「新しく始める商売の開業資金がほしい……」「マイホームを買いたいけれど頭金が足りない……」そんな時に「親から借りる」という選択肢が頭をよぎる人は多いのではないでしょうか。
確かに親からの借金は銀行や消費者金融等からの借金と違って取り立ても緩いですし、必ずしも一定のペースで返済する必要もありません。双方の合意があれば金利も自由に設定できるなど、身内ならではのメリットも少なくありません。
しかし、事前に親子で借金の返済方法や利息などについて十分話し合わなかった場合、税務署に借金ではなく贈与とみなされる可能性があることについては留意が必要です。もしそうなった場合、あなたは贈与税を払わなくてはなりません。
今回の記事では贈与税の基本的な仕組み、借金が贈与とみなされてしまう条件などをまとめて解説いたします。親からの借金を考えている方はもちろん、子供にお金を貸そうと考えている親御さんにとっても有益な内容となっていますので、ぜひご一読ください。
そもそも贈与税ってなんだ?
贈与税とは、個人から何らかの財産を受け取った(贈与を受けた)時に発生する税金です。税金が課せられるのは財産を受け取った人だけであり、贈った人には直接関係のない話です。
また、贈与を受けた場合でも必ず贈与税が発生するとは限りません。例えば、以下のような条件に当てはまる場合、贈与税はかかりません。
- 法人から贈与された財産。この場合、贈与税ではなく所得税がかかる。
- 扶養義務者から被扶養者に支払われる財産で、生活費、教育費などに該当するもの。
- 宗教、事前、学術などの公益を目的とする事業を行うものが受け取った財産で、なおかつその公益のために使われることが明確なもの。
贈与税の非課税枠
贈与税には110万円の基礎控除枠が定められています。基礎控除枠とは、簡単に言えば「この金額以下ならば税金を払う必要わないですよ」という金額のことです。要するに、1年間に受けた贈与の額が110万円以下である場合、贈与税を払わなくて済むのです。それどころか申告の義務もなくなります。
なお、基礎控除枠は、財産を受け取る人ごとに与えられる枠です。例えばあなたが父親と母親からそれぞれ100万円ずつ受け取った場合、その人の受け取った金額は200万円となりますので、オーバーした90万円の部分については贈与税が発生することになります。
どうして借金が贈与とみなされてしまうの?
お金を受け取った側が返済する義務を追う「借金」と、その義務がない「贈与」は本来全く別物です。にもかかわらず、親子間で借金をすると、それが贈与だと税務署にみなされてしまうことがあります。
といっても、金融機関から借金する場合と同じように、利息や返済日について明確に定め、証拠がきちんと残る形で返済をしたのならば、贈与とみなされることはまずありません。
逆に言えば、これらのことをきちんと実行せずなあなあな態度のまま借金をしてしまった場合や、借り手である子供に取ってあまりにも有利な取り決めが作られていた場合などは、贈与とみなされてしまうことがあります。
以下に、借金が贈与としてみなされてしまうケースをいくつか紹介いたします。親子間でお金を貸し借りする場合は、以下のケースに当てはまらないようにすることが大切です。
返済が事実上不可能と思われる借金
子供が自身の収入ではとても返済できないような額を借りていると(例えば年収が400万円なのに2億円借りている場合など)、それが贈与だとみなされる可能性があります。「借金という体を取ることによって、贈与税から逃れようとしていると」みなされてしまうためです。実際にこのようなことができるほど財力がある親は少ないかと思いますが……。
契約書がない借金
法律上、契約というのは口約束だけでも成立するものです。これは借金に限った話ではありません。しかし、高額な取引を伴う契約をする場合はほぼ100%、契約書というものを作成します。後で言った言わないで揉めるのを避けるため、双方が契約に合意した証拠とするためです。
税務署から見た場合、契約書がない借金は、贈与と区別が付きません。後で税務署からあれこれ突っつかれるのを避けるためにも、親子間の借金であっても必ず契約書は交わすべきです。
返済期限が定められていない借金
返済期限が定められていないということは、つまるところ一生返さなくてもいいということです。一生返さなくても良いのですからこれはもう贈与と同じです。契約書を作成するに当たっては、必ず返済期限を明確にしておく必要があります。
利息がない借金
無利息でお金を貸し借りしている場合(元本の返済のみで良しとしている場合)、お金を借りている子供は、通常は支払うべき利息分を支払っておらず、利息分の得をしているとみなされます。つまり、利息分を親からもらっていると解釈できるわけです。この場合、利息部分に贈与税が掛かってきます。
ただし、この場合では、実際に贈与税を支払うことはまずありません。利息だけで基礎控除額の110万円を上回ることはまずありえないからです。
親子間での借金が贈与とみなされないために何をすべきか?
