30代の「平均貯金額」は、なぜ実感と乖離しているのか

様々なメディアを通じて公表される「世間の平均貯金額」。この金額を見て「よその家庭はそんなに貯めているのか」と驚いた経験がある方は少なくないと思います。

しかし、平均値というデータは、典型的な世間の貯金額を知る上ではあまり役に立ちません。典型的な世間の貯金額を知りたいのならば、平均値ではなく中央値を参考にすべきです。今回の記事では、貯金額の平均値はなぜ実感からずれているのかをわかり易く解説いたします。

平均値と中央値の違い

平均値はすべての数値を合計し、データの数で割った値です。それに対して、中央値はすべてのデータを大きい順に並べたときに、ちょうど真ん中に来る値です。

数値が偶数個ある場合は、真ん中に来るデータが2つありますが、その場合は2つのデータを足して2で割ったものを中央値とします。

文字を用いた説明だけではわかりづらいと思うので、実際に平均値と中央値を計算してみます。以下の9個の貯金額データから、その平均値と中央値を割り出してみましょう。

  • 300万円
  • 360万円
  • 400万円
  • 410万円
  • 420万円
  • 450万円
  • 520万円
  • 870万円
  • 2000万円

平均値=(300万円+300万円+360万円+400万円+410万円+420万円+450万円+520万円+870万円+2000万円)÷9=670万円

中央値=9つのデータのちょうど真ん中(上から5番目、下から5番目)に来る値=420万円

平均値と中央値はなぜこんなにも違うの?

平均値は、全てのデータを合計してから、それをデータの数で割ったものです。つまり、極端に大きなデータ(多い貯金)も計算に含めます。

すると、平均値もその少数の極端に大きなデータにつられて高くなります。一方、中央値は真ん中にあるデータにしか注目しません。極端に大きなデータは無視します。この2つの値に差が出るのは当然といえます。

大多数の人は極端に多くの貯金を持っているわけではないので、高めに出た平均値と自分の貯金を比べて「世間はもっと貯金をしている」と勘違いしてしまいます。

一方、少数の極端に多くの貯金を持っている人から見た場合、平均額は自分よりも遥かに少なく見えます。結局、誰にとっても実感からはかけ離れた数字が出ます。一般的世間の貯金動向を知りたいのならば、むしろ中央値に注目すべきです。

平均値と中央値がほぼ一致するケース

なお、平均値と中央値は必ずしも一致しないわけではありません。データの分布が左右対称になっている場合、平均値と中央値は一致します。

例えば身長のデータはほぼ左右対称になるため、身長の平均値と中央値もほぼ一致します。30代の日本人の平均身長は男性で約172cm、女性で約159cmですが、これを実感と乖離していると考える方は多くはないでしょう。

ちなみに、左右対称の分布の中でも、中央が最も高く、そこから左右に遠ざかるほど低くなるもの(グラフが釣鐘型になるもの)を正規分布と言います。

正規分布は様々な社会現象や自然現象に当てはまる分布ですが、貯金額はこのようなきれいな左右対称にはならないため、平均値と中央値の差が大きくなり、それが実感との乖離を生むのです。

30代の貯金の平均値と中央値

以下の表は、30代を年収ごとに分類し、その貯金額の平均値と中央値をまとめたものです。データは金融広報中央委員会の調査を参考にしています。

出典:家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査] 平成29年調査結果

年収 平均値 中央値
収入なし
300万円未満 165万円 10万円
300~500万円未満 394万円 150万円
500~750万円未満 542万円 320万円
750~1,000万円未満 729万円 496万円
1,000~1,200万円未満 1414万円 1100万円
1,200万円以上 2085万円 1574万円

年収が高い層ほど平均値も中央値も高くなっています。そして、どの年齢層でも、平均値と中央値には大きな差があります。

特に年収の少ない層ではその差が顕著で、300万円以下の世帯では165万円と10万円、実に16倍以上の差があります。一部の貯金上手が平均を大きく押し上げているものの、半数は貯金が10万円以下しかないのです。

中央値を超えていれば安心か?

貯金が中央値を越えている場合、世間の50%よりも上位に位置しているということになります。しかし、上位50%にいれば安心なのかというと、もちろんそんなことはありません。人によって、将来発生するであろう出費は異なるからです。

健康で夫婦共働き、子供を作る予定もないという場合は上位50%に入っていなくてもそれほど危険ではありませんが、子供が複数いたり、片方が専業主婦/主夫だったりする場合は、上位50%に入っていても安心できません。

将来大きな出費が発生しそうな、もしくは収入が減りそうな世帯の場合、中央値を越えているからと行って油断していると、将来貧困に陥る可能性があります。

安心して老後を送るためにも、若い今のうちから計画的に貯金、更には貯金以外の方法も利用した、総合的な資産形成を勧めておくべきです。

「老後までにいくら必要か」を計算するのは極めて難しい

よく「老後までにいくら貯めておけば安心」という記事を目にしますが、ああいった記事の信憑性は高いものではありません。

というのも、ああいった記事はたいてい、物価上昇率を無視して、あるいは低めに見積もって書かれているからです。物価上昇率を予想するのは難しく、またデフレが長く続いた日本では物価上昇率が無視されるのは仕方のないことかもしれませんが、この物価安が将来も続く保証はありません。

例えば物価が2倍になってしまえば、貯金の実質的な購買力は半分になってしまいます。貯金の利回りは物価上昇率よりも低くなりますので、ただ貯金をするだけではジリ貧に陥る可能性が高いです。

物価が上昇するかしないか、という不確実な未来を予想することに尽力しても仕方ありません。それよりも、物価が上昇してもしなくても生きていけるような体制を整えることが大切です。そしてそのような体制を作るためには、繰り返しになりますが若いうちからの資産形成が大切になります。

老後に向けた資産形成は若いうちから始めるべき

老後に向けた資産形成は、若いうちから始めるに越したことはありません。若いうちから資産形成を始めたほうがいい理由はいろいろありますが、特に大きいのは以下の3つです。

  • 若いうちから始めることによって、資産形成に関する知識と経験を習得できる。時間があるので失敗しても取り返しが聞く
  • 若いうちから始めれば1年あたりの目標利回りは低く設定できるので、無謀な投資をしなくても済む
  • 投資期間が長くなるので、単年の大きな失敗をカバーできる

お金が必要になるイベント(子供の進学や老後など)近づいてから老後資金を貯め始めるのは、病気になりかけてから予防を始めるようなものです。それが全く無意味な努力であるとはいいませんが、病気になるはるか前に予防を始めれば、もっと効率的に、少ない労力で病気を防げます。

それと同じで、イベントのはるか前に資金の準備を始めれば、もっと効率的に、少ない労力で資金を作れます。資金の作り方については以下の記事でも解説していますので、興味がある方はそちらもご一読ください。

まとめ

  • 貯金の平均値が実感と乖離しているのは、貯金額が極端に大きい少数の人が平均を底上げしているから
  • 貯金については、平均値よりも中央値のほうが実感に近い数字が出やすい
  • 貯金が中央値を越えているから安全かというとそのようなことはまったくない
  • 作っておくべき資金は、家族構成などにも左右される
  • 資金作りは早くから始めるほど効率的に、低リスクになる

貯金額の平均値や中央値は世間の動向を知る指標にはなりますが、それ以上の意味を持つものではありません。他者の行動に過剰に気を取られることなく、資産形成を進めていくことをおすすめします。