固定資産税は債務整理をしてもなくならないので、他の債務よりも優先的に払う必要があります。しかし、実際にはそのことを知らないまま滞納してしまい、自宅を差し押さえられ競売にかけられてしまう人も少なくありません。
とはいえ、差し押さえをそこまで怖がる必要はありません。固定資産税を滞納してしまっても、差し押さえを防ぐ方法は色々とあるからです。今回は固定資産税の仕組みから滞納してしまった場合に起こること、それを防ぐ方法までを一通り解説します。
目次
固定資産税は固定資産にかかる税金
固定資産税とは、その名の通り固定資産(土地や家屋、償却資産)を所有している人が支払わなければならない税金のことです。固定資産を所有していない人、つまり賃貸マンションやアパートに住んでいる人は固定資産税を支払う必要はありません。
逆にその物件に住んでいなくても固定資産の所有者である(賃貸アパートやマンションのオーナーである)場合は、固定資産税を支払う必要があります。納期は自治体によってまちまちですが、一般的には年4回払いを採用しているところが多いです。
固定資産税は地方税の一種であり、その固定資産がある市町村に対して収めます。また、普通税の一種であり、徴収された税金は自治体の財源となって様々な事業や人件費などに使われます。
固定資産税の発生時期と計算方法は?
固定資産税は、毎年1月1日に計算します。つまり、固定資産をある年の1月2日に手放しても、12月31日に手放しても、同じように税金がかかるわけです。
ただし、売買する場合は当事者間で話し合った上で固定資産税を分担することが可能です。取り壊しや廃棄の場合は、年末のうちに処理すれば翌年の税金を0にできます。
固定資産税額は、固定資産税の評価額に1.4%をかけたものになります(自治体が財政難に陥っている場合は少し引き上げられることがあります)。例えば、固定資産の評価額が1000万円である場合、評価額は14万円となります。
では固定資産の評価額はどうやって決まるのでしょうか。評価額は国土交通省が定める土地の公的価格、あるいは家屋の時価などから計算されるため一概には言えませんが、土地の場合は時価の60~70%、建物の場合は建築費用の50~70%ぐらいに収まることが多いです。
建築費はずっと据え置きになるケースが多いですが、土地の評価額は3年後地に見直されます。地下が下がればそれだけ評価額も下がり、その分固定資産税も安くなります。
なお、税額が100%でなく70%以下に設定されている理由は、評価額がかなり簡易的に決められているからです。簡易的に決められているゆえ、実際よりも高く評価されてしまうことがあります。
それによって不当に高い超税額になってしまうのを防ぐため、100%ではなく70%以下に抑えられているのです。
それでも評価額に不服がある場合は、固定資産評価審査委員会に審査の申し出をすることができます。審査申出期間は固定資産課税台帳に価格等を登録した旨を公示した日から納税通知書の交付を受けた60日後までです。
ただし、課税漏れ等により、,縦覧に供した日以後における価格等の決定または修正の通知書を受け取った人は、その通知を受けた日から60日以内が審査申出期間です。
固定資産の特例制度
固定資産税にはいくつか特例制度(税額が安くなる制度)があります。
まず、土地を所有している場合、それが私道であっても、多くの人が利用しており、道路幅が1.8m異常あり、公道から公道に通じている道路である場合は、公共性が高い土地であると認められ、原則非課税となります。
ただし、この場合でも、非課税の適用を受けるには非課税申告書を提出する必要があります。
また、同一の市区町村内にある固定資産の課税標準額が一定以下(土地なら30万円、家屋なら20万円)の場合は、固定資産税は免税となります。
その他、固定資産税にはいくつか特例制度があります。ある自治体において、一定の要件を満たした場合(資産を特定の用途に使っている場合や長期優良住宅、免震構造などの条件を満たしている場合など)は固定資産税が優遇されることがあります。
具体的には認定長期優良住宅での固定資産税の軽減措置、一定の要件に該当する耐震改修工事や耐震化のための建て替えをした住宅での固定資産税・都市計画税の減免措置、一定の要件に該当するバリアフリー改修工事や省エネ改修工事をした住宅での固定資産税の減額措置などがあるのですが、このあたりのルールは自治体によってまちまちなので、気になる方は固定資産がある自治体まで問い合わせてみて下さい。
償却資産って何?
償却資産とは、時間とともに価値が減少していく資産のことです。例えば船舶や航空機、機械設備や運搬器具などが償却資産となります(土地及び家屋は償却資産の対象外です)。
償却資産は登記が不要なものも多いですが、だからといって税金が発生しないわけではなく、きちんと申告した上で納税しなければなりません。
償却資産も基本的には評価額を用いて計算しますが、償却資産の場合は毎年評価額が変わるという特徴があります。先に例に上げた船舶や航空機、機械設備などは時間とともに価値が減少していきます。
つまり、時間とともに評価額が変わっていくわけです。その評価額に合わせて、固定資産税が毎年変動します。時間が経って評価が下がっている償却資産ほど評価額が低くなり、その分税金も安く済むというわけです。
固定資産税の評価額を毎年少しずつ下げていく仕組みを減価償却と言います。固定資産を取得した直後はその出費を費用にせず、まずは資産として計上し、その後少しずつ費用として計上していきます。一体なぜこのようなことが必要なのでしょうか?
