最近は奨学金による借金数百万円を抱えたまま社会に出る人が少なくありませんが、みなさんはそもそも奨学金がどういう制度であるかご存知ですか?今回は奨学金の概要、教育ローンとの違いなどを解説したいと思います。
目次
奨学金とは
そもそも奨学金とは何でしょうか。奨学金とは簡単に言えば、能力はあるが経済的・金銭的に進学が困難な学生に対して、金銭の給付、もしくは貸与を行う制度です。
もう少しわかりやすい言葉でいえば、勉強ができる学生に対して進学のためのお金をあげる、もしくは貸す制度のことです。奨学金は公的な団体が提供していることもあれば、民間の慈善団体や財団などが提供していることもあります。
日本の場合は、日本学生支援機構(日本育英会などの業務を引き継いで誕生した独立行政法人)がポピュラーな借入先として知られています。そのほか、民間企業や地方自治体などから奨学金を借りることも可能です。
奨学金の利用者数は近年増加傾向にあり、2014年度時点では約140万人の学生が奨学金を利用しています。全大学生のうち、奨学金を受け取っている、もしくは借りている大学生の割合は51.3%です。今や半数以上の大学生が奨学金を利用しているというわけですね。
奨学金の利用者率
区分 | 平成26年 | 平成24年 | 平成22年 | 平成20年 |
---|---|---|---|---|
大学学部(昼間) | 51.3 | 52.5 | 50.7 | 43.3 |
短期学部(昼間) | 52.9 | 53.4 | - | - |
大学院修士課程 | 55.4 | 60.5 | 59.5 | 56.7 |
大学院博士課程 | 62.7 | 66.2 | 65.5 | 64.3 |
大学院専門職学位課程 | 51.8 | 60.7 | 60.1 | 62.8 |
奨学金には給付型と貸与型がある
さて、奨学金は大きく給付型と貸与型に分類することができます。給付型とはその名の通り給付されるタイプの奨学金、つまりは返済する必要がない奨学金です。
日本学生支援機構は給付型の奨学金はあまり充実していませんが、民間の財団などには給付型の奨学金が充実しているところが少なくありません。
たとえば、コカ・コーラ教育・環境財団の給付型奨学金の審査に通った場合、毎月1万5000円を奨学金として受け取ることができます。
一方、貸与型は貸し付けられるタイプの奨学金、つまりは返済が必要になる奨学金です。返済開始時期は卒業してからです。返還された奨学金は、後輩たちの奨学金として再利用されることになります。
貸与型の奨学金はさらに有利子のものと無利子のものにさらに分けることができます。
たとえば日本学生支援機構の場合、第一種奨学金は無利子、第二種奨学金は有利子となっています。
日本育英会時代は利子以外にこれといった差がなかったため、当然第一種奨学金のほうが人気でしたが、現在は第二種のほうが借りられる金額の上限が高く、また有利子と言っても市中銀行などと比べると非常に金利が低いため、第二種奨学金もそれなりに人気があるようです。
奨学金のメリット2つ
奨学金を借りて進学することの主なメリットは、以下の2点です。
経済的に困窮していても進学ができる
充分な学力と意欲があるにもかかわらず、大学に進学できない学生は奨学金を利用することによって、学びたいことを恵まれた環境で十分に学習することができます。
低金利&在学期間中は無利子
奨学金には前述のとおり無利子のものと有利子のものがありますが、有利子のものも現在は非常に低金利で借りることができます。市中銀行で教育ローンを借りるよりはお得なケースがほとんどです。加えて在学期間中は無利子なので、安心して学ぶことができます。
奨学金のデメリット3つ
奨学金は意欲の高い生徒にとってはありがたい制度であることは間違いないですが、それでもデメリットも少なくありません。借りる前にはそのことをよく理解しておく必要があります。奨学金の主なデメリットは以下の3点です。
給付型や無利子は審査が厳しい
奨学金の中で皆が利用したがるのは、当然返済の必要がない給付型です。しかし、実際に給付型奨学金を借りられるのはほんの一握りの人だけです。次に人気があるのは無利子の貸与型給付金ですが、これも結構な人気です。
他人よりも学力などが優れていないと、借りるのは難しいといえるでしょう。
返済が長期にわたることが多い
奨学金は買い入れた金額にもよりますが、返済に10年~20年程度はかかることを覚悟しておいてください。毎月の返済額は1万円~3万円程度でそれほど大きな負担ではないのですが、社会人になった直後は給料も低く、返済が結構大変に感じることもあります。
奨学金の返済が原因で結婚をあきらめなければならないケースも少なくないようです。なお、奨学金は通常繰り上げ返済をすることができるので、経済的に余裕ができたらどんどん返していくといいでしょう。
そもそも奨学金は借金である
奨学金は奨学金と名がついていますが、要するに借金です。最近は奨学金を借りて進学した者の就職先が見つからずに、フリーターとして働きながら奨学金を返している人も少なくありません。借りる前にはそのことを十分に自覚しておく必要があります。
貸与型奨学金と教育ローンの違いって何?
