商売を始めたばかりの個人事業主の方にとって、資金繰りは大きな悩みの一つです。事業を立ち上げたばかりの頃は入ってくるお金が少ないのに出ていくお金は多く、一時的に赤字を抱えることになりがちです。また、商売が軌道に乗った後も、一時的に資金繰りが悪化することはままあります。
そんなときに心強い味方となるのが個人事業主向けカードローン……と言いたいところですが、実は個人事業主向けカードローンの利用はあまりおすすめできません。金利がかかなり高いからです。
融資までのステップが短く、緊急で資金が必要なときには便利ですが、多額のお金を借り入れるときには別のローンを利用したほうが良いです。今回は個人事業主がより低金利で借りられるローンの中でも、日本政策金融公庫のローンを紹介したいと思います。
低金利で審査は時間こそかかるもののハードルが低く、親切に対応してもらえるなど、特に創業間もない個人事業主にとっては心強い味方となります。
個人事業主向けカードローンの金利はとにかく高い
個人事業主向けカードローンは様々な銀行や消費者金融、あるいはビジネスローン専用業者から提供されています。無担保無保証で即日融資が受けられる所も多いのですが、反面金利はかなり高めに設定されています。
例えば、ビジネスローン専門のビジネクストの場合、契約利率は8.0~15.0%(利用限度額100万円以上)、13.0~18.0%(利用限度額100%未満)となっています。他の金融機関の金利も似たり寄ったりです。
金融機関によっては即日審査・即日融資に対応しているところもあり、緊急回避的につなぎ資金を借りる際には便利ですが、長期的に多額の借り入れを起こすのには向いていません。
このような場合には、国や地方自治体の制度を利用した方がいいでしょう。このような制度も色々あるのですが、特に利便性が高いのは以下の2つです。
- 日本政策金融公庫
- 中小企業制度融資
今回の記事では、日本政策金融公庫の制度を紹介します(それ以外の制度については別記事で紹介します)。
日本政策金融公庫から借りるメリット
日本政策金融公庫とは、2008年1月1日に設立された財務省所管の特殊会社です。特殊会社とは、国策上必要な特定の事業を行うために作られる会社で、通常は株式会社形態で設立されます。
株式会社ではありますが国から支援を受けられるという特殊な立ち位置に有りますが、一国民から見た場合は、国がやっている金融機関と考えていただければだいたい間違いありません。
日本政策金融公庫は国民が利用できる様々なローンを提供しています。その中に個人事業主が利用できるローンもあります。日本政策金融公庫の主なメリットは以下の5点です。
- 金利が低い
- ローンの種類が多い
- 審査基準が銀行などと異なる
- 融資の相談がし易い
- 後に銀行などから借りやすくなる
日本政策金融公庫のローンは超低金利
日本政策金融公庫は様々なローンを提供していますが、そのどれもが銀行や信用金庫、消費者金融など、他の金融機関のものと比べて圧倒的に低金利です。
例えば、他の金融機関で100万円程度の金額を事業用資金として借りる場合、初めての借入だとほぼ確実に金利は10%を超えます。一方、日本政策金融公庫の普通貸付(事業用に広く使える資金を貸し出す貸付)の金利は、(担保の有無や与信によって多少変化しますが)1~3%程度です。
また、遅延損害金(延滞時の金利)は他の金融機関が20%程度なのに対して、日本政策金融公庫の普通貸付の遅延損害金は9%です。
利率は情勢によって変化しますが、日本政策金融公庫の金利が変化する時は他の金融機関の金利も変化しますので、両者が逆転するということはまずないでしょう。日本政策金融公庫のローンは超低金利、という認識で全く問題ありません。
日本政策金融公庫は目的別のローンが充実している
日本政策金融公庫のローンは上記の幅広く使える「普通貸付」以外にも、様々な目的別ローンが有り、目的に応じて使い分けられます。
目的別ローンは普通貸付と比べて更に金利が低く設定されていることが多く、上手に使えば利息の支払いをさらに減らせます。主な目的別ローンは以下のとおりです。
- 新創業融資制度:事業開始時または事業開始後に必要となる事業資金を用意するためのローン
- 経営環境変化対応資金:一時的に売り上げが悪化しているが、長期的な回復が見込める場合に利用できるローン
- 中小企業経営力強化資金:経営革新、新事業分野開拓などに利用できるローン
- 災害貸付:災害時に利用できるローン
他の金融機関の審査に落ちても日本政策金融公庫ならば通る可能性は十分にある
日本政策金融公庫は、他の金融機関とは異なる指標をもとに審査を行っています。審査の通過率は高く、実績のない個人事業主でも比較的借りやすいのがポイントです。
