80年、あるいは90年と生きるのが珍しくなくなったわれわれ現代人。長生きできるのは基本的にはいいことだと思いますが、気がかりなのが老後の資金です。若いうちにお金がないのももちろん苦しいですが、年を取ってからお金がないのはその何倍も苦しいものです。
老後に苦労したくないという一心で、若いうちから貯蓄に励む人もたくさんいます。となると、気になるのが「老後までに具体的にいくら用意しておけばいいのか」ということです。これについては様々な専門家が予測をしていますが、その予測もバラバラです。
「老後までに●●●●万円必要だ!」と明言している記事も少なくありませんが、ああした予想は眉唾ものです。具体的にいくら必要かなど、今から予測できるはずもないからです。
それよりも大切なのは、若いうちから金融リテラシーを身に着け、お金と向き合い、その運用方法を知ることです。お金の運用方法さえ知っておけば、若い時はもちろん、年を取ってからもお金に振り回されることはなくなります。
今回の記事では、老後資金の効率的な作り方をまとめて紹介いたしますので、将来について漠然とした不安を感じている方は、ぜひ実行してください。
「老後までにいくら必要なのか」はわからない
まずは以下の3つの記事のタイトルをご覧ください。
どの記事も老後に向けての蓄えはいくら必要かについて考察した記事ですが、その内容は大幅に異なっています。メディアに寄稿できるほどの人でも、予測はばらばらになるのです。いくら必要かは、究極のところは誰にもわからないことが、この記事タイトルだけでもわかります。
老後のお金を効率的に作る3つのポイント
老後にお金がいくら必要になるのかはよくわかりませんが、少ししかないよりもたくさんあったほうがいいことは間違いありません。では、老後資金をできるだけ多く用意するためにはどうすればいいのでしょうか。様々な答えがあるかと思いますが、特に重要なのは以下の3点です。
- 若いうちから老後資金作りを始める
- 年齢によってポートフォリオを変える
- 容易には引き出せない形で積み立てていく
若いうちから老後資金作りを始める
老後資金を効率的に作る最大のコツは、資金作りを若いうちから始めることです。若いうちから始めると、リスク分散になるからです。
老後資金のような、確実に作るべき資金は、分散投資で少しずつ築いていくのが基本です。分散投資ときくと、投資先を複数に分ける「投資先の分散」を思い浮かべられる方が多いかと思いますが、投資期間を長期に分ける「時間の分散」も同様に重要なものです。
投資する時間を長期にすればするほど、投資の利回りは市場の平均利回りに近づいていきます。は株式も債券も不動産投資信託も一般的には利回りがプラスになるため、投資期間を伸ばすと利回りもプラスになりやすくなります。もちろん大きくプラスになる可能性も減りますが、それよりもマイナスにならないことのほうが遥かに大切です。
また、若いうちから老後資金作りを始めておけば、金融リテラシーも自然と身につき、年を取ってから詐欺話に騙される可能性が低くなります。始めのうちは少額でもいいので、とにかく投資を初めて見ることをおすすめします。
年齢によって投資先を変える
20代の人と50代の人では、投資のベストスタイルは大きく異なります。基本的に、若い人は多少リスクを負ってでも大きなリターンを目指す「攻めの投資」を行い、年をとるに連れて、リスクもリターンも少ない「守りの投資」にシフトしていくことをおすすめします。
若いうちはやり直しが効くうえ、投資に掛けられる金額も少ないので、投資で損失を出すのはそれほど怖いことではありません。多少リスクが高くても、平均利回りの高い投資を行い、積極的に増やしていく方が、最終的な利益は大きくなりやすいです。
一方、年をとるに連れて、やり直しが効かなくなり、投資にかけられる金額も大きくなります。若いうちから投資を行っていれば、この時点ですでにそれなりの資産を持っているでしょうから、次第に守りにシフトしていきます。老後資金は失えない資金なので、無理は禁物です。
ちなみに、株式及び債券に投資する場合は、その割合は株式を100-年齢%、債券を年齢%にするのが一つの目安になります。例えば30歳の場合は株式70%に対して債券30%、50歳の場合は株式50%に対して債券50%と言った具合です。
容易には引き出せない形で積み立てていく
老後資金は老後まで取っておく資金ですから、なるべく引き出しづらいところに保管して置かなければなりません。普通預金口座に入れておくと、ついつい使ってしまいがちです。要因には引き出せないところに、きちんと「保管」しておきましょう。
老後資金づくりに最適な3つの私的年金
老後の資金づくりは年金で行うのが基本です。年金の柱は国民年金、厚生年金などの公的年金ですが、これだけでは不十分なことも多いでしょう(公的年金に入らず私的年金に入ることは全くおすすめしません)。
そこで活用したいのが私的年金です。私的年金はさらに、確定給付企業年金と確定拠出年金に分けられます。また、公的年金を補完する国民年金基金という制度もあります。この4つの年金を上手に使い分けることによって、豊かな老後を実現できます。
確定給付企業年金とは
確定給付企業年金とは、年金の給付額があらかじめ決められている企業の年金です。運用者はその給付額を滞りなく給付できるように運用を行います。仮に運用に失敗した場合、企業がその穴埋めを行います。
加入者は運用に責任を追うことがなく、ただお金を払っていくだけでいいのが最大のメリットです(ただし、大幅に運用に失敗した場合、給付額が減額される可能性があります)。また、掛け金は原則として事業主が負担しますが、労働者の同意がある場合は、2分の1を上回らない範囲で、本人に負担させることも可能です。
