うつ病は現代人にとってとても身近な病気です。中には借金によるプレッシャーやストレスが原因でうつ病を発症するという人もいるくらいです。
うつ病は精神的に厳しいばかりでなく、経済的にも困窮する恐るべき病と言えます。そして経済的に困窮した時のセーフティネットとして最も有名なのが生活保護です。では、この生活保護は借金があっても利用できるかどうかご存知ですか?答えは……
目次
生活保護ってどんな制度?
借金と生活保護の関係性についてお話しする前に、まずは生活保護がどんな制度なのかを解説したいと思います。生活保護とは、収入がなかったり、母子家庭だったり、年金が足りなかったりで「最低限度の生活」ができない人を対象とした、生活を保障する制度です。
生活保護を利用するための5つの条件
生活保護は誰でも受けられるというわけではありません。無制限に生活保護を認めていたら財源がいくらあっても足りなくなってしまうからです。
うつ病で働けないという理由だけで、生活保護が受けられるわけではありません。生活保護を受けるためには、以下の5つの条件を満たす必要があります。
すぐに現金化できる資産がないこと
生活保護は資産がない人を対象とした制度です。土地、不動産、預貯金、生命保険、自動車など、利用できる資産がある場合はそれを売却するなどして生活費に充てなければなりません。
ただし、すぐに現金化できない資産(僻地にある土地など)しか持っていない場合は、それが売却できるまでの間のつなぎとして生活保護を受けることが可能です。売却益が入ってきたら、その時点で生活保護はストップとなります。
働き口を探そうとすること
世帯構成員の中に働く能力がある場合は、その能力に応じて働くことに努めなければなりません。もちろん、働く能力があるからと言って必ず働けるわけではありませんが、働き口を探す努力はやめてはいけません。
扶養義務を活用すること
配偶者、両親、子供、兄弟などがいる場合は、できる限り彼らに援助を受けることが求められます。生活保護の申請時には、3親等以内の親戚に対して「扶養照会」という文書が届けられます。これは生活保護申請者に援助できる人がいるかを確認するための書類です。
もちろん、親戚は扶養照会を断ることもできます。親戚にも経済的な余裕がない場合、もしくは不仲などで援助が期待できないという場合は、生活保護が認められます。
ほかの制度を活用すること
生活保護意外に受給できるセーフティネットがある場合は、基本的にそちらを優先的に利用することになります。たとえば、失業期間中は生活保護ではなく失業保険を受給します。生活保護はこうしたセーフティネットに引っかからない人たちのための制度とも言えます。
収入が最低生活費を下回っている
収入があっても、それが最低賃金を下回っている場合は生活保護受けることができます。ただし、年金や児童手当などの収入がある場合は、最低生活費からその収入を引いたものが支給金額となります。
有職者でも、稼ぎが最低生活費を下回っている場合は生活保護が受けられます。最近は母親が働いている母子家庭の生活保護受給が多いようです。
借金があっても生活保護は受けられる、が……
前述のとおり、生活保護を受ける条件に「借金がないこと」という項目はありません。借金と生活保護は独立した無関係な事象なのです。
しかし、じゃあ借金があっても生活保護が受けられるのかというと、必ずしもそうとは言えません。実際には役所の判断で、借金を理由に生活保護が断られることがままあるからです。
生活保護の申請を行うとほぼ必ず、役所から借金の有無を聞かれます。借金があると生活保護受けてなお困窮から抜け出せないという事態が続く可能性があるからです。借金があると答えた場合は、需給の前に債務整理を進められることが多いです。
制度上は借金があっても生活保護は受けられるのですが、現実的な観点から見れば難しいと言わざるを得ないでしょう。
また、債務整理といっても、個人再生や任意整理などでは借金がチャラになるわけではないのでだめです。生活保護を受けたい場合はずばり、自己破産で借金を0にするのが第一の選択肢になります。
といっても、生活保護受けたいと考えている人は経済的に困窮しているので、そもそも自己破産のための費用が用意できないことがあるかもしれません。そんな場合は、法テラスを通じて弁護士の紹介を受けるのがいいでしょう。
法テラスは弁護士費用を立て替えてくれるので、現金を持っていなくても自己破産ができます。また、生活保護者の場合は破産予納金も20万円まで立て替えてもらえます。
自己破産終了後も生活保護を受給しているという場合は、法テラスに申請すれば償還義務そのものが免除されます。
生活保護費で借金を返済してはいけない
仮に借金がある状態で生活保護を受給できたとして、生活保護費をその借金の返済に充ててもいいのでしょうか。一応、制度上は生活保護費を借金の返済に充てることを禁止する条文はありません。
しかし、実際には生活保護費を借金の返済に充てて支給がストップされた事例もあるので、やらないに越したことはありません。繰り返しになりますが、生活保護を受給する前に自己破産をしたほうがいいでしょう。
逆の視点から見た場合、金融機関が生活保護受給者に対して債務を返済するように催促すること自体は認められています。ただし、生活保護費から借金返済をするように言うのはNGです。