通常の金融機関は自身の利益の最大化をすることが第一目標なので、不安定な個人事業主に対してはあまり貸したがりませんが、日本政策金融公庫は優良な個人事業主が増えてくれたほうが税収増につながるため、融資に対しては積極的です。
他の金融機関で融資を断られてしまったという場合は、日本政策金融公庫の融資を受けるといいでしょう。
日本政策金融公庫は事業の相談にも応じてくれる
日本政策金融公庫は、創業や経営に関する相談を受け付けています。創業相談では、専任の担当者が創業計画書の書き方、融資の流れなどについて丁寧に教えてくれます
国の金融機関と聞くと身構えてしまうかもしれませんが、担当者は大抵の場合非常に丁寧です。(当たりハズレはありますが)。窓口は全都道府県に少なくとも1つ以上設置されています(参考:日本政策金融公庫の店舗案内)。
平日の昼間に店舗まで出向くのが難しいという場合は、全国の商工会議所や支援機関の出張相談に参加したり(参考:平日の創業相談)、夜間に相談したりすることも可能です(参考:休日、夜間の創業相談)。
日本政策金融公庫での返済実績は会社の信頼度を高める
日本政策金融公庫でお金を借りてきちんと返済した場合、その実績が記録として残ります。他の金融機関は審査の際に返済実績を重視する傾向があり(だからこそ初めての融資を他の金融機関から受けるのは難しいのです)、日本政策金融公庫への返済実績はきちんと評価してくれます。
将来銀行などでお金を借りたいという方も、まずは日本政策金融公庫から融資を受けて、実績を作ることをおすすめします。
日本政策金融公庫のデメリット
何かとメリットが大きく、特に創業したての個人事業主にとっては非常に心強い味方である日本政策金融公庫ですが、もちろんデメリットがないわけではありません。主なデメリットは以下の2点です。
- 審査が長い
- 保証人が必要になる
日本政策金融公庫の審査は1ヶ月程度かかることも
日本政策金融公庫の融資の最大のデメリット(欠点)は、かなり審査が長いことです。初めて審査を受ける場合は、1ヶ月程度かかることを覚悟しておいたほうがいいでしょう。これは日本政策金融公庫の担当者がサボっているというわけではなく、制度上仕方のないことです。
例えば銀行はあなたのメインバンクのお金の流れを簡単に把握できますが、日本政策金融公庫はそれができないため、お金の流れを把握するための通帳を提出させて確認しなければなりません。
また、場合によっては会社や工場、店舗などに訪問することもあります。このような面倒な作業をたくさんこなさなければならないため、どうしても審査期間が長くなりがちなのです。審査が長いということは事前にわかっていますので、早めに融資の相談をしましょう。
保証人はほとんどのケースで必要
日本政策金融公庫から融資を受ける場合、殆どのケースで保証人が必要になります。新創業融資制度やマル経融資など、一部無保証人のローンはあるのですが、この場合も一定の条件を満たす必要があります。
保証人が用意できない時は、公的な機関である信用保証協会が保証料と引き換えに保証人になってくれますので、そちらを利用すると良いでしょう。万が一支払いが不可能になった場合は、信用保証協会が一時的に建て替えを行い、その後信用保証協会に対して返済を行います。
日本政策金融公庫で融資を受ける流れ
日本政策金融公庫で融資を受ける大まかな流れは以下のとおりです。
- 相談
- 申し込み
- 面談
- 融資
相談は税理士に任せることもできるが、自分で行ったほうが良い
まずは日本政策金融公庫の店舗まで出向いて、相談をします。相談は税理士に任せることも出来ますが、税理士に代わりに聞いておいてほしいことをすべて伝えるのは難しいでしょうし、なにより税理士を雇うお金がないことも多いでしょうから、基本的には自分で行うことになるでしょう。
相談の前には聞きたいことをすべてまとめておきましょう。また、事業を始める前or始めた直後の場合は開業予定地や売上見込、始めてからしばらく経っている場合は現在の経営状況や今後の事業計画などについて聞かれることがあるので、事前にまとめておきましょう。
申し込みはWebか郵送で
日本政策金融公庫への融資申し込みはWebもしくは郵送で行います。申し込むローンによって提出物が多少違いますが、どのローンでも借入申込書は必ず必要になります。
借入申込書には借入希望額、借入希望日、希望返済期間などを記入します。返済期間については、据置期間(利息のみを支払い、元本の返済は後回しにする期間)を設定することも出来ます。据置期間を長くすると総返済額は大きくなりますが、初期段階での手元の事業資金を増やせます。
