自営業で借金がある人は、「生活保護を受けたい」と考えることがあるかもしれません。
生活保護は最後のセーフティーネットですが、現在の自分の状況が生活保護を受けられるレベルなのか、まだそのレベルではないのか、素人では判断が難しい問題です。
この記事では、自営業の人が生活保護を受けたいと思ったときに、役に立つ知識をまとめています。
生活保護を受ける前に
生活保護は、憲法で定められている、生存権を制度化したものです。
憲法25条では、すべての国民が、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を持っていると規定されています。「最低限度の生活」とはありますが、「健康で文化的」という言葉も入っているので、ギリギリなんとか生きていられるという状態を指すのではありません。
健康的な生活を送るためには、それなりに栄養のあるものを買って食べるだけの余裕があることが必要です。
さらに、本を買って読んだり、映画を見たり、文化的なことをできるだけの余裕がある生活になります。
しかし、国民が労働をして納めた大切な税金が使われています。贅沢な生活を送ることまでは保障はされていません。車はもてませんし、それまで平均的な収入を得ていた人からしたら、かなりギリギリの生活だと感じるようです。
自分で判断をしないこと
このように、「健康で文化的な最低限度の生活」というのは、一般人が考えるものとは、少し異なっています。自分で判断をせず、生活が苦しいと感じたら、役所に相談をしてみましょう。
生活保護の相談先は?
生活保護の相談先・申請先は、福祉事務所です。市によって呼び方が異なっていることがあり、「社会援護課」、「生活福祉課」などと呼ばれていることもあります。
福祉事務所では、水際作戦といって、生活保護を受けさせないための対策をとっていることがあります。相談に行ったとき、「借金があるのなら生活保護は受けられません」などと断られてしまったら、水際作戦の可能性が高いです。
実際には、借金がある人は生活保護を受けられないという法律はないのですが、不正受給者が多いなどの理由で、役所の人がこのような嘘をつくことがあり、問題となっています。
リンク:福祉事務所一覧 |厚生労働省
水際作戦の対策
生活保護の申請の拒否は違法です。どのような人でも、生活保護の申請をすることはできます。ただし、申請をしたからといって絶対に審査に通るわけではありません。
「親に扶養してもらえ」などと言われ、追い出されそうになったら、しっかりと抗議をして、申請をさせてもらいましょう。
福祉事務所がまともな対応をしてくれないとき、法テラスに相談をするという手もあります。法テラスでは一定の資力条件がありますが、生活保護を受けなければならないような人なら、ほとんどの場合に資力条件を満たしているはずです。
法テラスでは、1つの案件について3回まで無料で相談が受けられます。生活保護という案件で1つとカウントされるので、以前に別の案件で相談をしたことがある人でも、3回まで弁護士の相談を受けられます。
リンク:法テラス・サポートダイアル
債務整理をする前に
もしもあなたが、「生活保護を受ける前に借金をなんとかしておこう。債務整理をしてしまおう。」と考えているなら、少し待ったほうがよいです。
債務整理では、任意整理という手段が最も多く利用されています。しかし、任意整理をしても、借金はゼロになりません。
任意整理をした後のこと
任意整理をしたら、利息と遅延損害金がゼロになり、残った元本をおよそ3年かけて返済していきます。例えば、任意整理後、「3年間、毎月5万円ずつ返済をする」という内容の和解をしたとします。
その後1年もたたないうちに生活保護を受けることになったら、生活保護受給者に毎月5万円を支払う余裕などありませんので、和解契約の約束を果たせないことになります。
せっかく時間と費用をかけて任意整理をしたことの意味がなくなってしまいます。
自己破産をする場合
基本的には、生活保護でもらったお金を、借金の返済にあてることはできません。大きな借金がある場合、ケースワーカーから自己破産をするよう指導されます。それならば、最初から自己破産をしておけばよいと考える人もいます。
自己破産をしたら借金はゼロになるので、「生活保護費から借金を返済できない」という問題を解決することができます。
しかし、自己破産には、「およそ5年~10年間ブラックリストにのってしまう」、「資産をすべて没収されてしまう」というデメリットがあります。人によっては、とても大きなデメリットを被ることもあるでしょう。
生活保護を受けるために自己破産をしたのに、福祉事務所に相談をしたら、「あなたは生活保護を受けられません」と言われてしまう可能性もあります。
まずは福祉事務所や弁護士に相談をして、自分が生活保護を受けられるのかどうかを確かめてから、自己破産をするのがよいでしょう。
自己破産をするなら生活保護を受けてから
自己破産をするためには、30万円~40万円程度の弁護士費用がかかります。生活保護を受けている人は、弁護士費用と裁判所費用を法テラスから無利子で貸付を受けられます。
さらに、自己破産の手続きが終わった段階で、なお生活保護を受けていたら、貸付を受けたお金の返済義務が免除されます。この制度があるために、自己破産を考えているなら、生活保護を受けてからにしたほうが、メリットがあります。
お金がないのに生活保護を断られることってあるの?
