企業の借金額ランキング上位を有名企業が独占する理由

「借金はその種類や性格によらず悪いものである」というイメージをお持ちの方は少なくないかと思います。確かに、個人がする借金についてはそう言えるのかもしれませんが、法人、特に企業がする借金においては明確に間違いであると言えます。

実際、企業の借金ランキングを見てみると、上位を大企業が独占していることがわかります。これは大企業の経営状態に問題があることを意味するものではありません。むしろ借金をしないと大企業の仲間入りを果たすのが難しいという現状が、このようなランキングの独占を招いていると言えます。今回の記事ではなぜ企業は借金をするのか、そしてなぜ借金をしないと大企業になれないのかを解説いたします。

日本の借金王はソフトバンクグループ!東電やJR東海、住友不動産も上位に

以下の表は、東洋経済オンラインが2018年12月6日に公表した日本企業の借金ランキングです(金融系企業や金融事業を行う自動車企業は見た目の借金が過剰に大きくなるため対象外)。

東洋経済社は500位まで公開していますが、ここではその中でも特に重要な上位50社のみを抜き出しています。全部のランキングを見たい方はリンク先をご確認ください。(引用元:東洋経済オンライン 最新!今度は「借金の多い企業」トップ500社だ

2018年借金が多い企業トップ50(単位:億円)
社名 ネットキャッシュ 現預金 短期保有有価証券 有利子負債
ソフトバンクグループ ▲137,075 33,346 0 170,421
東京電力ホールディングス ▲48,356 11,872 0 60,229
JR東海 ▲41,751 4,698 3,085 49,042
三菱商事 ▲37,720 12,402 93 49,543
関西電力 ▲35,485 1,596 0 37,082
日本電信電話 ▲34,407 7,803 316 38,782
三井物産 ▲33,833 11,313 0 42,269
住友不動産 ▲32,103 2,632 0 34,735
JR東日本 ▲29,759 2,551 600 31,905
九州電力 ▲28,981 3,457 0 32,438
住友商事 ▲26,800 6,823 13 32,038
三井不動産 ▲25,234 1,008 1 26,046
伊藤忠商事 ▲24,775 4,590 0 27,794
中部電力 ▲22,996 1,816 1,062 25,875
東北電力 ▲22,174 1,879 0 24,053
三菱地所 ▲21,815 2,871 82 24,768
中国電力 ▲19,611 930 80 20,621
新日鐵住金 ▲19,369 1,087 72 20,529
丸紅 ▲19,158 6,268 0 25,427
JXTGホールディングス ▲18,125 4,473 0 22,599
J-POWER ▲14,310 1,296 0 15,607
三菱重工業 ▲13,993 3,134 0 8,131
三菱ケミカルホールディングス ▲13,284 2,776 0 16,061
北海道電力 ▲13,104 1,160 0 14,265
ジェイエフイーホールディングス ▲12,548 761 0 13,309
アサヒグループホールディングス ▲12,038 580 0 12,619
東急不動産ホールディングス ▲11,730 627 158 12,103
イオン ▲11,233 9,180 2,088 22,502
豊田通商 ▲10,473 4,234 0 14,707
近鉄グループホールディングス ▲10,262 539 0 10,802
JR西日本 ▲10,161 829 187 10,494
東京急行電鉄 ▲9,683 390 0 9,697
商船三井 ▲9,412 1,927 5 11,001
日本郵船 ▲9,148 1,048 1 9,713
西武ホールディングス ▲8,811 299 0 8,747
KDDI ▲8,330 2,008 0 10,338
阪急阪神ホールディングス ▲8,305 288 0 8,594
野村不動産ホールディングス ▲8,164 523 90 8,778
東武鉄道 ▲8,106 251 0 7,661
ヒューリック ▲8,041 282 0 8,266
出光興産 ▲8,036 884 0 8,920
北陸電力 ▲7,891 2,001 0 9,892
東京建物 ▲7,642 451 0 8,093
豊田自動織機 ▲7,324 4,356 0 11,681
武田薬品工業 ▲6,911 2,945 0 9,856
東レ ▲6,714 1,411 0 8,125
リコー ▲6,653 1,606 559 8,819
コマツ ▲6,637 1,468 0 8,105
コスモエネルギーホールディングス ▲6,357 646 0 7,004
大和ハウス工業 ▲6,338 3,308 20 7,805

