明できる書類(資格喪失連絡票など、前の職場からもらえます)、身分証明書、印鑑が必要になります。
なお、退職した日と国民健康保険に加入する手続きを行った日に間があったとしても、退職した日の翌日から国民健康保険に加入していたものとして処理されます。
空白期間中に医療を受ける場合は、最初に全額自己負担で医療費を支払う必要がありますが、健康保険証が届いてから払い戻しを受けることができます。3割負担の場合、7割が帰ってきます。
なお、倒産が原因で会社を退職した場合、国民健康保険が軽減される可能性があります。軽減される期間は退職した日の翌日が属する月から、その月の属する粘土の年度末までとなります。手続きは市区町村役場で行います。
任意継続とは、社会保険の被保険者が一定の条件を満たしていた場合に利用できる制度で、最大で2年間社会保険が継続できるというものです。過去に継続して2ヶ月以上健康保険に加入していた場合、申請が可能です。
ただし、退職してから20日以上経過すると申請できなくなってしまいますので気をつけましょう。
任意継続後も保険料は変わりませんが、会社が折半してくれていたぶんまで自分が払わなければならないので、実質的な保険料は2倍になります。ただし、任意継続の保険料には上限があります。だいたいどこの地域でも2万8000円前後が上限になります。
また、任意継続には2年の期間制限があります。この期間中に就職して新たな健康保険に加入しない限り、脱退することはできません。任意で加入できますが、任意で辞めることはできないわけです。
被扶養者とは、家族が加入している健康保険の被扶養親族として登録することです。被扶養者が増えたからと言って社会保険料が上がるわけではないので最も経済的ですが、配偶者や親、子などが社会保険に加入している必要があります。
国民健康保険と任意継続はどちらがお得?
一概には言えませんが、どちらかと言うと任意継続のほうが保険料は安く済ませられる場合が多いです。但し、国民健康保険料は市区町村によってその額が異なるため、絶対に任意継続のほうがお得だといい切ることはできません。
どちらのほうがお得かしっかりと見極めてから加入したいという場合は、市区町村役場に連絡して国民健康保険料を計算してもらったほうがいいかもしれません。
年金の手続きをしよう
健康保険と同時に手続きしなければならないのが、年金です。会社員の人は通常、厚生年金に加入しており、厚生年金保険料を(国民年金保険料と一緒に)収めているはずです。
国民年金は20歳以上の国民が原則として全員加入する必要がある1階部分の年金で、厚生年金は会社員が上乗せできる2階部分の年金です。会社員を辞めた場合は厚生年金から脱退することになります。
厚生年金の脱退手続きは会社がやってくれるので問題ありませんが、国民年金加入の手続きは自分でやらなければなりません。年金保険料を収めないと、将来もらえる年金が少なくなってしまいます。
国民年金に新たに加入する場合は、市区町村役所で手続きをします。手続き期間は退職した日から14日以内となっていますが、遅れても特にペナルティなどはありません。
ただし、遅れてもいいことは何もないので、なるべく早く手続きをしましょう。手続きにあたっては年金手帳、印鑑、退職証明書、身分証明書が必要です。
なお、社会保険に加入している配偶者がいる場合は、配偶者の厚生年金の被扶養者になることができます。厚生年金被扶養者になれば年金保険料をおさめること無く年金制度に加入できるので、条件を満たす場合は必ず被扶養者になりましょう。
ただし、失業中などであってもバイトなどをして年収が130万円を超えた場合は被扶養者の資格を失うことになります。失業給付も収入とみなされるので注意しましょう。手続きは配偶者の勤務先にお願いします。
国民年金だけで大丈夫なの?