お金がなくて生活ができないのに、生活保護を断られてしまうことはあります。
・心身ともに健康なので、働けると判断されてしまった
・土地などの資産を持っている
というケースなどです。自営業の人は、事業に使う土地、建物、工場、車などを持っていることも多いでしょう。それらは基本的には処分しなければなりませんが、処分をしてしまうと事業が継続できないとなると、大きな問題です。
例えば、出前のラーメン屋などをやっている場合には、車がないと仕事ができませんので、例外的に車の所有を認められることもあります。資産を処分する前に、まずは福祉事務所などに相談をしてみましょう。
自営業の人のセーフティーネット
サラリーマンやOLなど、給与所得者の人は、原則として雇用保険に加入しています。失業をしても、3ヶ月~1年程度は失業保険を受けながら、次の仕事を探すことができます。
自営業の人は、雇用保険というセーフティーネットがありません。さらに、病気や怪我で働けなくなったときの所得保障もありません。
なので、事業に失敗してしまうと、生活保護のお世話になる可能性が高いと言えます。
生活保護はブランクになる
しかし、一度生活保護に陥ってしまうと、抜け出せなくなるという意見もあります。履歴書に書く職歴欄にブランクができるということも、再就職を考えている人にとってはデメリットです。
面接の時に、「この空白の期間はなにをやっていたのですか?」と聞かれる可能性は高いです。「生活保護を受けていました」と素直に言う必要はありませんが、ブランクがあるということは、多かれ少なかれマイナスになります。
生活保護から社会復帰するためのハードルは高い
生活保護を受けるためには、原則として車は処分しなければなりません。生命保険などもすべて解約をする必要があります。車もなく、お金もなく、職歴にブランクがある状態で就職活動をして、希望の仕事を見つけることは大変です。
生活保護のデメリット
配偶者、子供などの家族がいる場合でも、条件を満たすことができたら生活保護を受けることができます。しかし、車がもてないため、子供が病気になっても自動車で病院に連れて行くことができません。
貧困の連鎖と言われているように、働かずに楽して生活をしている親を見てきた子供は、働くことがバカバカしいと感じるようになり、子供また生活保護に頼るようになってしまう確率が高いです。
生活保護は重大な個人情報
生活保護を受けているということは重大な個人情報なので、自分から言わない限りは周囲の人にバレる可能性は少ないです。
しかし、福祉事務所で相談を受けているところを知り合いに見られたり、病院でお金を払っていないところを見られたり、バレるリスクがゼロではありません。
生活保護は最後の手段であると考えて、なるべく生活保護には頼らない努力をしておくべきでしょう。
個人事業主のためのセーフティーネット
経営セーフティ共済や小規模企業共済など、自営業者の人が任意で加入できる制度もあります。これらの制度は、万が一のときのセーフティーネットとなるだけでなく、節税効果も得られるので、検討してみましょう。