なお、ここで言う借金とは、企業の手元資金であるネットキャッシュ(現預金+短期保有有価証券-有利子負債)の合計を指します。

手元資金とは簡単に言えば企業が比較的自由に使えるお金のことです。ネットキャッシュがプラス(有利子負債があっても以上に現預金や短期保有有価証券が多い)企業は、実質無借金企業と呼ばれることもあります。

  • 現預金:文字通り現金及び預金のこと。
  • 短期保有有価証券:株式や国際、社債などのうち、保有期間が短期間なもの。
  • 有利子負債:利息をつけて返さないといけない借金。銀行からの借り入れや社債など。

ランキング上位は名だたる企業が独占!

表を御覧いただけばわかりますが、栄えある(?)1位の座を仕留めたのはソフトバンクグループです。4年連続の1位であり、金額も12.6兆円から13.7兆円に増えています。2位の東京電力ホールディングス4.8兆円に3倍近い差をつけており、借金王の称号を欲しいにしていると言えるでしょう。

2位以降も電力会社、鉄道会社、不動産会社など、名だたる企業がランクインしています。東証一部に上場している企業も多いです。

「これほど知名度があり売上も大きい企業ならば借金なんかしなくても十分に経営していけるのでは?」「大企業がこんなに借金して大丈夫なの?」と思われるかもしれませんが、企業がこのような大規模な借金をするのにはきちんとした理由がありますし、経営も(一部の企業を除いては)概ね健全です。

大企業はなぜわざわざ借金をするのか?

企業が借金をするメリットは多数ありますが、その中でも特に重要なのは以下の5つです。大企業はこれらのメリットを十分に活かしたからこそ大企業になれだのだとも言えます。

  • レバレッジがかかり、成長スピードが早くなるから
  • 金融機関とのパイプができるから
  • 外部の取引先から信用が得られるから
  • 利息を支払った分、税金が安くなるから
  • インフレが進展すれば借金の重みが減るから

レバレッジがかかり、成長スピードが早くなるから

企業が借金をする一番のメリットは、事業に使える資金が増えるぶん、企業の成長スピードが早くなることです。

例えば今、企業の経営者である目の前に「今投資すれば1年後に必ず投資金額の10%が得られる事業」があるとします。手持ちの資本金は100万円ですが、銀行が「900万円までなら年利1%まで貸しますよ」と言ってくれています。このとき、あなたはどうするのが最善でしょうか。

もし借金をせずに100万円だけを投資したら、1年後には110万円になって帰ってきます。借金はしていないので、この110万円が新たな資本金となります。

一方、銀行から900万円借りて、資本金の100万円と合わせて1000万円を投資した場合、1年後には1100万円になって帰ってきます。そこから元利合計の909万円を返済すると、手元には191万円が残ります。この191万円が新たな資本金となります。

借金しなければ1年後の資本金は110万円、借金すれば191万円。どちらのほうが良いかはもはや言うまでもないでしょう。

企業経営ではこのように自己資金である資本金に、他人資本である借金を加えることによって、企業の成長スピードを早めることができるのです。大企業はこの手法を繰り返すことによって成長してきたわけです。

このようなやり方をしていると、借金の絶対額が増えるため今回のランキング上位に入るようになります。が、一方で返済の必要がない純資産も増加しているため、借金が多くても経営に問題はないことになります。

ちなみに、借金をして投資額を増やし、利益を増やす手法を「レバレッジを掛ける」といいます。例えば自己資金100万円で1000万円の投資を行う場合、「レバレッジは10倍である」といいます。