それとは別に、創業前、もしくは創業直後の場合は企業概要書が、1年以上が経っている場合は創業計画書が必要になります。また、申告決算書がある場合は直近2期分(1期分しかない場合は1期分)を用意します。
また、必須ではありませんが、別紙資料を作成すると審査に通る可能性が高まります。別紙資料とは名前の通り、別に用意する資料のことです。書き方に決まりなどはありませんが、通常は
- 経歴(勤務先や勤務年数だけでなく、どのような仕事をしていたかをアピールすると良い)
- 保有資格(基本的には多いほど良い。事業と関係ある場合は強力にアピールする)
- 創業動機(就職面接の志望動機のように作ると良い)
- 店舗立地(商圏人口や最寄り駅の規模の大きさなどに触れ、事業の成功確率が高いことをアピール)
- 顧客の獲得方法
- 予想利益
などを記載します。別紙資料の作成は日本政策金融公庫に対するアピールになるだけでなく、自分自身がなぜ事業をやろうと思ったのか、どのように儲けようと考えているのかを改めて確認する機会にもなります。よほど条件が良い場合を除いては、作成した方がいいでしょう。
面談は準備が肝心
申込みから早ければ数日後、どんなに遅くても2週間程度で、日本政策金融公庫の方から連絡が来るはずです(万が一来ない場合は資料が適切に届いていない可能性がありますので、連絡してください)。その際に「面談の際に必要な資料」が伝えられますので、それを用意します。必要な資料は人によって異なりますが、基本的には
- 創業計画書or企業概要書
- 身分証明書(運転免許証など)
- その他資格を証明するもの(調理師免許など)
- 通帳
- 印鑑
などが必要になります。これらの資料がどうしても用意できない場合は面談後に提出することも可能ですが、融資が先延ばしになってしまうため、極力当日までに用意しましょう。申込書を提出する前の段階から用意できれば完璧です。
また、面談は認定支援機関(正式名称:経営革新等支援機関)の専門家に同席してもらうことも可能です。
認定支援機関とは国が認定した公的な支援機関で、商工会議所、金融機関などのほか、税理士、弁護士、会計士などの事務所が機関と認められることもあります。日本には約2万5000の認定支援機関がありますので、心配な場合は事前に相談しておきましょう(参考:経営革新等支援機関認定一覧)。
専門家に同席してもらわない場合は、自分で面談の担当者の相手をすることになります。面談の担当者は基本的にNGを出すためではなく、OKを出すための質問をしてきます。貸して利息を取らないと利益が生まれないからです。
面談の担当者が知りたいことは「返済できるかどうか」
面談の担当者が最も知りたいことは、借りたお金をきちんと返せるかどうかです。そして、返済できるかどうかを知るために、事業計画や熱意などを様々な角度から測ってきます。別紙資料を作成すると審査に通る可能性が高くなるのは、事業計画が現実的かつ収益性があることを担当者に理解させられるためです。
面談時間は1~2時間と十分ありますので、ゆっくりと回答しても全く問題ありません。むしろ焦って支離滅裂な、あるいは資料とは異なった回答をしてしまう方が問題です。よくわからない質問は聞き直して、意味を理解してから回答しましょう。
融資の際にはネット銀行以外の口座が必要
審査に無事終わったらあらかじめ用意しておいた口座で資金を受け取ります。注意点として、ネット銀行では資金が受け取れないので、必ずネット銀行以外の口座を作っておくようにしましょう。
融資の申し込みと同時に銀行口座開設の申し込みをすれば余裕で間に合います。ネット銀行以外ならばどこで作ってもいいですが、最初のうちは中小企業の振興に力を入れている信用金庫や信用組合などがおすすめです。
また、融資が確定すると、団体信用生命保険加入の資料が送られてきます。団体信用生命保険とはお金を借りた人がなくなったり、後遺障害で働けなくなってしまった場合に保険金がおり、残債が帳消しになる制度です。
保険料は人によって異なりますが、残債が多いほど高くなります。残債が500万円程度の場合、年間保険料は1万円強といったところです。返済が進むにつれて残債も減るので、次第に保険料は安くなっていきます。
団体信用生命保険に加入しておけば、事業主に万が一のことがあっても、残される家族や従業員が不利益を被ることがなくなります。一方で借入額が少ない場合、家族や従業員が居ない場合、民間の保険に入っている場合はあまり旨味がありません。
保険料は借入金額や、返済期間、据置期間等によって異なります。加入は任意で、加入率は45%程度です。
日本政策金融公庫Q&A
最後に、日本政策金融公庫でお金を借りる際のQ&Aについてまとめました。
融資限度額はどれくらい?