国民年金は原則としてすべての国民が加入する1階部分ですが、将来の給付額は40年間年金を完璧に収め続けた場合でも年額約80万円(月額6万6000円程度)にしかならないため、国民年金だけではとても老後の生活を守れません。なので基本的には失業したら速やかに再就職先を探し、再び厚生年金に加入すべきです。
失業をきっかけに自営業者に転身しようと考えている場合は、被雇用者のための年金である厚生年金には加入できませんが、代わりに国民年金基金や確定拠出年金に加入することができるようになります。
国民年金基金は自営業者やフリーランスのための年金と位置づけられています。各都道府県に一つの「地域型国民年金基金」と、職種別の「職能型国民年金基金」があり、どちらに加入しても構いません。
国民年金基金に加入した後、再び会社員に転向する場合は、それまで収めた額に応じて将来年金が受け取れます。ただし、脱退直後に一時金として受け取ることはできません。
確定拠出年金は自分で運用方法を決める自己責任型の年金です。株式、債券、定期預金、不動産投資信託、保険商品などの多数の金融商品の中から、これだと思うものに自ら投資をします。
国民年金基金と違って予め将来の給付額が決められておらず、将来が不確定という難点があるものの、そのかわり大きな利益を挙げられればそれは全額自分のものになります。また、掛金は原則として控除されるなど、税制面で優遇されています。確定拠出年金については、以下の記事も参考にして下さい。(参考:定期預金なら金利30%計算!?個人型確定拠出年金のメリットが凄い)
会社が倒産した時点で借金があったらどうする?
勤務先が倒産した時点で借金があった場合はどうすればいいのでしょうか。勤務先の社長などから借金をしていた場合、たとえ会社が倒産したとしても、借金の返済義務が無くなることはありません。借金をしていた自分自身が債務整理をするか、時効が経過した上で人口援用を行わない限り、借金がなくなることはないのです。
勤務先から借金をしていないが、他の金融機関等から借金をしている場合は、兎にも角にもいち早く就職先を見つけるのが最も確実な選択肢となります。
というか、それ垓外の解決方法はないと言ってもいいでしょう。失業給付は金額に上限があるうえ、起源も限られてくるので一時的なつなぎ資金としてしか期待できません。
仕事がなかなか見つからない場合、あるいは見つかったけれど収入が大きく減ってしまった場合は、基本的には債務整理が第一の選択肢となります。債務整理については、こちらの記事も参考にして下さい。(参考:借金の債務整理の種類とそれぞれのメリット・デメリット)
会社の倒産の兆候を嗅ぎ分ける17個の方法
ここまで会社が倒産した後に取るべき方法について解説してきましたが、一番いいのは会社が倒産しそうになった段階でそのことに気づき、早めに行動を取ることです。
沈みゆく船にいつまでも乗っている義理はありませんし、無能な経営者のもとで働き続けても自分のためになりません。会社が倒産しそうになったら、さっさと見切りをつけるべきです。では、一体どうすれば倒産の兆候に着付けるのでしょうか。
1.優秀な人がやめていく
倒産の兆候の中でも最もわかりやすいのは、人がどんどん抜けていくことです。そして大抵の場合、倒産前にやめていくのはその会社の中でも特に優秀な人です。
優秀な人ほど倒産の傾向を見抜くのがうまく、またたとえ会社を辞めてもすぐに再就職できるという自信があるためです。逆に優秀でない人は会社にいつまでもしがみつこうとします。そのため、会社内には能力が低い人ばかりが残ることになり、倒産する、というわけですね。
仕事ができる人、あるいは優秀な上司や役員クラスが抜けていった場合は気をつけたほうがいいでしょう。また、経理担当の社員は他の社員よりも会社内の状況に詳しく、倒産の兆候に気づく可能性が早いため、彼らの行動も大いに参考にすべきです。
2.経費削減にうるさくなった
経費削減は普通の会社ならばどこでも行っていることですが、倒産しそうな会社は経費削減にばかり熱意をそそぎます。最初のうちはコピー機のインクの使用量や、ボールペンなどのごく小さな消耗品の節約に尽力することになります。
しかしそれくらいではとても経費削減にはならないため、社員に消耗品を自腹で購入させたり、業務用の携帯電話画は廃止になってプライベートの電話を使うように指示されたりするかもしれません。これはかなり危険な兆候と言えます。
末期になると売上を上げるための根幹を為す広告宣伝費を削ったり、仕入先をより安い(代わりに品質が悪い)ところに買えたりするため、売上が伸びなくなり更に業績が悪化するという悪循環に入っていきます。経費削減はどこの企業でも大なり小なり行われていることなので気にし過ぎもよくありませんが、あまりにもそれが行き過ぎていると感じた場合は注意が必要です。