この方法には当然リスクもあります。「今投資すれば1年後に必ず投資金額の10%が得られる事業」というものは実際には存在しません。

「今投資すれば1年後に投資金額の10%が得られると謳っている事業」ならば存在しますが、そうした事業に投資して本当に10%が戻ってくる保証はありません。もしかしたら5%になるかもしれませんし、0.5%になるかもしれませんし、-20%になるかもしれません。

例えば投資利回りが0.5%になってしまった場合、銀行から900万円借りて、資本金の100万円と合わせて1000万円を投資した場合、1年後には1005万円になって帰ってきます。そこから元利合計の909万円を返済すると、手元には96万円が残ります。

借金をしなかった場合と比べて、資本金が少なくなってしまいました。レバレッジを増やす手法はハイリスクハリイターンであり、この勝負に勝った企業が大企業になった、と言えるのかもしれません。

金融機関とのパイプができるから

借金をすると、金融機関(主に銀行)とのパイプができます。金融機関はそれ以外の企業が持っていないような、知っているとお得な情報を持っています。他社の機密情報を教えてもらえることは当然ないですが、新たな法規制の存在、地元の弁護士の情報などの情報を教えてもらえるかもしれません。

また、借金をするということは、ある程度金融機関にコントロールされる、ということでもあります。一見悪い事のように思えますが、経営者の暴走を防ぐというメリットもあります。

無借金の中小企業は経営者の判断ミスで経営が傾くことがままありますが、金融機関のコントロールを受ければその可能性を減らせます。金融機関としても企業に倒産されると困るので、そうそう間違ったことは言ってこないはずです。

同じく経営者をコントロールする立場の人に株主がいますが、株主は経営や財務に無関心であったり、あるいは知識がなかったりすることも珍しくありません。金融機関と言うより優れた判断力を持つものがついていたほうが有利なことは間違いないでしょう。

外部の取引先から信用が得られるから

借金は企業にとって資金を調達するためのものであると同時に、外部の取引先から信用されるための手段でもあります。

借金ができたということは、金融機関にある程度信頼されている、ということです。もちろん、金融機関の融資担当者がいつでも完璧に融資の可否を判断できているわけではありませんが、それでも無借金状態よりは信用を得やすくなるはずです。

ただし、それは当然問題なく返済を続けていればの話です。延滞を起こすと信用も何もなくなってしまうだけでなく、新たに借り入れができなくなってしまいます。そういった意味ではやはり借金にはリスクが伴うと言えます。

利息を支払った分、税金が安くなるから

借金をしたら当然それを返済することになりますが、毎月の返済分のうち利息の部分は経費として計上できます。経費が増えれば、その分だけ税金(法人税)が安くなります。なお、ちょっと話はズレますが、個人で不動産投資などの事業を行っている場合も、利息の部分は経費として計上できます。

インフレが進展すれば借金の重みが減るから

インフレとは、物価の価値が上昇し、お金の価値が減ることです。お金の価値が減ると、借金の重み、つまり実質的な負担が減るわけです。

日常生活を普通に送っているだけではなかなか気づきづらいことですが、実は今のお金と昔のお金の価値は一緒ではありません。

例えば野村ホールディングスと日経新聞社が運営するman@bowによれば、明治30年頃の1円は、現在の3800円に相当するとのことです(参考:明治時代の「1円」の価値ってどれぐらい?)。

また、当時は物価に比べて賃金水準が低く、庶民にとっての1円は現在の2万円の価値があったとも考察されています(当時の教員や警察官の初任給が8円~9円、一人前の大工やベテラン技術者で月20円)。

明治時代の1円が現在の2万円に相当するということは、言い換えれば明治時代から現在にかけてお金の価値が2万分の1になった、ということでもあります。当時5000円(ベテラン技術者の年収約20年分に相当)の貯金があれば高級車が買えましたが、いま5000円があっても高級車どころかまともなリヤカーすら買えません。