融資限度額は、自己資金の9倍までです。例えば、自己資金が100万円の場合、融資限度額は900万円となります。ただ、実際に限度額いっぱいまで借りられることはあまりありません。現実的には、自己資金の5倍程度が上限と考えておいたほうがいいでしょう。
なお、ここで言う自己資金とは事業のために自分で用意した(会社勤めや他の事業などで稼いだ)お金のことであり、他人から借りているお金は自己資金とは認められません。
例えば本当は自己資金が10万円しかないのにもかかわらず、直前に親戚から90万円借り、自己資金を100万円あるかのように見せても、90万円の部分は見せ金であると判断され、自己資金とは認められません。誤魔化そうとしてもバレます。
審査で口座や現金のお金の流れがチェックされるからです。(審査直前に親戚から90万円も振り込まれるのは明らかに不自然なので)。ただし、きちんと贈与を受けた場合は自己資金と認められます(もちろん贈与税は別途かかります)。
また、すでに事業資金として使ってしまった「元自己資金」がある場合は、領収書などを用意すれば、それを自己資金と認めてもらえます。
自己資金だけで賄える場合でも融資を受けたほうが良い?
基本的には借りた良いです。もちろん、自己資金に大いに余裕がある場合に無理して融資を受ける必要はまったくないのですが、あまり余裕がない(ぎりぎり賄える)という場合は少額の融資を受けることをおすすめします。
手元に資金があればそれだけ事業に余裕ができますし、いざという時のリスクヘッジになります。
少額なので利息の支払いも大したことになりませんし、融資実績ができるのでのちのち銀行などからもお金を借りやすくなります。自己資金の割合が大きくなるので、審査も楽に通れます。
とにかく金利が低いローンはどれ?
マル経融資(小規模事業者経営改善資金)制度です。これは商工会に所属し、創業してから1年以上経過しており、さらに商工会議所や商工会などの経営指導を6ヶ月以上受けている小規模事業者の商工業者のみが無保証・無担保で借りられるローンです(商工会議所会頭、商工会会長などの推薦が必要です)。
融資限度額は2000万円で、返済期間は7年~10年以内です。金利は時期によって変動しますが、2017年11月11日現在の金利は1.11%です。東日本大震災で被災した事業所は、融資限度額が3000万円、金利は3年目まで0.21%(4年目以降は1.11%)となります。
完済後、追加で融資を受ける場合はどうすれば良い?
完済後3年以内に申し込むことをおすすめします。
日本政策金融公庫は、返済に関するデータを完済後3年間保持した後、安全に破棄しています。つまり、4年目以降は返済に関するデータがなくなり、日本政策金融公庫で1度もお金を借りたことがない状態に戻ってしまうわけです。当然、審査には時間がかかります。
3年以内に申し込めば、完済歴がある状態で審査を受けられますので、審査スピードは桁違いに早くなり、審査合格率も極めて高くなります。繰り返し融資を受ける予定がある方は、完済後3年以内に再度融資を受けることをおすすめします。
返済期間中に追加融資を受ける場合はどうすればいい?
まずは事業でしっかりと利益を出すことです。最初の融資は実績がなくても期待が高ければ受けられますが、追加融資ではそれまで実際に行ってきた事業もチェックされます。毎年の損益計算書できちんと利益が出ているか、運転資金は十分確保できているか、延滞を起こすことなく返済ができているかなどが大切になってきます。
また、最初の融資を受けた直後に追加融資を受けようとするのはおすすめできません。最低でも3割、できれば5割の返済が終わった所で追加融資を申し出るべきです。
最初の融資を受けた後にどうしても追加融資を受けたい場合は、信用保証協会の制度融資を利用するといいでしょう。審査は厳しいですが、実践する価値はあります。
まとめ
- 日本政策金融公庫のローンは低金利で審査に通りやすい
- 日本政策金融公庫で返済実績を作ると他の金融機関からも借りやすくなる
- 融資の審査の際には面談がある
- 融資限度額は自己資金の9倍まで
- 追加融資は3年以内に受けると審査に通りやすい
日本政策金融公庫は、特に創業したての個人事業主にとっては素晴らしい見方です。積極的に活用して、事業を拡大していきましょう。