貸与型奨学金も教育ローンも借金であることに変わりはありませんが、両者にはいくつか違いがあります。いかに主な違いを列挙します。
貸与型奨学金は子供の借金、教育ローンは親の借金
貸与型奨学金は子供、つまりは学生本人の名義で借りる借金です。原則として保護者が保証人、もしくは連帯保証人になる必要がありますが、卒業後の返済は学生自身が行います。よって、審査では学生自身の学力や能力、進学に対する意欲などが重点的にチェックされます。
学力や能力があり、進学に対する意欲がある人ほど将来いい職に就ける、つまりは返済がスムーズに行える可能性が高いからです。
もちろん、家庭の経済的な事情もチェックされます。家庭の経済状況が十分に裕福であると判断された場合は、奨学金が借りられないこともあります。
一方、教育ローンは親の名義で組みます。教育ローンという目的が定まっていること以外は普通のローンと一緒であり、親の職業の安定性や収入の高さ、住宅の形態などが審査の基準になります。
金利が違う
有利子の貸与型奨学金と教育ローンでは、一般的に前者の方が金利が低いとされています。たとえば、2015年5月現在の日本学生支援機構の有利子の貸与型奨学金の金利は固定金利の場合0.69%、変動金利の場合0.20%(適宜見直しあり、上限は3.0%)となっています。
一方、一般的な大手銀行の教育ローンの金利は2.0~3.0%程度です。
また、教育ローンは在学中から金利が発生しますが、貸与型奨学金は在学中はローンが発生しません。よって、借入額が同じ場合、総返済額は奨学金のほうが少なくなることが多いです。
返済開始時期が違う
貸与型奨学金は前述のとおり、原則として卒業後に返済を開始します。一方、教育ローンは在学中(借入日の翌月、もしくは翌々月)から返済を開始することになります。そのため、返済終了は教育ローンのほうが速いです。
申し込みできる時期が違う
貸与型奨学金は申込できる時期が限られています。たとえば日本学生支援機構の場合、原則として毎年春に申し込みを受け付けています(詳細は日本学生支援機構のホームページを参考になさってください)。
融資開始時期は初回振り込みが4月21日、5月16日、6月11日のいずれかとなっています。
一方、教育ローンは原則として一年中、いつでも必要な時に申し込むことができます。ローン契約を結んでから数週間程度で融資が行われます。
貸与型奨学金と教育ローン、どっちを選ぶべき?
ここまで貸与型奨学金と教育ローンの違いについて説明してきましたが、では一体どちらを利用すればいいのでしょうか。
答えは人によって異なりますが、貸与型奨学金は初回の支給が入学後なので、入学金と初年度の前期の学費が支払えないという場合は、教育ローンを利用するしかありません。
一方、入学金や初年度の前期の学費は払えるけど、4年分の学費は賄えそうにないという場合は、金利が低い奨学金を利用したほうが有利になるケースが多いです。
なお、貸与型奨学金と教育ローンは同時に申し込みを行うことも可能です。
借金せずに大学に行きたい!そんなときに役立つのが学資保険
自分は経済的に裕福とは言えない、だけど子供に奨学金という名の借金を背負わせるのは忍びない。そんな方に利用していただきたいのが学資保険です。
学資保険とは子供の教育資金の確保のための保険です。通常の生命保険などと同じように毎月一定の保険料を納めていき、満期が来たら給付金を受け取る、というものです。満期を子供が高校を卒業する直前に設定することによって、教育資金を確保することができます。
学資保険には返礼率が100%より高いもの(掛け金よりも多くの金額が戻ってくるもの)もあれば、返礼率が100%を割っているもの(掛け金よりも少ない金額しか返ってこないもの)もあります。
ただし、返礼率が100%を割っているものはオプションが充実している(親や子どもの病気がかかった際の通院費用が受け取れるなど)ため、返礼率だけで商品を選ぶのは得策とは言えません。自身の子供の人数や健康状態、収入の多寡に応じて最適なものを選んでください。
お金を借りてまで大学に行く必要ってあるの?
