借金生活に陥る原因にもいろいろなものがありますが、その中でも代表的なものがギャンブル依存症です。ギャンブル依存症は立派な精神疾患の一つですが、その症状からなかなか理解が得にくい病気でもあります。
ギャンブル依存症でない人間から見れば、彼らはひどくだらしのない人間に見えるものです。いったい彼らはどうして、ギャンブル依存症になってしまうのでしょうか。その心理と、治療方法を探っていきたいと思います。
目次
人間は何かに依存する生き物である
人間、何かに依存しながら生きて行くのは当たり前のことです。家族、趣味、仕事など……こうした健全な対象に対する適度な依存は心の支えを作るうえで非常に重要です。
人間どうあれ一人で生きて行くことはできませんし、心のよりどころがあればつらいことや苦しいことも乗り越えることができます。
しかし、過度な依存は生活の根幹を破たんさせる可能性があり、非常に危険です。依存症の中でも代表的なものにギャンブル依存症、アルコール依存症、薬物依存症などがありますが、今回はギャンブル依存症の影響についてお話ししたいと思います。
ギャンブル依存症は精神疾患の一つである
ギャンブル依存症は長らく、本人の意志薄弱や精神的な未熟さが原因であるとされてきましたが、1970年代以降は病気として認知されるようになりました。
DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)やICD-10(疾病及び関連保健問題の国際統計分類第10版)などで「精神疾患である」と明確に定義されています。形こそ違いますが、広い意味ではうつ病や不安障害の仲間であるといえます。
ギャンブル依存症はギャンブル障害、病的賭博と呼ばれることもあります。いずれにせよ、本人や周りの人にとっては深刻な影響をあたえる疾患であることには変わりありません。
ギャンブル依存症の主な症状は「病的な賭博」をすること
ギャンブルをする人が全員ギャンブル依存症であるというわけではありません。付き合いで馬券を買ったり、年に数回宝くじを買うだけではギャンブル依存症とはみなされません。ギャンブル依存症では、以下のような症状が見られます。
ギャンブルに対する異常な渇望
ギャンブルを異常に欲するようになります。「たまに」ではなく、「いつも」ギャンブルをしたいと思うようになります。仕事中であろうと、家にいようとギャンブルに対する渇望は消えることがありません。
結果として仕事のパフォーマンスが低下したり、集中力の低下から交通事故を起こすようなこともままあります。
ギャンブルをしないと離脱症状が現れる
離脱症状とは、依存する対象から離れようとすると出る症状のことです。薬物依存に幻覚やせん妄などの離脱症状があることは皆さんもご存知かと思いますが、ギャンブル依存症にも離脱症状があります。
ギャンブル依存症患者を物理的にギャンブルから引き離すと、たいていの場合何らかの離脱症状(手の震え、発汗、イライラなど)を訴えます。
ギャンブルに対する耐性ができる
はじめのうちは週に1回だったギャンブルが、それでは満足できなくなり週2回、3回、5回、そして毎日と増えて行ったり、1回の掛け金が増えたり、リスクの高い賭け方をしたりするようになります。
従来のスリルでは満足できなくなり、より危ない方へ危ない方へと心が流れてしまうのです。
ギャンブル以外の事象に対する興味がなくなる
依存症になると、その依存する対象以外のことをほぼ考えられなくなってしまいます。前述の通り、仕事中でも家にいてもギャンブルのことが頭から離れず、その結果それ以外の事象、たとえば家族や友人、旧来の趣味、仕事などに対する関心が低くなります。
ギャンブルにより何らかの障害が発生しても、なおギャンブルをやめられない
ギャンブルにのめり込んだ結果失職したり、借金を重ねたりしても、ギャンブルをやめることができなくなります。
ギャンブル依存症患者の心理
人間の脳では幸福や快楽を感じたときに、ドーパミンという物質が分泌されます。たとえば、楽しい音楽を聴くとドーパミンが分泌されます。すると脳は「楽しい音楽を聴く=快楽である」と学習し、その時取った行動=楽しい音楽を聴くことを再び繰り返すように指示を出します。
褒められたり、仕事や勉強で自分の望んだ成果を達成するとよりやる気が出るのはそのためです。この仕組みはうまく使えばやる気や行動量につながる反面、作用の仕方が悪いと依存症の切っ掛けになってしまうこともあります。
外れまくった後に万馬券を当てたり、パチンコで連荘を経験したりすると、ドーパミンが大量に分泌されて、それが楽しいことであると脳が判断してしまいます。その結果、ギャンブルにのめり込んでしまうのです。