2018年はビルを建てないので、収益は1000万円になります。2019年の収益も1000万円です。2017年度も2018年度も2019年度も同じようにビルを利用しているにも関わらず、毎期の損益がばらばらになってしまうわけです。
これは良くないということで、固定資産を購入した場合は、その購入代金を少しずつ費用として計上していくのです。
例えば、自社ビルの購入代金を20年かけて償却する場合、2017年度の減価償却費は500万円となります。したがって2017年度の収益は1000万円-500万円=500万円となります。
2018年度の減価償却費もやはり500万円なので、2018年度の収益は1000万円-500万円=500万円となります。2019年度の収益もやはり500万円です。減価償却によって、毎年の収益がより実態に即したものとなりました。
減価償却の方法は定額法と定率法があります。定額法は前述の通り、取得価額を何年かに分けて毎年○○円ずつ計上していく、と言うものです。
例えば、取得価額が1億円、耐用年数(減価償却する年数)が20年の場合、毎年1億円÷20年=500万円ずつ費用に計上できます。耐用年数は法律で定められています。(参考:耐用年数表)
定率法は年度末の帳簿価額に償却率をかけて計算します。例えば、帳簿価額が1億円、償却率が0.10だった場合、まずは1億円×0.10=2000万円を費用として計上します。1000万円分費用として計上したので、帳簿価額は1億円-2000万円=9000万円となります。
次の年は9000万円×0.10=900万円を費用として計上します。1600万円分費用として計上したので、帳簿価額は9000万円-900万円=8100万円となります。
このように、定率法を採用した場合は、初年度の減価償却費が最も大きくなり、その後徐々に小さくなっていくという特徴があります。
場合によっては都市計画税がかかることも!
都市計画税とは、一部の地域(都市計画法による市街化区域)の土地や建物が対象になる地方税です。税率は最大で0.3%です。したがって、固定資産税と都市計画税の両方を支払う場合、合計税率は最大で1.7%になります。
東京都の場合は23区のみが0.3%を採用しており、他の市域では0.20~0.29%となっています。通常、固定資産税と都市計画税は同時に徴収されます。
固定資産税を滞納するとどうなる?
固定資産税に限った話ではありませんが、税金には納付期限というものがあります。納付期限を過ぎてしまうと、延滞税が発生し、督促や催告の準備が行われます。
延滞税は納付税額に延滞税率をかけて計算します。延滞期間が2ヶ月未満の場合と、それ以上の場合では延滞税率が異なるので注意が必要です。
延滞期間が2ヶ月以内の場合、延滞税率は2.9%です。延滞期間が2ヶ月以上だった場合、2ヶ月以内の部分に関しては2.9%、それを超える部分に関しては9.2%となります。
ちょっとわかりづらいので、具体的に計算してみましょう。納税額が100万円、延滞期間が1ヶ月(30日)だった場合、延滞税額は
となります。一方、納税額が100万円、延滞期間が1年(365日)だった場合、延滞税額は
となります。延滞期間が長くなるほど、また本来の納税額が大きいほど延滞税は高くなるので気をつけましょう。
なお、税金を延滞してしまった理由次第では、延滞税とは別の税金が課される可能性もあります。
- 過少申告加算税:期限内深刻があったものの、修正深刻がされた場合に課される税金です。税額は修正申告により新たに納付することになった税額の10%です。
- 重加算税:課税の基礎となる事実を故意に隠蔽して税金から逃れようとした場合に課される税金です。税額は修正申告によって新たに納付することになった税額の35%です。
納税をずっと拒み続けていると督促状が送られてくる
延滞をしてからしばらくすると、徴収職員から督促が行われます。一般的には、納付期限から20日以内に督促状が送られてきます。法律上は、督促状を発送してから10日以内に滞納が解消されない場合、財産を差し押さえることができるということになっています。
つまり、督促状の発想から10日以上経った場合、役所はあなたの財産を差し押さえられるというわけです。督促状が送られてきた場合は、必ず相手方に連絡するようにしましょう。
督促状を無視すると財産調査に発展
督促状を無視した場合、徴収職員は財産調査を始めます。財産調査とは、あなたが財産をいくら持っているかの調査です。具体的には預金や、解約返戻金がある保険などを調査されます。事業主である場合は取引先に財産調査が行くことも多く、取引停止のリスクがあります。
財産調査をも無視していると、いよいよ財産の差し押さえに発展します。預金や現金はもちろん、不動産や第三者に対する債権など、ありとあらゆる財産が差し押さえられる可能性があります。