親子間で借金をする場合、その借金が贈与だとみなされないための証拠を予め作っておく必要があります。具体的には、以下のことを実行すべきです。
契約書を作成しておく
親子間で借金をする場合でも、契約書の作成は必須です。前述の通り、契約書がないと贈与とみなされてしまう可能性があるからです。お金の貸し借りのルールを定めた契約書を「金銭消費貸借契約書」といいます。
「金銭消費貸借契約書 テンプレート」「金銭消費貸借契約書 雛形」などで検索すると弁護士事務所や司法書士事務所などが提供しているテンプレートが見つかるはずですので、それをダウンロードして使うといいでしょう。
また、契約書の内容にも気を配る必要があります。契約書には貸し手(親)と借り手(子供)の名前、金額、契約日などの基本的な情報のほか、以下の時効を記載します。
必要事項 | 見出し欄2 |
---|---|
利息 | 無利息の場合、利息分が贈与とみなされます。それでも実質的なデメリットはない(基礎控除枠のおかげで贈与税はまず発生しない)ですが、その場合も「利息は0%とする」と明記しておきましょう。なお、利息の上限は15~20%(金額により異なる)です。 |
支払期日と支払い方法 | 支払期日は通常月1回です。支払い方法は返済したという証拠が残る銀行振込がおすすめです。 |
遅延損害金 | 返済が遅れた場合に発生する損害金です。通常、利息よりも高く設定します。 |
延滞が発生した場合の対処法 | 「延滞が発生した場合、直ちに残金を一括で支払う」とすることが多いですが、親子間の場合はそこまで厳しくしなくても良いかもしれません。 |
契約書作成時の注意点
- 契約書自体はワープロソフトで作成しても問題ありませんが、署名の部分は直筆で書きましょう。印鑑は実印を使ってください。
- 契約書の改ざんを防ぐために、金額はすべて大字(壱、弐、参、拾などの画数の多い漢字)で書きましょう。
- 借金の額が1万円以上の場合、収入印紙が必要になります。
- 契約書の日付はお金の受領日に一致させます。
支払いの証拠を残す
返済の証拠が残っていない場合、贈与を疑われる可能性があります。手渡しで返済してしまうと証拠が残らないのでよくありません。毎日会うような間柄であっても、銀行口座を介して支払うなどしたほうが良いでしょう。
利息はなくてもいいが、付けたほうが無難
利息だけで基礎控除枠を上回ることはほぼありませんが、それでも借金をする以上、申し訳程度でもいいので利息をつけることをおすすめします。親子間ですので、市場よりも多少安くても問題ありません。
ある条件を満たせば非課税枠が最大3000万円になる!?
前述の通り、子供が親から贈与を受けた場合の非課税枠は原則として110万円ですが、ある条件を満たした場合は、これをもっと大きくできます。最も条件に恵まれた場合、最大3000万円まで拡大することが可能です。
非課税枠がここまで大きくなれば、贈与税を気にする必要はまずなくなるでしょう。具体的には、以下のようなケースでは、非課税枠が拡大します。
親や祖父母から住宅取得のための資金の贈与を受けた場合
「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」という制度をご存知でしょうか。これは簡単に言えば、直系尊属、すなわち親、祖父母などから住宅取得のための資金の贈与を受けた際に、贈与税が免除される制度です。
親世代から子世代へのスムーズな財産の移転を促しつつ、良質な住宅を供給するための仕組みであり、条件次第では最大で3000万円の非課税枠を確保できます。
同制度は期間限定の特例であり、平成33年(2021年)12月31日までに住宅の新築などに係る契約を結んだ場合のみ有効となります。また、その時期が早ければ早いほど、非課税枠は大きくなります。要するに早く済ませたほうが有利なわけです。
また、取得する住宅が高性能住宅だった場合、非課税枠が大きくなります。高性能住宅とは長期に渡って済み続けられるように設計された住宅で、具体的には一定以上の省エネ等基準、耐震基準などを満たしているものです。記事執筆時点(2018年11月11日時点)での非課税枠は以下のとおりです。
契約締結日 | 高性能住宅 | それ以外の住宅 |
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~平成27年12月31日 | 1500万円 | 1000万円 |
平成28年1月1日~平成32年(2020年)3月31日 | 1200万円 | 700万円 |
平成32年(2020年)4月1日~平成33年(2021年)3月31日 | 1000万円 | 500万円 |
平成33年(2021年)4月1日~平成33年(2021年)12月31日 | 800万円 | 300万円 |
契約締結日 | 高性能住宅 | それ以外の住宅 |
---|---|---|
平成31年(2019年)4月1日~平成32年(2020年)3月31日 | 3000万円 | 2500万円 |
平成32年(2020年)4月1日~平成33年(2021年)3月31日 | 1500万円 | 1000万円 |
平成33年(2021年)4月1日~平成33年(2021年)12月31日 | 1200万円 | 700万円 |
親や祖父母から結婚や子育てのための資金の贈与を受けた場合
「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」についてはご存知でしょうか。これは簡単に言えば、直系尊属、すなわち親、祖父母などから結婚・子育てのための資金の贈与を受けた際に、贈与税が免除される制度です。対象となるのは2019年3月31日までの贈与です。最大控除額は1000万円で、うち結婚費用は300万円までです。
ただし、結婚時や子育てにかかる費用が全て対象となるわけではありません。詳しくは以下の表を参考にしてください。
対象になる | 対象にならない |
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結婚にかかる費用(300万円まで)。具体例は以下の通り。 挙式費用、衣装代、新居費用、転居費用 |
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妊娠や出産に関する費用。具体的には以下の通り。
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まとめ
- 子供が親から借金した場合、その内容次第では贈与とみなされ贈与税がかかることがある
- それを避けるためにはしっかりと金利や返済日を設定し、形が残る方法で返済することが大切
- 住宅資金や結婚資金は非課税枠が拡大する
親子間だからといって、なあなあな関係のままお金の貸し借りをしてしまうのはよくありません。きちんと契約書を作成して貸し借りをしましょう。場合によっては、非課税枠が拡大する贈与を使ってもいいでしょう。自分に最も得な方法を選んでください。