金融機関も生活保護受給者から債務を回収することはほぼ不可能だとわかっていますので、早めに自己破産をしましょう。
生活保護を受給してから借金をしてはいけない
生活保護受給前には借金がなかったけれど、生活保護受給後に借金をするのはありかなしか。結論から言えば「なし」です。
一応、制度上では生活保護受給中も借金をすることは可能になっています。役所では借金をしないように釘を刺されるかもしれませんが、法律上は生活保護受給中も借金をしていいことになっています。
ただし、生活保護受給中に借金をすることにはデメリットしかないので、実際にはしてはいけません。
生活保護受給中に借金をすると、それが収入と認められます。前述のとおり収入がある場合はその分の金額が支給金額から引かれます。たとえば、最低生活費が10万円で、借金を5万円した場合、支給額は5万円になってしまいます。
一方、借金しなかった場合の支給額は10万円です。つまり、借金をしてもしなくても1か月で手に入る金額は10万円であるということです。だったらどう考えても借金しないほうが得です。利子の支払いをせずに済みますからね。
生活保護申請のための手続き
以上の条件を満たしており、なおかつ借金がない、もしくは整理したという場合は生活保護の申請ができます。生活保護の申請は地域の福祉事務所で行います。
2016年現在は都道府県に208、市区に996、町村に43の計1247か所の福祉事務所があります。事務所一覧については厚生労働省のウェブサイトなどで閲覧できるので、最寄りの福祉事務所を探してみてください。
福祉事務所では職員との面接が行われます。そこで家庭の事情や収入状況についていろいろと聞かれますが、すべて正直に答えましょう。ここでうそをつくと、不正受給になる可能性があります。
相談が終わると申請に必要な書類が手渡されます。福祉事務所職員からの説明に従って、記入を進めていってください。なお、うつ病で外出が難しいという場合は、親族が代理で申請することもできます。
申請が終わると訪問調査が行われます。本当に生活保護が必要なのかをチェックするためのものです。合わせて、金融機関や保険会社などへの紹介も行われます。資産隠しを行っていないか調べるためです。
調査が終了すると、生活保護を支給するかしないかの決定がなされます。調査期間は通常2週間程度、長くても1か月程度です。受給開始後は国民健康保険証は返納しましょう。
自動車を保有したまま生活保護受ける3つの条件
生活保護受けるにあたって、基本的に自動車は処分しなければなりません。自動車は維持費が高額であり生活を圧迫するうえ、事故の場合の賠償をすることができないからです。
しかし、以下の3つの条件のいずれかを満たせば、例外的に自動車を所有したまま生活保護を受給するすることが可能です。
山間の集落などの僻地に住んでおり、自動車がないと生活が成り立たない
これについては現代の日本で認められることはほとんどありません。今の日本にはどんな僻地でもバスが走っているからです。
バスの本数が極端に少なかったり、バス停まで遠いというのならば別ですが、基本的には「バスが近くを通っている=車がなくても生活できる」と解釈されます。実態に合っていないような気もしますが、これが現時点での法律の解釈です。
自営業を営んでおり、自動車がなくなると廃業しなければならない
自営業で自動車を仕事に使っているからと言って、必ず自動車の保有が認められるわけではありません。最低でも月の収入は10万円はほしいところです。
収入があまりにも少なくて、維持費まで考えると赤字になっているという場合は、自動車の保有が認められないことがほとんどです。
家族もしくは本人の中に身体障碍者がおり、自動車以外の移動手段がない場合
身体障碍があって、なおかつ通院や通勤に自動車が必要不可欠であるという場合は、自動車の保有が認められることがあります。ただし、身体障碍があっても通院や通勤をしていない場合は、原則的に自動車の保有は認められないので注意が必要です。
生活保護から抜け出すために
生活保護は最低限度の生活を保障するためのものであり心強い味方であることは確かですが、だからと言っていつまでも生活保護に頼り続けるのは困りものです。
生活保護受給者が増え続ける世の中が健全とはいえません。それに、いつまでも最低限度の生活しかできないというのは面白くありません。では、いったいどうすれば生活保護から抜け出すことができるのでしょうか。
とにかく大切なのは、空白期間をできるだけ短くすることです。空白期間が延びれば伸びるほど就労意欲は減退し、就職も難しくなってしまいます。
実際、生活保護受給者のうち保護期間が6か月未満だった人の脱出率は15%だったのに対して、1年以上だと6%、5年以上では1%というデータもあります。
もちろん、だからと言ってうつ病の人間が無理をするのは危険です。療養をすることも大切です。
働けるか働けないかの判断は基本的に医師の診断をもとに行います。最終的に決めるのはケースワーカーですが、医師が就労不可と判断した場合、基本的にその決定をケースワーカーがひっくり返すことはできません。
うつ病などがまだ緩解していない場合でも、就労可と判断されることは珍しいことではありません。ただし、多くの場合は「軽労働のみ」と条件が付きます。軽労働とは要するにパートやアルバイトなどの短時間労働などのことです。
まずは短時間労働でもいいので、その気になったら働いてみてください。