3.人件費が削られた
経費削減の中でも特によく行われるのが人件費、つまりは給料のカットです。カットの通知が来る場合まだはいいですが、知らない間に残業代の計算方法が変わっていて、給料を安くする仕組みができあがっていたときなどはその時点でかなり危ない可能性が高いです。
給料が期日通りに支払えなくなったときは、末期と考えていいでしょう。できればそうなる前に沈むゆく泥舟からの脱出を図りたいものです。
4.精神論が横行し始めた
精神論自体は全く無益なものではありませんが、ただ頑張れ、売上を上げろというだけでは何も成功しません。具体的な成功するためのプロセスを考えることもなく、定量的な目標設定なども設定されないようになったら、その会社はかなり「やばい」状態にあると見ていいでしょう。
5.キャッシュ(現金)を手に入れることを最優先する
会社を経営する上で最も必要になるのがキャッシュ、すなわち現金です。手元にキャッシュがあれば、今日明日に倒産する可能性を下げることができます。しかし、キャッシュを集めることを最優先するようになったら要注意です。
小口の売掛金の回収をやたら急ぐようになったり、目先の資金調達のために採算度外視とも思われる投げ売りを行ったり、支払サイト(支払期間)を長くするようになったらかなり危険と言っていいでしょう。
6.銀行との関係性が悪化した
経営状態が健全なときは、銀行員のほうが会社に出向いてきてくれます。しかし、経営が悪化してくると銀行は貸し渋りをするようになるため、社長自ら銀行に出向くようになります。
また、メインバンクからの資金調達ができなくなり、他の金融機関にメインバンクを変更することもあります。メインバンクが変わったからと行って必ずしも危険というわけではありませんが、いわゆるノンバンクから資金調達をするようになった場合は要注意です。ノンバンクな銀行ほど審査が厳しくない代わりに、金利も高めに設定されています。
7.取引先との関係が悪化した
安定して収益を挙げられている企業には、必ずと行っていいほど長く付き合っている取引先があります。いわゆる「太い客」です。しかし、経営が悪化していくると、こうした太い客との関係が破綻してしまうことがあります。
取引先は与信管理(企業と取引をするかしないか、する場合はどの程度の金額までするかを決めるかの設定や見直しのこと)をしており、危険な会社と判断された場合、取引が打ち切られてしまいます。多くの取引先から取引を打ち切られたら、かなり危険な状態にあると考えていいでしょう。
8.仕事の量が変化した
経営が悪化すると極端に仕事が減りそうな気がしますが、実際には必ずしもそうとは限りません。逆に仕事が増える例も少なくありません。今まで受けていなかったような利益が少ない小さな仕事をたくさん受けるようになるからです。当然、利益が少ない仕事をいくら一生懸命こなしても経営状態はよくなりません。
9.経営者や経営陣の態度や行動が変化した
温和だった経営者が常にイライラするようになったり、社長の出社時間が今までより遅くなったり、日中不在になるようになったら要注意です。また、経営者のもとに取引先でない人が頻繁に訪問するようになった場合も要注意です。
10.少人数私募債を頻繁に発行し始めた
少人数私募債とは、企業が発行する普通社債の一種で、社債の中でも募集人数が50人以下、金額合計が1億円以下の、規模の小さなもののことです。
通常の社債を発行するには取引先を経由する必要がある溜め手続きが煩雑ですが、少人数私募債は簡単に発行できるため便利で、ベンチャー企業や中小企業でも比較的簡単に発行できます。少人数私募債を購入するのは主に身内の社員、社員の知り合い、取引先などです。
少人数私募債自体はつなぎ資金を入手する上で非常に便利なものであり、悪いものではありません。社債なので銀行からの融資と違って毎月元本を返済していく必要はなく、償還期間までは利息だけを払えばいいので、最初に大きな投資が必要で、その後大きな収益が生まれる業種には向いています。
しかし、中には最初から社債を買った社員や取引先を騙す目的で少人数私募債を発行する企業もあります。1回や2回の発行ならば特に気をつける必要もないですが、頻発している場合は要注意です。
11.自己資本比率が低く、下がっている
自己資本比率とは、総資産に対する純資産の割合です。総資産とは、建物、土地、備品、売掛債権など、企業が持っている資産の総称です。一方、純資産とは、総資産のうち、純粋な企業の持ち分、他人に返済する必要のない資産です。