では、最初にギャンブルで負ければギャンブル依存症にならないのかというと、そうでもありません。人間は本来「何かを得ること」よりも「得た何かを失わないこと」に重点を置く生き物です。
一度ギャンブルで負けてしまうと、その失ったお金が惜しくてそれを取り戻すためにギャンブルを続けてしまうのです。
株やFXなどでも含み損をいつまでたっても処分できない人がいますが、その裏では上記のような複雑な心理が働いているのです。これは万人の心理であり、これにあらがえる人はめったにいません。
猿を使った実験と人間の心理
ケンブリッジ大学のヴォルフラムシュルツ博士が行った事件を紹介します。この実験は猿1匹と赤と緑の光が出る装置を使って、猿にギャンブルを疑似的に体験させるというものです。
赤と緑の光を不規則につけたり消したりしながら、緑の光が出た直後にシロップを与え、赤のランプが出たときには何も与えないという行動を繰り返します。
すると、猿はやがて緑のランプを見ただけで、脳内でドーパミンが分泌されるようになります。シロップという報酬ではなく、緑のランプという報酬を予告する合図で興奮するようになったのです。
人間がギャンブルに負けても興奮するのはそのためです。お金という報酬ではなく、競馬やパチンコといった報酬を予告するもの自体に興奮するのです。
こうなってしまえば、胴元は報酬をほとんど与えないでもプレイヤーを興奮させることができます。そうなれば胴元としては占めたもので、還元率を極端に下げても客には困らなくなります。
ちなみに、この実験では、赤いランプを光らせたにもかかわらず猿に対して報酬を与えると、より多くのドーパミンが分泌されることもわかっています。
予想外の報酬、たとえば期待度が低いリーチからの大当たりなどを適度に出すことによって、ますます客を興奮させることができるのです。
鳩を使った実験と人間の心理
アメリカの心理学者で行動分析学の創始者であるバラス・スキナー氏が行った実験を紹介します。
まず、鳩を二つの箱のいずれかに入れます。一方の箱Aの中にあるスイッチを押すと、必ず餌が出てきます。もう一方の箱Bの中にあるスイッチを押すと、餌が出てきたり出てこなかったりします。
このことを鳩に一定期間学習させたうえで、箱の機能を停止させてスイッチを押しても一切箱から餌が出てこないようにします。
するとAの箱の鳩は2,3回スイッチを押しだけで餌が出てこないと諦めるのに対して、Bの箱の鳩は1日中スイッチ多し続けました。人間とより遺伝子が近いネズミでも同様の実験を行ったところ、まったく同じ結果が出ました。
鳩もネズミもそして人間も、確実にもらえる報酬よりも、リスクを伴う報酬に執着するようにできているのです。
働けば確実にお金がもらえるにもかかわらず、お金をリスクが失うギャンブルに執着する人が後を断たないのはそのためです。
これらの実験からわかることは?
これらの実験から、様々な生物がギャンブル依存症になる資質を持っているということができます。もちろん人間もです。ギャンブル依存症になるかならないかは時の環境や運によるところが大きく、本人の意思や資質はほとんど関係ありません。
ギャンブル依存症患者を意志薄弱、根性なしと切り捨てるのはお門違いであるといえます。
ギャンブル依存症患者はギャンブルを楽しんでいない
ギャンブル依存症患者はギャンブルが楽しいからやめられないのだ、と考える人がいますが、これは正しくありません。皆さんにも何か一つは熱中している趣味があるかと思いますが、もしそれを延々やり続けたらどうなるでしょう。
最初は楽しいかもしれませんが、多分そのうち飽きますよね。人間はどんなに楽しいことでもずっと続けられはしないのです。
それよりもずっと続けられるのはむしろ「辞めたいこと」です。ギャンブル依存症患者のほとんどはやめなければという思いを抱えながら、苦しんでギャンブルをしています。
そうした苦しいという感情から逃れるためにギャンブルをして、余計にストレスをためて、さらなるギャンブルを重ねるという無限連鎖の輪の中に入ってしまっているのです。
辞めたい辞めたいといいながら仕事をいっこうにやめられなかったり、ダイエットのためにも食べてはいけないとわかっていながら食べてしまう人が多いのも、似たような感情が働いているからといえます。
ギャンブル患者は現状を否認する
ギャンブル患者はたいていの場合、現状を否認しようとします。ここでいう否認とは、実際に起きていることを認めないことです。ギャンブル依存症患者は周りから見ればどう見ても精神疾患であり生活破綻者なのですが、本人はそのことを認めようとはしません。
この否認という現象はギャンブル依存症の治療にとって最も大きな壁であり、この否認を崩していくことが治療の最大のポイントであるといえます。
ギャンブル依存症患者にとって借金は「ギャンブルをする理由」になりえる