これは非常に難しい問題です。奨学金の存在意義はあくまで「学習意欲があり、なおかつ学力もあるが経済的に困窮している学生のための救済」にあります。しかし、現状奨学金が必ずしもそのように機能しているとはいえません。
モラトリアムの期間を延ばすためにただなんとなく奨学金を借りて、中堅以下の大学で大して勉強もせずに過ごす、という学生も少なからず存在しています。そこまでして大学に通う意味が果たしてあるのかと思うかもしれません。
ただ、現在の日本では大卒は高卒よりもそれだけで評価される傾向があります。大卒でないとそもそもスタートラインに立てないことが多い、といったほうがいいかもしれません。
大卒と高卒では就職のチャンスが雲泥の差ですし、仮に働き始めたとしても大卒のほうが生涯年収は数千万円も高くなります。それを考えれば、数百万の奨学金は安いといえるかもしれませんし、何となく進学した学生を一方的に責めるのもはばかられます。
ただ、それでもやはり奨学金が借金であるという事実は忘れてはいけません。借りる前には、本当に卒業と同時に数百万円の借金を背負う覚悟があるのか子供に(学生の場合は自分自身に)問いかけてみましょう。
奨学金Q&A
最後に、奨学金に関する疑問をまとめました。わからないことがあった際には参考にしていただければと思います。
日本学生支援機構以外にはどんなところから奨学金がもらえる・借りれますか?
大学によっては、その大学独自の奨学金制度を用意していることがあります。また、奨学金ではなく学費を減免する制度を設けているところもあります。詳しくは各大学のホームページなどの資料をご覧ください。
また、全国の都道府県、および一部の市区町村や民間団体も奨学金を取り扱っています。詳しくは日本学生支援機構のホームページの資料をご覧ください。
http://www.jasso.go.jp/about/statistics/shogaku_dantaiseido/index.html#search_button
高校進学時に奨学金はもらえますか?
もらえます。日本学生支援機構には高校生を対象とした奨学金はありませんが、各都道府県には高校生を対象とした奨学金制度があります。詳しくはお住いの都道府県のホームページなどの資料をご覧ください。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/detail/1353842.htm
新聞奨学生ってなんですか?
新聞販売店と雇用契約を結び、そこから給料をもらって住み込みで働きながら大学に行く仕組みのことです。給与と奨学金の両方が受け取れるのは大きなメリットですが、午前3時からの新聞配達と学業を両立するのは非常に困難で、途中で辞めていく人も少なくありません。
新聞奨学生は仕事優先でサークルなどにはまず参加できません。当サイトでは新聞奨学生になることはお勧めはしません。
退学したら奨学金の扱いはどうなりますか?
自己都合や処分で退学になった場合、まずは奨学金の振り込みを止めてもらうために学校の担当者に電話します。次に奨学金の返還誓約書と異動願を作成し、速やかに奨学金を返還する必要があります。返還できない場合は、1年単位で返還が猶予されます。
奨学金を滞納するとどうなりますか?
奨学金も借金の一つですから、滞納すると個人信用情報機関にそのことが登録されます。いわばブラックリスト入りです。こうなると新たにカードローンや住宅ローンを組むのは難しくなってしまいます。滞納が続けば強制執行もあり得ます。
そのようなことがないように、返済はしっかりと行いましょう。どうしても返済ができないという場合は債務整理をしましょう……といいたいところですが、債務整理で奨学金を整理すると今度は保証人(多くの場合は親)に請求が行きます。
保証人に迷惑をかけたくない場合は任意整理で奨学金をその対象から外すといいでしょう。