不動産の差し押さえを受けた場合、差押登記がなされ、抵当権者などには差押通知書が送られます。給与の場合は勤務先、預金の場合は金融機関に差し押さえ通知書が送付されます。
それでも納税しなかった場合は、差し押さえた財産の競売が行われ、滞納した税金に充当されます。
税金滞納に対する差し押さえはスピーディ
税金の滞納に対する差し押さえは法律で定められているため、消費者金融への債務不履行に対する差し押さえなどと違って、裁判所の許可や判決がなくても行われます。
滞納者に対しての事前連絡や同意なども必要とされていません。最短の場合、納付期限から約2ヶ月程度で差し押さえられることもあります。したがって、納税できなかったときはスムーズに税務署に対して連絡する必要があります。
相談すれば個別に対応してくれることも
税金滞納は無視し続けているとあっという間に差押の手続きが進んでしまいますが、こちらからきちんと連絡をして、支払う意志を見せれば柔軟に対応してくれるケースが多いです。
まず、一括で支払うのが難しいという場合は、分納に対応してもらえます。分納の相談は窓口ではなく電話でもできますが、支払う意志を見せるためにも窓口に行ったほうがいいでしょう。
窓口では滞納の理由、現在の収入や資産の状況などを聞かれますので、予め確認しておきましょう。
なお、分納の期間は原則として1年です。1年で解消できそうにない場合はさらに1年延長できる可能性がありますが、それ以上の延長はまず不可能です。
また、申請時にある預貯金は納税に回されることになります。どうしても預貯金が手放せない場合(子供の入学金として必要な場合など)は、その旨も相談してみるといいでしょう。
但し、誰でもこの制度が利用できるわけではなく、以下の条件を満たす必要があります。
- 納税者がその財産につき、震災、風水害、火災その他の災害を受け、または盗難にあったとき
- 納税者本人や同一生計親族が病気にかかる、あるいは負傷したとき
- 納税者の事業廃止、もしくは休止
- 納税者の事業に著しい損失があったとき
- 以上に掲げた事実に類する事実があったとき
また、これらの条件を全部満たしていても、必ず支払いが猶予されるわけではありません。納税しようという意思が見られないときは、分納を断られるかもしれません。
では税務署は納税しようという意思があるかどうかをどうやって判断するかですが、連絡が遅い場合は納税する意思がないと取られるケースが多いです。納税が遅れてしまったらすぐに、あるいは遅れそうになった時点で連絡すれば、分納が認められる可能性が高いです。
まてた、これとは別に固定資産税の減免制度もあります。徴収猶予制度を利用しても到底納税しきれない場合は、固定資産税が減免される、つまり少なくなったりなくなったりするわけです。こちらにももちろん利用条件があります。
- 天災その他特別の事情があり減免を必要と認められる場合
- 生活保護法の規定による保護等の公的扶助を受けている場合
- 上記以外の理由で、客観的にみて固定資産税を負担する能力がないと判断された場合
滞納するとすべての財産が差し押さえの対象になる?
たとえ差し押さえまで発展したとしても、すべての財産が差し押さえの対象となるわけではありません。
法律で差し押さえてもいい財産と、差し押さえてはいけない財産が決められています。差し押さえてはいけない財産を自由財産(差押禁止財産)と言います。主な自由財産は以下のとおりです。
- 家財道具、食料、燃料など
- 生活保護費、児童手当
- 生活に最低限必要な給料
- 99万円以下の現金、20万円以下の預金
どうしても払えない場合は任意売却を選んだほうがいいケースも
どうしても納税ができずに財産の差し押さえが避けられそうにない場合は、競売にかけられる前に任意売却で売ってしまったほうがいいでしょう。
任意売却とは、その名の通り財産の所有者が任意で売却する制度のことです。たとえ財産を差し押さえられていても、税務署や市役所の合意を得られれば任意売却できるケースがに多いです。その場合、差し押さえは解除されます。
任意売却のメリットは、差し押さえからの競売と比べて高い価格で売りやすいことです。競売は市場価格よりもかなり低い価格でしか落札されないことが多く、非常にもったいないです。
また、任意売却では引っ越し時期や条件面をある程度債権者と交渉することも可能です。
固定資産税の未納は自己破産では解決できない!
借金の解決手段としてあげられることが多い自己破産ですが、実は税金の未納は自己破産をしても解決できません。自己破産には「非免責債権」が定められています。
これはたとえ自己破産が認められてもなくならない債権の総称で、その中に税金も含まれています。つまり、自己破産をしても税金は1円もなくならないわけです。
別の視点から考えれば、税金を滞納していてそれ以外の借金もあるという場合は、まずは手持ちの資金で税金だけを払ってから、その後自己破産するのが一番いい、ということになります。詳しくは弁護士と相談した上で、方針を決めるようにして下さい。