どんな人間でも借金するほどの事態になったら、事の重大さに気が付いてギャンブルをやめるだろう……というのは、ギャンブル依存症でない人の考え方です。ギャンブル依存症患者には、借金ですらギャンブルの理由になるのです。
ギャンブルで一発当てて借金を返せば、今の問題はすべて解決する。彼らは冗談ではなく、本気でこのように思っているのです。
ギャンブル依存症の治療
このようにギャンブル依存症患者の心理は大変複雑であり、一朝一夕で簡単に治療することはできません。しかし、適切なステップを踏めば治療は可能です。正確には、ギャンブル依存症を完治させることは不可能ですが、一生症状が出ないように改善することは可能です。
完治ではなく、克服、寛解を目指すのが基本的な治療方針になります。
ただし、ギャンブル依存症の治療に特効薬はありません。補助的に薬物治療を使うこともありますが、あくまでメインは精神療法ですので時間がかかります。
自力で治すことが全く不可能とは言い切れませんが、やはりできることならば精神科などでの治療を受けたほうがいいでしょう。(精神科でのギャンブル依存症の治療費は健康保険でまかなう事が可能です。)
似たような施設にカウンセリングルームがありますが、こちらの治療は健康保険の適用とならない為、1回1万円程度と費用がかさむ傾向があります。
またギャンブル依存症の症状が酷い場合には、1ヶ月~3ヶ月程度入院しての治療になりますので、さらに月10万円前後の入院費用が必要になります。
本格的にギャンブル依存症の治療をするなら、保険が使えて入院施設がある精神科の外来受診がおすすめです。
精神科の外来ではカウンセリングとグループワークを中心に行っていきます。グループワークとは、同じ病気、つまりギャンブル依存症である他の人たちとグループで話し合うというものです。
グループワークは病院でも受けられますが、病院が近くにないという場合は市民団体のものに参加するだけでも効果があります。
日本ではアメリカの自助団体「GA(ギャンブラーズ・アノニマス)」を参考に作られた組織がたくさんあります。ギャンブル依存症の方なら無料で利用できますので、自宅から参加しやすい組織に相談してみてください。
人間、何かを一人で孤独に成し遂げるというのは大変なものです。特に依存症は人の目がないとちょっとした気のゆるみから再発してしまいがちです。一緒に頑張る仲間を得ることによって、依存症の再発防止が期待できます。
ギャンブル依存症治療中は、ギャンブルできない環境を作り情報も仕入れないようにする
前述の通り、ギャンブル依存症は基本的に一生完治しない病気です。ちょっとしたきっかけで容易に再発します。したがって、再発を防ぐにはそのちょっとしたきっかけをなくす必要があります。
一番大切なのは、必要最低限しか現金を持ち歩かないことです。お金がなければギャンブルしたくでもできません。冷静な時にお金の管理をしておけば、外でギャンブルの興奮を思い出しても最後のところで踏みとどまれる可能性が高いです。
また、ギャンブルを想起させるものにも極力触れないようにしましょう。たとえばパチンコ店や競馬場の近くには寄らない、そうした広告が掲載されている雑誌や本などは見ない、他人がギャンブルで買った話には一切耳を貸さないなど……。
こうしてギャンブルを徹底的に避け続けることにより、無意識のうちに「ギャンブル=汚らわしくて下賤なもの」という構図が頭の中で出来上がり、ギャンブルから離れやすくなります。
ギャンブル依存症は治らない病気だが、克服はできる
結論から言ってしまうと、ギャンブル依存症は治らない病気です。一度かかってしまったら、完治することは基本的にないといえるでしょう。
しかし、症状を一生涯にわたって押さえ続けること、つまり結果としてギャンブルをしないように改善することは可能です。では、具体的にギャンブル依存症はどうやって治していけばいいのでしょうか。
まず、ギャンブル依存症の治療に当たっては必ず医療機関で治療を受ける必要があります。自力で治すのが全く不可能というわけではありませんが、極めて困難です。ギャンブル依存症は放置すればするほど重症化するので、極めて迅速に治療を開始する必要があります。
ギャンブル依存症が外来治療できる病院なんてあるの?と思われるかも知れませんが、たいていの精神科ならば1回2000円程度の値段でギャンブル依存症の治療を受けられます。ただし、ギャンブル依存症は患者数こそ多いものの、治らないので放置されることも多いです。
また、精神科医自身がギャンブル依存症の治療に慣れていないことがあります。
なるべく、ギャンブル依存症専門の病院に相談したほうがいいでしょう。最近はギャンブル依存症を治すことに特化した病院もぽつぽつと出始めていますので、インターネットで検索してみてください。
ギャンブル依存症の患者数は?