逆に当時5000円の借金があったら大問題ですが、いま5000円の借金があってもすぐに返せます。インフレが進むと借金の実質的な負担が減るのです。

インフレとは逆の減少であるデフレ、すなわち物価が下落しお金の価値が上昇しているときは借金の実質的な負担は増えますが、これまでの歴史上、経済は安定しているときには緩やかに(2%程度)インフレし、不安定なときは大幅にインフレする傾向があることがわかっています。

どっちにしろ長期的に見ればインフレし、その分だけ実質的な借金の負担は減るのです。負担を減らしつつ設備や人材を整備する借金は、企業にとっては合理的な判断と言えます。

「借金の額の大きさと」と「倒産の可能性」は一致しないことが多い

借金のメリットはわかったけれど、そうは言ってもやっぱり借金の絶対額が大きいのは不安……と思われるかもしれませんが、実際のところ、借金の額の大きさと倒産の可能性は一致しないことが多いからです。

そもそも倒産はなぜ起こるのでしょうか。一般的には、返済しなければならない借金を返済できなくなった時に起こります。借金の額がいくら多くても、それを返済できるだけの能力があれば倒産しない、とも言えます。大企業は借金の額こそ多いですが、返済能力も高いので倒産しないわけです。

会社の倒産リスク、すなわち借金の額と返済能力の関係性を知る上で有用な指標に、流動比率があります。流動比率とは、1年以内に現金化が可能な「流動資産」を、1年以内に返さなければならない「流動負債」で割ったものです。

これが1(100%)を上回っている場合、短期的な支払い能力が支払い義務を上回るということであり、とりあえずは安心ということになります。

例として、先程のランキングで圧倒的1位の座を獲得した1位のソフトバンクグループの2018年3月時点での流動比率は102.2%です(引用元:バフェットコード)。特に高いとは言えませんが、低いわけでもありません。

もう一つ、企業の経営状態を判断するための指標に、自己資本比率があります。自己資本比率とは、純資産を資産で割ったものです。

  • 自己資本比率=純資産÷資産

どちらも財務指標である貸借対照表という図に掲載されています。貸借対照表とは、その企業の財産とそのお金の出処をわかりやすく1枚の表にまとめたもので、「資産」「負債」「純資産」の3つに分類します。下の表はソフトバンクグループの貸借対照表です。(引用元:ロイター)。

  • 資産:会社に帰属する財産。現預金、有価証券、売掛金、固定資産(土地、建物、機械)など
  • 負債:借金。支払手形、社債、買掛金、短期借入金、長期借入金など。
  • 純資産:資産から負債を除いた、純粋な企業の財産。資本金、利益剰余金など。

貸借対照表では、資産=負債+純資産という関係が必ず成り立ちます。資産を得るためのお金の出処は、負債か純資産のどちらかに該当するためです。したがって、自己資本比率は以下のようにも表記できます。

  • 自己資本比率=純資産÷(負債+純資産)

負債が一定の場合、純資産の額が増えるほど、自己資本比率は高くなります。自己資本比率が高いということは返済義務のある他人資本である負債の割合が小さくなるということでもあり、経営が健全な証となります。

ソフトバンクグループの自己資本比率は16.6%です。全体的に見ればやや低めですが、ソフトバンクは投資に積極的な以上どうしても負債の割合が大きくなりがちであることを考えると、こちらも気になるほどではありません。

なお、仮にこれが100%になった場合、借金がない無借金経営起業となります。

まとめ

  • 企業が借金をすることには様々なメリットがある
  • 中でも「成長スピードが早まる」というのは大きい
  • 一方で、借金をするのはハイリスクハイリターンであるのも事実
  • 大企業が大企業になれたのはハイリスクハイリターンな勝負に勝てたからという面が大きい
  • 借金の額の大きさと倒産リスクは別物である
  • 流動比率が100%を超えていればとりあえず安心

企業は家計とはまた別の論理で動いており、借金が必ずしも悪いものとはみなされません。こうした経済の仕組みを理解しておくと、様々な場面で役立ちます。