確定給付年金は、更に「規約型」と「基金型」に分けられます。規約型の場合、企業は外部の信託銀行や生命保険会社などと契約し、その信託銀行などが賭け金の運用を行います。
いわば運用の外部委託です。加入者は信託銀行などに掛け金を払い、信託銀行などが加入者に給付を行います。加入者数の用件はなく、中小企業でも比較的導入しやすい制度です。
一方、基金型では、企業が自ら企業の外部に企業年金基金という新しい法人を作り、掛け金の運用を行います。
企業年金基金は信託銀行などとも契約しますが、あくまでも運用の主役は企業年金基金です。加入者が最低でも300名いなければ設立できないため、基本的には大企業のための制度であるといえます。
確定拠出年金とは
確定拠出年金とは、年金の給付額があらかじめ決められておらず、各人の決めた運用方法によって出た運用益によって決まる自己責任型の年金です。確定拠出年金はさらに、個人型と企業型に分けられます。
個人型では、掛け金は加入者自身が負担します。もちろん、運用の方法も加入者自身が決められます。かつては自営業者などしか入れないという欠点がありましたが、制度改正によって企業年金制度がない会社員でも入れるようになりました。
一方、企業型では掛け金は全額事業者が負担します。ただし、それを実際に運用するのは加入者自身です。
個人型であっても企業型であっても、確定拠出年金は自分でその運用資産を決めるなければなりません。反面、他人の運用失敗の責任を取らされることもないので、気楽といえば気楽です。
拠出できる金額には上限があり、例えば最も歴史がある個人型の場合は6万8000円です。
国民年金基金とは
国民年金基金とは、公的年金を保管するために作られた年金制度の一つです。厚生年金などの2階部分の年金に入れない自営業者などのために作られた制度であり、職業にかかわらず収める国民年金(1階部分)にプラスすることによって、より豊かな老後を実現することが可能です。
国民年金基金には「地域型(47都道府県)」と「職能型(25の職種)」があります。運営主体は異なりますが、年金の仕組みに差はありません。
引っ越しが少なく、将来転職の予定がある人は地域型、引っ越しを頻繁に行う人は職能型など、自身の都合に応じて加入先を決めるといいでしょう(ただし、職能型はすべての職域をカバーしているわけではありません。その場合は地域型に加入します)。
国民年金基金は「給付型」と「加入口数」を自分で自由に決めることが出来ます。給付型は全部で7種類あり、給付期間が「終身」のものと「期間限定型」のものに分けられています。終身のほうが安心ですが、年をとる前に亡くなってしまった場合は損になります(亡くなったあとで得だ損だを考えることは出来ないかもしれませんが)。
国民年金基金の掛け金の上限は毎月6万8000円ですが、この枠は確定拠出年金と共有します。例えば確定拠出年金の掛け金を毎月2万円としている場合、国民年金基金には4万8000円までしか出せません。
保険会社の年金保険はどう?
これらの私的年金とは別に、生命保険会社なども年金保険と呼ばれる保険を販売しています。年金保険は感覚的には確定給付年金に極めて近いもので、毎月一定額を拠出すると、将来保険金が受け取れる、という仕組みになっています。
これらの年金保険は公的年金保険の信頼性が下がってきた昨今において人気が出てきているようですが、公的年金、あるいは今までに紹介してきた各種私的年金と比べると、割に合わない商品です。
年金保険が最も不利な点は、所得控除の少なさです。所得控除とは、特定の条件を満たした場合に、所得から一定額が引かれる(それによって税金が安くなる)仕組みです。
確定拠出年金や国民年金基金は、掛け金に上限はありますが、支払った金額は全額所得控除になります。個人型の場合、毎月の上限額は6万8000円ですので、年間の掛け金上限額は81万6000円、したがって所得控除の上限額も81万6000円となります。
一方、個人年金保険の控除額は、支払額に応じて以下のように変動します。
年間払込保険料 | 控除額 |
---|---|
20,000円以下 | 払込保険料の全額 |
20,000円超 40,000円以下 | 払込保険料×1/2+10,000円 |
40,000円超 80,000円以下 | 払込保険料×1/4+20,000円 |
80,000円超 | 一律40,000円 |
控除額は最も多い場合でも4万円と、かなり不利な仕組みになっています。仮に毎月確定拠出年金に2万円ずつ拠出した場合、合計控除額は24万円で、所得税率+住民税率が20%ならば、4万8000円税金が安くなります。
一方、個人年金保険に2万円ずつ拠出した場合、合計控除額は4万円で、税金は8000円安くなります。同じ額を拠出しても、税金は4万円も違ってくるのです。
この差を埋められるほど個人年金保険の利率が魅力的ならば何も問題ないのですが、残念ながらそのような魅力的な個人年金保険は現状殆どありません。
個人年金はあくまで所得に相当余裕がある人向けのものであり、そうでない人にとっては優先的に選ぶような商品でないことは覚えておきましょう。
まとめ
- 老後にいくらお金が必要かは「わからない」
- 若いうちから老後に向けて資金作りを始めておくとよい
- 「確定給付企業年金」「確定拠出年金」「国民年金基金」が老後の資金づくりの基本
- 個人年金は税制や利率の観点から余りおすすめできない
老後に向けた資金作りは、早いうちから初めておくに越したことはありません。会社員の方は自分の企業の年金制度の仕組みから、自営業者の方は確定拠出年金や国民年金基金への加入検討から始めてみてください。