具体的には株主から集めたお金と、会社自身が生み出した過去の利益を積み立てたもの、最初に用意したお金(資本金)が純資産になります。
例えば、会社を立ち上げるに当たって資本金を1000万円用意し、銀行から3000万円を借り入れたとします。その後、1年で銀行からの借金を300万円返済し、なおかつ200万円の利益を上げたとします。この場合、会社の総資産は1000万円+(3000万円-300万円)+200万円=3900万円です。
一方、純資産は1000万円+200万円=1200万円です。したがって自己資本比率は1200万円÷3900万円≒30.7%となります。仮に自己資本比率が100%になっているとしたら、それは借金を1円もしておらず、会社の総資産はすべて自分のお金で買ったものである、ということができます。
無論無借金経営が必ずしも健全というわけではありませんが(普段から銀行との付き合いがいないと万が一の際に助けてもらえない可能性が高くなるからです)、無駄な借り入れは少ないに越したことはありません。
業種によって目標とすべき自己資本比率はまちまちですが、自己資本比率が50%を超えている企業はほぼ倒産リスクがない超優良企業とされ、40%以上ならばそこまでは行かないものの優良企業と判断されます。中小企業の平均的な自己資本比率は15%ぐらいです。自己資本比率があまりにも少なすぎる場合は、注意が必要です。
なお、自己資本比率はマイナスになることもあります。マイナスになってもすぐに倒産するとは限りませんが、かなり苦しい状態にあることは間違いないでしょう。
12.経営安全率が低く、下がっている
経営安全率とは、限界利益に対する経常利益の割合です。限界利益とは、売上高から変動費を覗いたものです。変動費は売上高と連動して動くため、売上が10%上がれば限界利益も10%上昇します。
経常利益とは、毎年安定的に発生している利益のことで、営業活動や財務活動で得られた収益や費用を全て足し引きし、税金を引く前の利益のことです。
経営安全率が高いということは、経営利益が限界利益に対して大きい、つまり経常利益が減っても赤字にはならないということです。仮に経営安全率が10%あったとしたら、今後経常利益が10%減っても赤字にはならない、ということです。当然、経営安全率は高いに越したことはありません。経営安全率の目安は事業によって異なりますが、
一般的な経営安全率の目標値は15%です。これを遥かに下回っているときは注意がひつ王です。
13.流動比率が低く、下がってきている
流動比率とは、流動負債に対する流動資産の割合です。流動負債とは、短期的に支払期限が到達する負債、つまり近い将来に返済しなければならない負債(買掛金、支払手形、法人税など)のことです。短期間とは概ね1年間のことです。
一方、流動資産とは、短期間のうちに現金として回収可能な資産(買掛金、受取手形、有価証券など)のことです。
流動資産が流動負債に対して多いということは、今後短期間で手に入れられる現金が、短期間のうちに支払わなければならない現金よりも多い、つまり短期間のうちに資金繰りに行き詰まることがないということです。逆に流動負債のほうが多い場合は、今後短期間のうちに資金繰りに困る可能性が高いということです。流動比率は短期的な倒産の危険性を示す数値であるといえます。
黒字倒産とは、黒字になっているにも関わらず、流動資産に対して流動負債が多すぎることで起きる現象です。帳簿上は黒字であっても、手元に現金がなく支払いができないために倒産してしまうのです。
流動比率の目安は企業によって異なりますが、150%もあれば短期のうちに倒産する心配はまずありません。120%あれば標準的な企業です。100%を下回っている場合はかなり注意が必要です。
14.当座比率が低く、下がってきている
当座比率とは、流動負債に対する当座資産の割合です。流動比率と分母は一緒ですが、分子が流動資産から当座資産に変わっています。
当座資産とは、流動資産の中でも特に即座に換金できる性質を持つ資産のことをいいます。例えば現金や預金、受取手形、売掛金、有価証券などです。一方、棚卸資産や貸倒引当金などは流動資産には含まれるものの、換金まで少し時間がかかるため当座資産には含まれません。
当座比率は流動比率と比べてより短期的な資金繰りの安全性を示す指標です。当座比率の目安は企業によって異なりますが、100%あればかなりの優良企業、90%ならば平均以上の安全性を持つ企業と言えます。逆に80%を割っている場合は要注意です。
15.有利子負債月商比率が高く、増えてきている
有利子負債月商比率とは、月商に対する有利子負債の割合です。月商とは簡単に言えば、1ヶ月あたりの売上(利益ではありません)のことです。