国立病院機構久里浜アルコール症センターの研究班が行った調査によれば、日本人の成人男性の8.8%(約438万人)が、成人女性の1.8%(98万人)が、合計では4.8%(536万人)がギャンブル依存症であるとのことです。つまり、100人働いている会社があるとしたら、だいたいその中の5人はギャンブル依存症であるということです。
一方、海外で行われた調査によれば、アメリカのギャンブル依存症患者の割合は1.58%、韓国は0.8%、オーストラリアは2.1%、イギリスは0.8%、スペインは1.7%と言われています。つまり、日本にはギャンブル依存症の患者数が極めて高いのです。
日本人はギャンブルに対して消極的なイメージがあった方もいらっしゃるかもしれませんが、実態はまるで逆だったのですね。では、なぜこんなに日本人はギャンブル依存症になりやすいのでしょうか。
ギャンブル依存症の原因は9割が「パチンコ・パチスロ」
日本人がギャンブル依存症になりやすい原因としては、パチンコが極めて身近なことが挙げられます。身近なところにギャンブルがあれば、一度は手を出してみたくなるものです。
たとえば、海外のカジノは依存症の疑いがある客に対しては入場を規制する、そうでない客に対しても一定の年齢に達しているかどうか確かめるために必ず身分証の提示を求めるなど、かなり厳格に運営を行っています。
一方、日本のギャンブルではそうした厳格な運営は行われていません。パチンコにも年齢制限がありますが、実際に現場で身分証の提示を求められるケースは非常に少なく、実際には利用者の自主性に任されているといってもいいでしょう。
自主性に任せるといえば聞こえはいいですが、要するに穴だらけの規制の下で運営されているので、パチンコでギャンブル依存症になりやすいというわけです。
国立病院機構久里浜アルコール症センターの研究班が行った調査によれば、ギャンブル依存症の原因の9割は「パチンコ・パチスロ」なのだとか。(ギャンブル依存症患者は大多数が男性なのは、こうした場所に女性が入りにくいためと推測されます)
ならばパチンコやパチスロに対する規制をもっと厳しくすればギャンブル依存症患者は劇的に減るのではないかと思われるかもしれません。
実際、今までそれなりに規制はされてきたのですが、そのたびに既定の拡大解釈や抜け道が発見されてきたため、イタチごっこの状態になってしまったのです。三点方式なども客観的に見れば問題点だらけなのですが、警察も政府も対応には消極的です。
ギャンブル依存症は「1人で遊ぶゲーム」でより起こりやすい
ギャンブルにはパチンコやパチスロといったような1人で遊ぶマシン系のものと、ディーラーと勝負するブラックジャック、ポーカー、ルーレットなどのテーブルゲームがあります。
このうち、よりギャンブル依存症を発症しやすいのはマシン系のゲームであるといわれています。
テーブルゲームではディーラーやマネージャーが客の様子をチェックできるため、その客がギャンブル依存症とみられる場合は参加を断るなどの対策が打てます。
しかし、マシン系のゲームではそのような対策ができないため、患者は知らぬ間にどんどんギャンブルの沼にはまっていってしまうのです。
いま日本ではカジノを作るべきかどうかという議論がありますが、一般的にカジノはテーブルゲームが中心なのでパチンコやパチスロほど危険なものではないとされています。
ギャンブル依存症で借金ができた場合は?
ギャンブル依存症による借金の金額が膨らんでしまった場合は、債務整理も視野に入れたほうがいいでしょう。借金の金額によっては自己破産も検討したほうがいいでしょう。
ギャンブルで作った借金は免責にならない、というのが一応のルールですが、実際には裁判官の裁量により免責が認められるケースが大半です。しっかり反省し、ギャンブルでもう借金は作らないという姿勢を見せるようにしてください。
家族がギャンブル依存症になったら
選択肢は二つ。「支える」か「諦める」かです。支えるという選択肢も確かに立派ですが、ギャンブル依存症患者に自身の病気を認知させるのは根気がいるものです。
もしすでに愛情が覚めてしまったのならば、諦めて離婚を考えるのも有力な選択肢に成り得ます。大切なのは、自分が一番幸せになれるであろう選択肢を選ぶことです。
自分や家族がギャンブル依存症になるのは、大変つらいものです。心理面のみならず、金銭的にも大きな悪影響を与えるギャンブルからは、なるべく距離を取るようにすることが大切です。