一方、有利子負債とは、利子を付けてで返さなければならない借金、例えば銀行から借り入れているお金や社債などのことです。利子を付ける必要がない売掛金や支払手形、未払金などは該当しません。
有利子負債月商比率が高いということは、月の売上に対して借金が多すぎるということです。この数値が1倍~2倍程度なら非常に健全といえますが、4倍だと黄信号、6倍だと赤信号と言えます。ただし、設備投資が多い業種の場合は、有利子負債月商倍率が10倍あっても問題ないことも多いです。
16.自由資金比率が低く、下がってきている
自由資金比率とは、利益剰余金に対するフリーキャッシュフローの割合です。利益剰余金とは、簡単に言えば最終的な企業の純利益のことです。企業は最終的に純利益を出した(黒字だった)場合、それを利益剰余金として積み立てていきます。利益剰余金が増えているということは、毎年その企業が安定して黒字決算できているという意味です。
フリーキャッシュフローとは、純利益のうち、会社が活動するのに最低限必要な費用を差し引いた、企業が自由に使えるお金ですものです。何をフリーキャッシュフローとみなすかはまちまちですが、一営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを差し引く方法が一般的です。
営業キャッシュフローとは営業で稼いだお金、投資キャッシュフローとは将来の利益獲得、もしくは現在の事業活動を維持するために必要な費用です。
フリーキャッシュフローが多いということは、企業が自由に使えるお金が多い、つまりは株主に還元したり、事業を拡大したり、借入金を返済したりといったことがやりやすい状態であり、健全な状態であるといえます。自由資金比率が低すぎる場合は注意が必要です。
17.売上債権回転率が高い
売上債権回転率とは、売上高に対する売上債権の割合のことをいいます。売上高とはそのまま、ある期間(通常は1年間)の売上のことです。一方、売掛債権とは、売掛金と受取手形の合計です。
売上債権回転率が高いということは、売上全体に占める売掛債権の割合が少ない、つまりは売上債権回収にかかるまでの時間が少ないということであり、健全ということになります。
逆に売上債権回転率が低い場合は、売上を回収するまでに時間がかかっているということになるので、もしかしたら黒字倒産を起こすかもしれません。売上債権回転率が6以上ならば理想的、3以下ならば要注意です。
自分の会社の決算書を見るのは不可能?
ここまで読んでくださった方には、決算書類(財務諸表)からわかることがかなり多いと理解していただけたのではないでしょうか。しかし、決算書類からわかることがいくらたくさんあっても、決算書類を見ることができなければ意味がありません。たんなる1社員が自分の会社の決算書を見ることはできるのでしょうか?
法的には、ある会社の決算書類(財務諸表)を見ることができるのは。その会社の株主と債権者のみということになっています。社員は株主でも債権者でもないので、基本的には決算書を見ることはできないと思ったほうがいいでしょう。
しかし、財務諸表をすべて見るのは無理でも、主要な数字ぐらいは確認することができます。まず、すべての株式会社は、貸借対照表という書類を公告しなければならないと定められています。
規模が大きい会社はさらに、損益計算書も発表しなければなりません。これはかなり大雑把なものですが、それでもおおよその経営状態を知るには十分です。官報は全都道府県の官報販売所で買えます。
また、企業大手求人サイトに広告を出している場合、主要なデータをそこで発表しているかもしれません。また、有料になりますが、帝国データバンクや東京商工リサーチに頼めば主要な数値が確認できます。
倒産の兆候に気づいたら逃げる準備を!
倒産の兆候に気がついた場合はどうすればいいのでしょうか。まず、倒産の兆候があったとしても、安易に希望退職に載ってはいけません。会社が危ないからという理由だけで退職してしまうのは大変に危険です。
もしかしたらその兆候は単なる一時的な現象であり、兆候に気づいたというのは思い込みかもしれないからです。転職活動をするならば、会社に所属したままこっそりと、がベターです。
ただ、履歴書や職務経歴書の作成、情報収集などは思った以上に時間がかかるので、あまりもたもたしてもいられません。早めに転職の準備をすすめることもまた大切です。
一番いいのは普段の仕事で社会人としての実力をつけておき、会社がいつ倒産しても次の就職先がすぐ見つけられる状態にすることです。会社に頼らずにいきていけるようになって、初めて一人前の社会人と言えます。